見出し画像

【山と温泉の物語】#05|まだ空は明るいのに、森が真っ暗ーーヘッドライトの話

山頂が、あまりにも綺麗で。
風がちょうどよくて。
雲が流れていくのを、ずっと見ていたくて。

「もう少しだけ」——が、積み重なると。
下山が、ちょっと遅くなる。(あるある)

でも今日は、日没前に余裕で下りきれるはずだった。だから油断してた。

……樹林帯に入るまでは。


この連載について

九州の山と温泉が好きなサエの小さな山旅。山のこと少し覚えて、最後にひとつ安全を持ち帰る連載です。♨️

サエの平日
平日は、工事現場のCADオペレーター。図面を作って、現場の手配や段取りを整えてる。だから山でも「準備とチェック」が癖になってる。

私が書いた建築施工図だよ。説明もがんばる。

三俣山で、ちょっとだけ欲張った

吉部登山口から入って、坊がつるを経由して、三俣山へ。最後に寄ったのは、西峰。

山頂はひろくて360度の大展望!

360度に、くじゅうの稜線がばーっと広がって。
ちょうどいい感じに雲が流れてて。

「……これ、撮らないと」

スマホ構えて、角度変えて、また構えて。
風景の切り取り方を変えながら、何枚撮ったかわからない。

はっ、として時間をみたら、
あら。予定より、だいぶ過ぎてる。

——でも日没までには戻れる。余裕、余裕。
(この余裕感が、あとで消えることになる)

法華院温泉山荘を通って

急ぎ気味で下りながら、坊がつるへ向かう途中、法華院温泉山荘の前を通りかかった。

くじゅうの山中、標高約1,300mに建つ山小屋で、すぐ横を流れる川沿いに温泉が湧いている。

岩が黄色く染まって、硫黄のにおいがぷんと漂う、温泉に入れる貴重な山小屋だ。日帰り入浴もできる。

山小屋の玄関でちょっとひとやすみ

玄関のおくから笑い声がかすかに聞こえてくる。ちょっと覗いたら、登山客がテーブルで寛いでいた。湯上りらしき人もいる。

いつかここに来た時に、疲れた脚でここの温泉に浸かって。夜は山小屋のごはんを食べて。……それ、最高じゃないか。

「今日は寄らないけど、いつか絶対😉」
そう心に刻んで、また歩きはじめた。

法華院温泉山荘を過ぎる

坊がつるを横目に

法華院温泉山荘から急ぎ気味で下りながら、坊がつるへ向かう。山荘から始まる林道を少し歩くと、坊がヅルの草原に出た。

坊ガツルのキャンプ場はとっても広い。
しかもタダ。

ここは九州でも指折りの人気テント場。広い草原に、トイレも自炊場も整って、しかも無料で使える。

法華院温泉山荘まで歩いて10〜15分ほどで、温泉に浸かって、ビールや飲み物を買って戻ってくる——そんな山の贅沢が楽しめる場所だ。

見渡すと、色とりどりのテントが点々と張られていた。静かで、のびのびしていて。くじゅうの山々に囲まれた、湿原にある。

いつかここでテントを張って、法華院の温泉に浸かって。夜はキャンプごはんを食べて、あの稜線を眺めながら朝を迎えたい。
……それ、最高じゃないか。

「今日は寄らないけど、いつか絶対」
そう心に刻んで、通り過ぎ登山口へ歩いていった。
「いつか」が、この日だけで2つになった。


樹林帯に入った瞬間に

坊がつるから吉部への道。
沢沿いの樹林帯に入るまでは、まだ空が見えていた。

明るかった。本当に。
……でも、沢沿い斜面に入って、木が増えてきたとたん、急に、暗くなった。

空が消えて、緑のトンネルだけになる。
葉の隙間から差し込む光が、ぐっと細くなる。足元の色が、全体的にくすむ。

日没まで、まだ1時間以上ある。なのに、これ。
木が茂っているところって、こんなに暗くなるのか。これは予想していなかった。

焦ると、足が速くなる

足元が、見えるようでよく見えない。

木の根っこ、段差、落ち葉の下の石。
普段なら「あ、根っこね」で終わるものが、なんか急にワナっぽく見える。

で、焦る。すると、足が速くなる。
足が速くなると、足運びが雑になる。
……これ、あんまり良くないやつだ。

一回、止まる。深呼吸。
落ち着け、私。

スマホライトは、どうだろう

ザックを開けながら、ちょっと思った。

「スマホのライトで、いけるんじゃないか」
みんなスマホ持ってるし、懐中電灯くらいの明るさはあるし。

……で、実際に点けてみると、わかる。
近い。めちゃくちゃ近い。

足元の「そこだけ」が明るくなる。
でも少し先が見えない。横も見えない。

それに、ライトを点けてるあいだ、
バッテリーがぐんぐん減っていく。
(第3話で散々懲りたやつだ……)

地図が見れなくなる、連絡できなくなる。
それは、さすがにまずい。

ここで、ヘッテンを装着

トップポケットに手を伸ばして、
ヘッドライトを出す。
頭にバンドを付けて、スイッチon。

……あ〜、見える。

道が、道になった。段差が段差として見える。
根っこが根っこだってわかる。
そして、何より。落ち着く。

歩くスピードが、自然と戻る。
しっかりと、一歩ずつ。いつもの歩き方。

ヘッドライトは、明かりというより
——安心、そのもの、だね。

調子に乗っていっぱい写真撮ったけど。
帰りの森の中は薄暗くなっていた。

落ち着いて歩き出したら、森の奥から鹿の声がした。「ピィーッ」っていう、あの独特の鳴き声。

暗い森はちょっと怖いけど、生きてる場所なんだな、と思ったら、なんか少し和らいだ。

下山後は、山恵の湯へ

吉部登山口に戻って、そのまま車で移動。
向かったのは、九重星生ホテルの「山恵の湯」。
日帰り入浴ができる温泉。

到着したら、建物の灯りが暖色で滲んでいた。
湯けむりが、夕暮れの空にふわっと上がってる。

——あ〜……来た来た。

暖かい光の中に吸い込まれるように入って、露天風呂へ。くじゅうの山々を眺めながら浸かる温泉。足が、じわじわと緩んでいく。

さっきまでの暗い樹林帯は、もう遠い世界
「.......生き返る」♨️

暗い森から、夕暮れの湯へ。
今日の締めは、これでいい。

展望露天風呂「山恵の湯」さっき登った三俣山を眺めながら。

👉 山恵の湯の泉質・湯船の種類・日帰り情報は
【増補版】で紹介する予定です。


💡安全メモ(今日の持ち帰り)

  1. 出発前に 点灯チェック
    (明るさ・モード切替)

  2. 電池式:入れっぱなし注意。
    定期交換 or 予備電池

  3. 充電式:前夜に フル充電
    (スマホと一緒に"習慣化")

  4. 取り出しやすい場所へ
    (ザックの奥に封印しない)

  5. 樹林帯・山かげの斜面・曇天は
    「暗くなる前提」で準備する

  6. スマホのライトは最後の手段
    (連絡手段=命綱)

👉 ヘッドライトについてもっと詳しくは【増補版】で。


次回予告

次回 第6話:山のコーヒーは、私のご褒美

景色がいいと、サエはつい立ち止まる。
写真を撮って、深呼吸して——そして思う。
「コーヒー淹れたい」。

山で飲む一杯は、なんでこんなに美味しいのか。ドリップバッグから、風の日の小ワザ、お供のおやつまで。山のコーヒーを楽しくする話、次回です。


いいなと思ったら応援しよう!