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【連載第13回】中小企業診断士が実践して分かったDeep Researchの「使える条件」と「落とし穴」

「千葉で新規営業先を探したい」

中小企業診断士さんが、支援先の企業経営者から、そんな相談を受けました。

神奈川県に本拠地を置く精密金属加工メーカーです。主要取引先の業界は停滞気味で、売上も横ばいが続いていました。千葉県へ営業拠点を新設し、新規取引先を開拓したいとのご要望です。

当社は、この中小企業診断士さんの生成AI活用を支援する中で、GeminiやChatGPTのDeep Researchを活用しました。業界構造の把握は、驚くほど短時間で進みます。ただし条件があります。背景情報を正しく与えた場合に限るという点です。

今回は実際の支援事例をもとに、Deep Researchが使える条件と、見落としがちな落とし穴をお伝えします。

まず試した「ざっくりプロンプト」の結果

最初に試したのは、簡易的なプロンプトです。

千葉県で精密金属加工の新規営業先を探しています。
有望な業界を教えてください。
市場分析もお願いします。
自社情報:○○○(URL貼り付け)

一見すると有益な調査レポートに見えますが、一般的な業界概要の羅列で、経営者の課題を解決する粒度ではありません。「凄いね」と言われても、「使える!」にはまだ至ってません。

中小企業診断士や士業、コンサルタントなど、ピンポイントな課題問題を解決する職業では、顧客の生の課題に刺さらないと「生成AIが凄いのは分かるけど、うちはどうしたら良いの?」と聞かれて終わりです。

原因は指示の仕方にあります。Deep Researchは情報収集と構造整理に優れた仕組みです。ただし背景が曖昧なまま投げると、出力も曖昧になります。

何を聞くかより、どんな前提で聞くかが結果を左右する。研修でも繰り返しお伝えしている原則が、ここでもそのまま当てはまりました。


背景を精緻に与えたプロンプト設計

次に、クライアントの状況を丁寧に整理してからプロンプトを設計しました。実際に投げた内容は以下のとおりです。

以下の条件を踏まえた上で、構造的に分析してください。 そして新規アタックリストを作成してください。

【企業背景】
・自社情報:●●(URL貼り付け)
・主要取引先は金属加工業界だが、市場成長が鈍化
・売上の分散と新規顧客開拓が経営課題
【技術的強み】
・高精度な曲げ加工技術を保有
・理想的な曲げ角
・曲げ強度を実現可能
・小ロット対応可
【戦略意図】
・千葉県に新営業拠点を新設
・既存業界の延長ではなく、技術が活きる隣接市場を開拓したい
【依頼内容】
1.既存業界の構造的課題を整理
2.技術強みが活きる隣接市場候補を3〜5提示
3.千葉県内での産業分布と整合性を分析
4.優先順位の仮説を提示
5.検証に必要な追加情報も示す

一般論ではなく、戦略仮説を立てる前提で整理し、 新規アタックリストを作成してください。

ここまで与えて初めて、使える分析が返ってきます。

  • 既存業界の構造分析

  • 隣接市場の洗い出し

  • 技術が活きる用途の特定

  • 千葉県内の関連産業分布

経営判断に使える粒度の情報が揃いました。

2つのプロンプトの差は明確です。前者は「何を探すか」だけ。

後者は

  • なぜ探すか

  • 何を活かすか

  • どこで勝つか

まで含んでいます。プロンプト設計の差が、出力の質を決めています。

Deep Researchで短縮できた工程

今回の支援で、Deep Researchが担った工程を整理します。

  • 業界構造の俯瞰

  • 競合ポジションの確認

  • 技術優位性の言語化

  • 隣接セグメントの抽出

  • 千葉県内の地域特性の分析

従来であれば、Web検索や業界レポートの確認、統計データの参照、仮説メモの作成で数時間から数日かかる作業です。Deep Researchなら、叩き台は短時間で揃います。

ただし注意点もあります。出てきた情報をそのまま提案には使いません。当社の支援では、Deep Researchの出力を「検証すべき仮説」として扱います。最終判断に必要なのは、企業の戦略意図や技術の深さ、現場の実態、経営者の覚悟です。AIの出力を起点にしつつ、クライアントとの対話で検証する工程は省けません。

問いそのものが変わった

今回のケースで最も価値があったのは、分析結果ではありません。問いの立て方が変わった点にあります。

当初の相談は「千葉で営業先を探したい」でした。しかしDeep Researchへの指示を設計する過程で、問いが変わりました。「自社の技術優位性が活きる隣接市場を、構造的に狙う」という方向へシフトしたのです。

地域から考える営業ではなく、強みから逆算する市場戦略へ。この転換は、クライアントの背景を整理してプロンプトに落とし込む作業がきっかけでした。

Deep Researchへの指示出しは、コンサルの現場で行うクライアントの背景整理と本質的に同じ作業です。意向を深く理解し、生成AIに正確に伝える。そのプロセス自体が、思考を研ぎ澄ます機会になります。

まとめ

中小企業診断士の経営コンサルティングにおいて、業界分析や市場構造の把握は欠かせない作業です。Deep Researchは、情報収集と構造整理の時間を大きく短縮してくれます。

ただし、背景と文脈を与えなければ出力はぼやけます。「何を聞くか」ではなく「どんな前提で聞くか」。この設計力が、Deep Researchを活かせるかどうかの分かれ目です。

当社では中小企業診断士をはじめ、経営コンサル業務でのAI活用支援にも取り組んでいます。現場の判断力とAIの情報処理力を掛け合わせる方法を、一緒に探していきましょう。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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