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山と温泉の物語 #04|登山初心者が最初に覚えた”防風レイヤリング”——稜線の風は別世界

平日はCADの図面と向き合って、週末は山へ。
それがサエの、いつものリズム。

金曜の夕方、図面をチェックして「よし」と思ったら、頭の中は、もう祖母山だった。

北谷登山口から国観峠が一番歩きやすいコース

祖母山の西側、北谷登山口の駐車場に着いたのは、朝の9時すぎだった。

春の山は、入口から気持ちいい。
林道の終わりの駐車場に停めると、鳥の声と、土のにおいがした。
ひんやりしてるけど、歩けばすぐ温まる。
「今日はいい日になりそう」と思いながら、
登山口の小屋で登山届を出して歩き始めた。

千間平コースは、尾根に乗るまでが少しだけ急で、 あとはひたすら、なだらかな尾根道が続く。

ふかふかした土。 黒くて柔らかくて、踏むたびに足が沈む感じ。 左右に木々が開けて、風が通って、歩くのが気持ちいい。

「こういう道が好きなんだよなあ」と、 誰に言うでもなく思いながら、ひたすら進んだ。

展望台で一息ついて、傾山方面の景色を眺める。 稜線の向こうにかすかに見える山並み。 汗が少しにじんで、「今日ちょっと暑いかも」とジャケットをザックにしまった。

国観峠に出た瞬間、空気が変わった。
広場のようになっている。
そこにお地蔵さんが一体、ぽつんとたたずんでいる。

広い草原の国観峠。
その昔からお地蔵さんが見守っている。

その横を、風がびゅっと抜けていく。
「あれ?」

さっきまでの、やわらかい風じゃない。 遮るものが何もないから、まともに体に当たってくる。 登りで汗をかいていたぶん、余計に寒い。

体温が、すごい勢いで持っていかれる感じがした。

お地蔵さんはへっちゃらな顔をして、ずっとそこにいた。 ここの風に、何十年も耐えてきたんだろうな。 ちょっと尊敬した。


稜線の風は、なめたら寒い

急いでザックを下ろして、しまっていたシェルをもう一度出す。 手袋もはめる。フードもかぶる。

「さっき暑くて脱いだのに」と思いながら、でも羽織ったら一瞬で楽になった。 風を止めるって、こういうことか。

山頂は、もっと吹いていた。

遮るものが何もない分、さっきよりもっと直接的に来る。 それでも、シェルを着ていると全然ちがう。 風の圧は感じるのに、寒くない。

山頂で少し休んで、景色を見た。

傾山の方向に、長い縦走路が伸びている。 空は青くて、雲がすこし流れていて、 遠くの山がうっすら霞んでいた。

春の山頂って、こんな感じだったっけ。
風に追い立てられながら、それでもここに来てよかったと思った。

祖母山山頂でドヤるサエ。
遙か向こうに傾山の威容が望める

下山は来た道を戻った。
国観峠のお地蔵さんの前を通るとき、
なんとなく「お疲れ様でした」と心の中で言った。

千間平の尾根道を下りながら、 「レイヤリングは要するに、状況に合わせて着替えることなんだな」と思った。 何枚着るかもあるけど、いつ、何を着るか。 稜線に出る手前で一度見直せたのは、すこしだけ賢くなった気がした。

まあ、今日は最初から脱いじゃってたんですけどね。


下山後のご褒美

北谷登山口から帰りに温泉に立ち寄った。
祖母山山頂で出会ったお兄さんから、
竹田の「月のしずく」がいいと教えてもらった。

源泉かけ流しの ”ナトリウム塩化物泉(アルカリ性)”
無色透明で、さらっとしていて、弱い塩味がある。
地元の常連さんや、登山帰りの人たちに長く愛されてきた温泉だ。
美肌効果もあるらしい。

湯船に手を入れた瞬間、
「あ、指先まだ冷えてたんだ」と気づいた。
じわーっと戻ってくる感じ。
肩の力が抜けて、フードの中で縮こまってた首がほどける。

温泉風呂で山の疲れが流れていく。
熱すぎず、ゆるすぎず丁度いい。このままずっと浸かっていたい。

施設の中に、”電気風呂”があった。
「せっかくだから」と体を沈めてスイッチを入れた瞬間——

ビリビリっ。

思わず飛び出しそうになった。
筋肉に直接、電気が流れる感じ。
痛いわけじゃないけど、とにかくびっくりする。

慣れてくると、じんわり温まってきた。
疲れた脚には悪くないかもしれない、
とあとで思った。

サウナにも挑戦してみた。低温ミストサウナ、40℃
これなら入りやすいかも」と扉を開けた。

体を拭かずに入ってしまった
ーーこれ、あとで知った失敗。
本当は、しっかり水気をとってから入るのがお作法らしい。
びしょびしょのまま入ったので余計に蒸れて、1分ほどで限界になった。

えへへ。

扉を開けながら「こんなに早く出る人いるんかな」と思った。少し恥ずかしかった。

でも——あのサウナの熱の中にいる感覚は、
なんかわかった気がした。
次はお作法を覚えてから、もう一回だね。
今日は偵察、ということにしておこう。

露天で風に当たるときも、山の上での風とぜんぜん違う。温かくて、のんびりして、追われている感じがしない。

この差が気持ちよくて、また山と温泉に来てしまうんです。♨️


サエのひとこと

樹林帯で「今日あったかいな」と思って、そのまま稜線に出ると、強烈に寒くなる。 国観峠みたいな開けた草原は、特に要注意。
登りで汗をかいていると、余計に冷える。

フリースは暖かいのに、風が来たら意味がない。
薄いシェルを一枚羽織っただけで、世界が変わった。

上だけじゃなくて、脚と手と頭も同じ。
風を止めるか止めないかで、体の持ちがぜんぜん違う。

そして「稜線に出てから羽織る」では、もう遅い。
樹林帯を抜ける前に、一度確認したい。それだけで、あとがずっと体が楽になる。

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次回予告

稜線の風は、ほんと容赦ない。
でも一枚羽織って、手と頭を守っただけで、全然違う。
「備えるって、偉い」と思った。

温泉で満タン。♨️ ……って油断してた。
下山で「明るいはず」が、おかしい。
続きは次回、第5話。🌬️


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