短編47「ちょこまか、小麦」
あらすじ
高校のバスケ部に所属する拓也は、後輩の小麦と練習することになる。小柄ながらも確かな技術を持つ小麦に、興味を持った拓也は……。
僕、高松 拓也は今日も男子バスケ部の練習に参加している。
高校の体育館で行われる練習は、本日は男女混合で、パス回しの練習が行われていた。
そこで僕は、凄い人と出会ってしまった。
的確に僕の動きを読んで、欲しい場所に正確なパスを飛ばしてくる。
うちの部にこんな上手い人、いたっけ?
僕は思わず、パスをくれた人を改めてまじまじと見つめる。
確か、1年生で後輩の山里 小麦。顎ぐらいまでのおかっぱボブを揺らしながら、コートを駆けている。
身長が140センチほどしかなく、一般的な高校1年生より20センチ近くも低い。
なのに、彼女のパスはとても確実で、安心感を覚えると言ってもよかった。
「山里。さっきのパス、凄く良かった」
休憩中、拓也はドリンクを飲む小麦の隣に座って、そう話しかけた。
その言葉に小麦は、ぼっ、と頬を赤くして、両手を目の前でばたばたと振って、聞き取れない小声でなにかを言ってから、視線を左下に落としてしまった。
その態度は、まるで大きな手で首根っこを掴まれた子猫のように、わたわたと動いていた。
(……なんか、ちょこまかしてる人だな……?)
拓也は素直にそんな感想を抱く。
この独特なキャラクターのせいか、他の女子にいじられているのもよく目撃している。それもそうだろう、と拓也は納得していた。
「これだけ上手いんだから、もっと練習したらレギュラー取れそうだな」
「え……高松先輩にそう言ってもらえるのは嬉しいですけど、私なんか無理ですよう。身長、ないですし」
「確かにポイントガードは無理かもしれないけど、シューティングガードやスモールフォワードなら、レギュラー狙えると思うけどなあ」
拓也の率直な感想に、小麦はまた照れて、視線を逸らした。
「良かったら、3ポイントシュート見てやるよ。打てるか?」
拓也は立ち上がりながら、小麦にバスケットボールを投げる。小麦は呆けた顔で受け取ってから、
「あ、あまり自信はないですけど……」
と、そう言いながら立ち上がった。
バンバン、と地面に何度かボールをバウンドさせてから、小麦が飛んだ。小柄なせいか、高い跳躍力。ゆっくりと持ち上げたボールを額の辺りで放つ。バックスピンのかかったボールは安定した弧を描いて、ゴールへと吸い込まれていった。
「……すっげぇ」
拓也はそれに素直に感動して、思わず言葉を漏らしていた。
「山里、すげーじゃん! そんだけ安定して打てたら、充分すげぇよ!」
「い、いえ、たまたまで……試合中だと、なかなか打てませんし……」
小麦がわたわたと動揺しているのに、拓也は嬉しそうな顔で続ける。
「いや、マジで自信持っていいよ。山里はいまでもすげぇし、これからもきっと上手くなるんだと思う」
拓也の言葉に、小麦は頬を赤らめたまま、動揺していた。
それから、拓也は小麦と一緒に練習する日が増えた。
通常の部活が終わった後に、小麦のシュートを見たり、パスの知識を伝えたり。小麦はそれを吸収して、さらに成長しているということが伝わってくる。
「小麦。ご飯行こっか?」
追加練習の後に拓也がそう声をかけると、小麦の顔が、ぱあっ、と明るくなった。
「はい! 高松先輩とご飯したいです」
「ああ。じゃあ、着替えたら前で待ってる」
拓也は微笑んでそう言うと、部室へと向かって行った。
「……そんなに食べるんだ?」
サラダバーの皿に盛られた、大量のサラダ。柔らかそうなレタスに、キャベツの千切り。ポテトサラダにペンネを乗せて、彩りとしてのプチトマト。
「私、もっと早く動けるようになりたくて。高松先輩みたいに身長伸びないと思いますし……」
小麦はフォークを掴むと、サラダを口に運び始めた。
拓也が不思議そうに見ていたが、小麦は目の前のサラダに夢中だ。もしゃもしゃと咀嚼を続けている。小動物みたいだな、などと思いながら拓也は見つめていた。
「……小麦って名前、猫に多いらしいんですよ」
小麦は口の中の野菜を飲み込むと、不意に、拓也に向かってそう言った。
「そうなんだ?」
「はい。だから私、もっと猫みたいにちょこまか動けるようになって、結果出したいんです」
それに拓也は微笑んで、頷いた。
翌週、女子バスケ部の練習試合が行われた。
拓也は男子バスケ部のメンバーと一緒に、隣町の高校へと向かう。
コートの上を見て、拓也は思わず叫んでいた。
「小麦!」
試合前のスターティングメンバーの挨拶。その列には、確かに小麦が並んでいた。
開始のホイッスルが鳴る。ジャンプボール。一番身長の高い相手方のメンバーがボールを横に押し出す。それをチームメンバーがすくい取る。
……と思った瞬間、小麦がボールを奪っていた。
男子バスケ部の全員が大きな歓声をあげる。
小麦は素早くドリブルで駆け上がると、ポイントガードの主将にパスを出す。主将は一気に進んで、ゴールにボールを叩き込んだ。
「すっげぇ!」
拓也は思わず叫んでいた。
まるでテレビの向こう側で見るような、スピーディな展開に心が踊る。
男子バスケ部から大きな歓声があがる。控え席の女子バスケ部員たちも手を叩いて喜んでいる。
「なあ確かさ、前回同じ相手で惨敗してなかったっけ?」
拓也は隣に座る部員に話しかけた。
「ああ、確か76-102ぐらいで大負けしてたよな……」
第4Qを迎えたスコアボードを見ると、70-70の同点。非常に良い勝負だった。
応援の熱量が上がっていく。全力で走る選手たち。
「あーっ!」
残り時間、あと5秒辺りで、相手選手の1人が叫んだ。スコアボードは88-79。
スパッ、と気持ちの良い音と共に、小麦が放った3ポイントシュートが決まる。
すぐに笛が鳴り、試合は91-79で終了していた。
拓也は思わず駆け出していた。
「小麦! 凄かったじゃん!」
興奮したまま小麦の肩を掴んで、がくがくと揺らす。疲れ切った小麦はされるがままに、がくんがくんと揺れていた。
「あ、あわわ……拓也先輩との練習の成果、出せてましたか?」
小麦が息を荒げながら、心配そうな表情で、言った。
「もちろんだよ。お前、本当にすげぇよ。やっぱり、小麦は凄い!」
拓也は感動と興奮のあまり、ただ素直な思いを口にする。それに小麦は微笑んで見せた。
彼女も達成感に包まれていたのだろう。落ち着いた素直な微笑みはまるで、いつもの子猫の姿からは想像もつかない凛とした親猫のようだった。
それからも、2人の特訓は続く。
「拓也先輩、今日も練習、お願いします!」
その声に、拓也は微笑む。
小麦は、もう猫のようにちょこまかと動くばかりではなかった。確かな強さとまっすぐな瞳で、拓也の隣に立っていた。
「ああ。次の試合も、勝利を目指して頑張ろう!」
2人の楽しそうな声が、コートに響いていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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また次の作品でお会いできることを楽しみにしております。
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