お稲荷さんはパーソナルトレーナー
拙寺の数少ない門徒さんであるN社長。
コテコテの関西人です。
「住職はんな、わてら商売人はお稲荷さんへお参りしますのや。
住職はんのお寺は、ご先祖さんの供養でっしゃろ。
うちらは商売繁盛せなあきまへん。
やっぱり、お稲荷さんでっしゃろ?」
「はい。同感です。」
大切なご門徒ですから、粗末にはできません。
「しっかし、散々なんですわ。」
「それは困りましたね。うちも金主さまですから。」
「住職はどう思いますの?
わて、ようお参りしてまっせ。
もう少し、どうにかしてもらわれへんもんですかね。」
「うちも困りますわ。」
「でっしゃろ(笑)。
最近、観光客や外国人さんがようけ来ますやろ。
ご利益が、そっちへ回ってるんとちゃいますか?」
「鋭いご指摘ですね。
私もそう睨んでました(笑)。」
二人で大笑いです。
「ところで社長さん。
毎日、お札に手を合わせておられますか?」
「忙しゅうて、ありまへんなぁ。」
「それでは、少し難しいかもしれませんね。」
実は拙寺にも、お稲荷さまをお祀りしています。
毎朝、お榊、御水、お茶、お米、お塩。
さらに御赤飯、餅菓子、そしてお稲荷さん。
お仕えするだけで、一時間近くかかります。
しかし――
私の会社は、倒産寸前まで追い込まれました。
「何のための商売繁盛のお稲荷さんや!」
そう言いたくなることもありました。
京都のお稲荷さんにも、
福岡の太宰府にも、
何度も何度もお参りしています。
それでも苦しい時は苦しい。
そこで考えが変わりました。
お稲荷さんや、お使いのお狐さまは、商売を代わりにしてくださる存在ではない。
人生という試合で戦うのは私。
お稲荷さんは、横で声を掛けてくださるパーソナルトレーナーなんです。
「頑張りなはれ。」
「商売は自分で学びなはれ。」
「応援してるで。」
そんな存在ではないかと思うのです。
社長さんは大きく頷いて、
「住職、あんた上手いこと言い張るわ。
流石やなぁ。」
そして最後に一言。
「そういや、大きなお寺の住職をクビになったと聞いたで。
もっともな話や。
阿弥陀さんを大事にしなはれ(笑)。」
……。
どちらが坊主なのか分かりません(笑)。
ちなみに、この社長さん。
見た目も、立派な坊主頭です。
