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短編36「声の向こうに光が見える」

あらすじ

ラジオDJの声に魅了された主人公は、彼女が抱える病気の再発に気づき、心を痛める。しかし、彼女のプロフェッショナルな姿と言葉に勇気づけられた主人公は、自分の進むべき道を決意する。

『今夜も始まりました、DJ HANAEの「音のお守り」。今夜もよろしくお願いします。さて、今日はラジオをテーマにした楽曲をかけていくね。まずは、JUDY AND MARYで「RADIO」、行きましょ!』

 私はいつも勉強の時間はラジオをつける。毎週月曜日の夜中11時からいつも流れるトークと音楽は、私にとって非常に心地よいものだった。
 ラジオから流れる心地よいトーク。透き通るような声質で、時々ハスキーボイスが混じる。

 要するに、私はDJ HANAEの声が好きで好きで仕方なかったのだ。

 初めて彼女の番組を聴いたのは、私が中学2年生の時だった。
 テストの点数が悪くて、両親からひどく叱られてしまい、ベッドの中で毛布を被って泣いていた夜。どうしようもない孤独感に襲われていた私にとって、彼女の声は、まるで温かい毛布のように私を包み込んでくれた。 
 無理に励ますでもなく、ただ「大丈夫だよ」と優しく語りかけてくれる声。その声は、私の心を解き放ち、いつの間にか私を眠りへと誘っていた。

 それ以来、私は彼女のラジオを欠かさず聴くようになった。
 彼女の声は、私にとって、夜の闇を照らしてくれる、唯一の光だった。

『やっぱ名曲だね! さて、この次の……げほっ、すみません。次のコーナーは、ふつおた読んでいくね!』
 DJ HANAEは咳き込みながらも話を続けていく。
 でも、私の耳は、時折わずかな雑音を捉えていた。それは、まるで誰かが彼女の中で息を潜めているような、不自然な気配だった。

 大丈夫なんだろうか……私はなんとも言えない気分になって、勉強する手を止めてしまった。

 ――数年前、彼女は「心因性失声症」に罹患してラジオパーソナリティを休んだ時期がある。その時期の彼女のSNSはとても痛ましく、「声が枯れてしまった」「私から声を取ったらなにが残るのか」など、悲痛な投稿が見受けられていた。

 まさか、再発しかけている……?
 いや、そんな展開なんて誰も望んでいない。
 彼女の声が失われていい理由なんてない。

 しかし、現実に彼女の声はわずかに淀んで、いつもの声より弱々しく聞こえる。
 もしかして、彼女はまた、あの病気と闘っているのだろうか……?

 私はどうしようもなく、不安にかられてしまった。

 それからしばらくして、連休に合わせて公開収録イベントが開催された。私はもちろんチケットを手に入れて、会場に向かう。
 人混みをかき分けて、ステージの上のDJ HANAEを見上げると、喉には大きなスカーフが巻かれていた。会場の熱気で暑い中、それはあまりに不自然に見えた。

「今日は、来てくれてありがとうございます!」

 彼女はいつも通り流暢に話し始めるが、時折その声がかすかに震えている。それは、彼女の内側から漏れ出る悲痛な叫びのようにも聞こえた。

 公開収録が終わり、私は意を決して、スタッフ用テントに向かった。そこに、見慣れた後ろ姿。DJ HANAEだ。
 私は思わず声をあげてしまう。

「あ、あのっ! 私、HANAEさんの声、大好きで!」

 いきなりの言葉に、彼女はドリンクのストローを咥えたまま、驚いた顔で振り向く。スタッフたちも何事かとざわめいていた。
「その……喉の調子とか、気になってて……」
 私の声は徐々に小さくなっていく。冷静に考えたら、いきなりなにを言い出してるんだ私は。

「ありがと! 最前列で聞いてくれてた子だよね?」
 HANAEは瞬時にラジオパーソナリティの顔に戻ると、笑顔で答えた。私は自分を見てくれていたことが嬉しく、驚いて、ぽかんと口を開いたままになっていた。
「今日はイベントに来てくれてありがとう。勇気を持って話しかけてくれて嬉しいよ」
「私も……です。その……HANAEさんの喉、大丈夫なんですか……?」
 私の言葉に彼女は複雑そうな顔をして、困ったような笑顔で続けた。
「最悪の場合は、声が出ないかもしれない。でも、私は戦うしかないから」
 彼女はそう静かに言って、困ったような笑顔のままだ。

 ……きっと私の気持ちは見抜かれているかもしれない。
 HANAEはそう思っていた。

「でも、私にはこれしかないから。リスナーのみんなに声を届けるしか、ないからね」
 ここで彼女は心からの本当の笑顔になる。心からの想い。
「私……ずっと応援してますから! 早く治して、元気になって欲しいです!」
「ありがとう、頑張って治すね。……さて、私たちはこれから撤収準備があるから、これで失礼するね。またラジオ聞いてくれると嬉しいな」
 笑顔で手を振りながら、彼女はテントの中に消えていった。

 あまりに複雑な感情が中でせめぎ合って、つつっ、と私の瞳からは涙が流れていた。
 でも、私はその感情を言葉にすることもできず、とぼとぼと歩き始めた。

 私にできること。
 私は、声を届けたい。
 彼女が私にしてくれたように、他の誰かにも届けたい。

 それから私は、放送やアナウンスを学ぶための大学か専門学校へ通うと決めた。アナウンサーや声優になるために。たくさんの学校案内を取り寄せて、読み漁る。

 私は、彼女がそうであるように、声を届けて誰かを元気にしたいんだ。
 その強い決意が私を動かしていた。


最後までお読みいただきありがとうございました。
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また次の作品でお会いできることを楽しみにしております。

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