【インターフォン】#4 創作大賞2026ミステリー小説部門
出てくるのを身構えていたが、いつまで経っても誰も現れない。
しばらくすると、再びインターフォンから声が聞こえてきた。
『ちょっと、どういうことなの?』
「あの……待ってるんですが」
『あなた、家の前にいないじゃない!』
「家って何ですか? 私はホームセンターにいるんですって」
『え……? どういうこと? この家のインターフォンを押してるんじゃないの?』
どういうことだろう。
まるで、この販売用インターフォンがこの人の家へ繋がっているみたいな言い方だ。
陽菜は混乱しながらも、これまでの経緯を順番に説明した。
相手は少し黙り込んだあと、小さく息を漏らす。
『おかしなこともあるのね。電波の混線……みたいなものなのかしら?』
「でも、この通話も普通なら数分で自動的に切れるはずですよね。なんだか変ですね」
『本当、不思議ね。』
女性は少し笑いながら言った。
『私、出産したばかりで育児が大変なの。だから、なんだか久しぶりに楽しかったわ』
陽菜も同じ気持ちだった。
「私も四月に上京してきたばかりで、慣れない仕事に疲れてたんです。今も、その……やり場のない気持ちを店員さんにぶつけようと思って、インターフォン押しちゃって」
『そうなのね』
柔らかな声が返ってくる。
『でも、あなたのおかげでとても楽しかったわ』
陽菜も自然と笑みが零れた。
でもこのまま通話を切ってしまえば、またあの孤独の中へ戻ってしまう気がした。
少し迷ってから、陽菜はおそるおそる口を開いた。
「あの……私、またこのインターフォン押してもいいですか?」
さすがに変に思われるかもしれない。
そう思ったが、女性は優しく笑った。
『えぇ。また押して』
赤ちゃんの小さな声が遠くで聞こえる。
『次も繋がるかは分からないけど、楽しみにしてるわ』
「はい!私も楽しみにしてます。」
その日の帰り道、陽菜は久しぶりに気分が晴れていることに気づいた。
続く
