異端な君へ、弾圧された「異端思想」入門の入門|③マキャベリという異端者『君主論』
「異端思想」とは、正統な考えから逸脱した思想です。正統とは、キリスト教正統派の考え方を指します。当時の異端思想を見てみましょう!
中世の異端者、マキャベリの『君主論』を追ってみましょう。
ルネサンス時代の新しい統治論の誕生
1513年、イタリアのマキャベリは『君主論』という書物を発表しました。それまでの宗教(道徳)による統治ではなく、自立した人間達が主体となってどのように国を統治すべきか、という発想で書かれました。
当時のイタリアは複数の国に分かれ、キリスト教、ローマ教皇の権力下にありました。かといって人民は信仰に厚いわけでもなく、バラバラにすごしているのです。それは、政治制度によって、より良い状態にすることができると考えました。具体的に言えば、イタリア半島の統一です。古代ローマ共和制を理想としていました。
マキャベリの宗教観
マキャベリは、ローマ教会の現体制を批判しますが、無宗教ではありません。キリスト教(新訳)ができた当時のままであれば、今頃はもっと良い国になっていたはずだ、と述べています。宗教は人間を善に導く有効な手段だと確信しています。
つまり、現在の宗教の在り方や、国家の在り方に不満があるだけで宗教自体を否定はしていません。当時のイタリア半島は、小国同士が常にけん制しあう不安定な状態で、多くの国民(多数派)が安心していられない状況でした。
マキャベリの人間観と権力
人間は、「社会状態」にある時は、法に基づき良く振舞うが、「自然状態」になると、身勝手な行動を行う(性悪説)。それらを治めて国を安定させるには、「強い権力」が必要となる。結果として国が安定を得られるのであれば、君主が強硬的な手段をとっても構わない、と述べています。
このころの「権力」とは、国を安定させるには不可欠なもので、国家運営の根本であり、必要で有効な手段とプラスに考えられていました。
教皇が権力を振るうことについては次のように考えられていました。教皇は神から信託を受けている。教皇やローマ教会の解釈は神の正しい在り方を示している。教皇は神に代わってこの世を統治する正当性があり、統べる少数派である、という理屈です。
『君主論』国家の立ち振る舞い 「キツネ」と「ライオン」
国家の権力の振るい方について、キツネ(詐術)とライオン(凶暴)に例えて説明しています。国は統治する強力な権力を持ち、キツネとライオンの2面性をうまく使って、国を安定させる必要がある、とのこと。
①キツネ的側面(詐術):約束は守らなくていい
君主は、約束を守ることで、自分に不利になったり、約束した理由がなくなったりする場合は、迷わずその約束を反故(ほご)にすべき。
②ライオン的側面(凶暴):恐怖による統制
君主は、国益のためであれば、恐怖的な政策をとっても構わない。迷わずするべき。
③「善人」のふりをする
表向きは、慈悲深く、誠実で、宗教心にあふれた「善人」に見えるよう装うこと。
④変幻自在に立ち回ること:キツネとライオンの使い分け
状況や時勢に変化があった場合は、それまでのやり方に固執せず、柔軟に立ち回るべき。方向転換しても弁明する必要がない。嘘つきになることを恐れない。批判を恐れない。有利な結果をもぎ取るべき。
しかし、統べる側の少数派が、権力をふるって多数派を一方的に押さえつければいい、ということを言っているのではありません。結果として、国(多数派)の人がより良く暮らせるならば手段を選ばずに行うべきだ、と限定して述べています。「国の幸福」を実現することが目的なのです。自覚のない多数派からは、反対意見が出ると思いますが、啓蒙や罰することも必要である、と考えました。
その結果として、有名な言葉が残っています。
「政治の目的は国家の維持と繁栄であり、そのためには手段を選ばない」
なかなか強硬な理論ですね。
おわりに
マキャベリの『君主論』は、当時のキリスト教正統派が、君主として妥当でない場合は、打ち倒されるべきだ、という理由につながる(根拠に成り得る)可能性があります。
キリスト教正統派は、現体制を脅かす思想であると判断して、この本を禁書(非合法)と認定しました。
しかし、『君主論』に惹かれた者たちによって、水面下で、保存・再販・翻訳されて、現在まで読み継がれてきました。デカルト、スピノザ、モンテスキューの本棚には、この『君主論』があったそうです。
マキャベリの主張は、多数派の幸福を切り捨ててはいないのです。その点については、その後の社会契約説にインスピレーションを与えたかもしれません。また、市民を性悪説と仮定して、それを前提として統治の在り方を展開したことは、非道徳的と考える人もいると思いますが、とても現実的だと感じました。現代人が読んでも、一定の真理や気づきがあるんじゃないでしょうか。
次回は、スピノザの神学です!
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