短歌「目をつぶる」|シロクマ文芸部
目をつぶる
箸の川より
猫の手が
鮭をさらひて
家族知らず
晩御飯前の食卓に、一人でいた。
以前、一緒に暮らした黒猫が、いつの間にかテーブルへ上がっていた。
その日の晩御飯は焼き魚である。
あまりイタズラをする子ではなかったのだが、その日に限って違った。
前足が、魚へ伸びる。
チョン。
また、チョン。
その仕草を見て、熊が川で鮭を捕る姿を思った。
あっ、と声が出そうになった。
慌てて自分の魚と取り換えようとした。
その時だった。
家族の足音が近づいてきた。
猫は食卓から去っていった。
私は手を止めた。
家族は、食べ物のことには少し神経質である。
だから――目をつぶった。
何事もなかったように、皆が席につく。
黒猫も知らぬ顔をしている。
そして我が家では、
その夜もまた、平和な晩御飯が始まった。
