【日めくり】三本の矢を束ねて、春を射る【3月28日】
兵庫県川西市。
かつて源満仲が放った三本の矢が落ちたという伝説が残る高台。
そこにある展望テラスのベンチに、
19歳の「三葉(みつば)」は座っていました。
「三つの葉が寄り添って幸せを運ぶように」と
名付けられた彼女でしたが、
今の心境は、
今にもちぎれてしまいそうな一枚の葉のように不安定でした。
この春からのデザイン専門学校への進学を控え、
現実は容赦なく押し寄せます。
教材費や生活費のために削られた通帳の数字をスマートフォンの画面で確認するたび、
胸の奥が冷たく冷える感覚。
夢を追う情熱はあるはずなのに、
日々のアルバイトで疲れ果て、
肝心のデッサンに向き合うための気力や健やかな体調が追いつきません。
SNSを開けば、大学生活を満喫する友人たちの眩しい投稿が並び、自分だけが取り残されたような孤独な焦りが募ります。
「……また、一人で空回りしてるな」
ふと見上げると、テラスの隅に
『蜜屋(みつや)』
という小さな蜂蜜専門店がありました。
吸い込まれるように扉を開けると、甘い香りが三葉を包みます。
「お疲れ様。今日は3月28日、三ツ矢サイダーの日なんですよ。この地がルーツのね」
店主の女性が、三葉の疲れを見透かしたように微笑みました。
差し出されたのは、三種類の蜂蜜をブレンドした黄金色の飲み物。
「三ツ矢の由来となった満仲公の矢も、戦国武将の毛利元就が説いた三本の矢も、教えは同じ。一本の矢は脆くても、三本束ねれば折れない。あなたにとっての、自分を支える三本の矢は何かしら?」
三葉は、喉を潤す温かな甘みに、
強張っていた肩の力が抜けるのを感じました。
「私、将来の目標ばかりを一心不乱に追いかけて、一本の矢を必死に飛ばそうとしていました。でも、それを支える日々の暮らしの基盤も、自分をいたわる休息の時間も、同じくらい大切な矢だったんですね……」
三葉の瞳に、ようやく透明な光が戻りました。
大切なのは、
一本の矢だけで無理に的を射抜こうとすることではなく、三つの要素をバランスよく丁寧に束ねていくこと。
「三ツ矢サイダーのように、弾ける強さも必要ね」
店主の言葉に背中を押され、
店を出た三葉はリュックから一本のサイダーを取り出しました。
今日は3月28日。
自分の名前に込められた意味と、
伝説や歴史が教えてくれた三本の矢の知恵が重なった、特別な日。
シュワリと弾ける泡の音は、
張り詰めていた彼女の心を解き、
新しい季節へ踏み出すための、
優しい合図のように響きました。
〜あとがき〜
今日という日が、あなたにとって、
三本の矢(夢・生活・休息)をバランスよく
束ねて歩み出す、
心地よい一日になりますように♥

翌日の物語はこちら:
※本記事は個人の創作によるショートショート小説であり、実在の人物・団体・施設等とは一切関係ありません。
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