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【マロニエの木の下で】二章(狩り)

 「今日の収穫は18000円か・・・」前回よりも5000円多い。

 慎也はコンビニに向かって歩いていた。枯れ葉が足元を舞う。
左手の指の間からは血が滲んでいる。
もっともこれは左手でアイツを殴った証・・・。

 アイツは鼻からも口からも血を流していた。
逃げようとするアイツを押さえつけ何発殴っただろうか。
殴るたびに酒の臭いが鼻を突き、そのことが余計に慎也を苛立たせた。
「最初から全額出しちょったらこんなに殴られんですんだがぞ!」
白髪交じりの頭を鷲掴みにして慎也は吐き捨てるように言った。

 無抵抗なサンドバックを殴っているようだった。
殴られて当然のヤツだ・・・慎也は自分に言い聞かせた。

 ビール瓶を叩き割り、逃げる母を追いかけようとするアイツを、幼い慎也がすがり付いて止めようとした事があった。
跳ねのけられた時、左手首からひじにかけて冷たい感触が走った。
パックリと開いた切り傷から滴り落ちる血を、慎也の小さな手ではとても押さえきれなかった。
驚きと恐怖に震えながらタオルを巻き付けて血を止めようとしたが、何枚重ねても白いタオルはすぐに赤く染まった。

 慎也はこんな自分の記憶を追いやっていたはずなのに時折、残像が蘇ってくるのだ。

 アイツと俺は絶対に違う!同じわけがない!
怯えきったアイツの目を憎悪しつつも赤い残像の中でアイツと重なっていく俺。
「うおぉーーーー!」
突然慎也は路上で絞り出すような声を上げた。
信号待ちをしていた人たちは一瞬凍り付いた。
寝巻の上にジャンバーを羽織り、サンダル履きの慎也の姿は異様に映った。
周りには誰もいなくなった。

 空っ風に吹かれて転がりゆく枯れ葉の様に、慎也もその風に押され流されていった。
コンビニに着くと、おおよその食料やタバコなどを買い、残金を全て使ってウェブマネーに変え、家に帰った。

 母の夏美は台所にいた。
「何か食べるかね?」
慎也はその声に反応せず自分の部屋に向かう。
「どうするが?」
「なんもいらん!」
そう言って部屋に入ると買ってきた缶コーヒーを取り出し、パソコンの前に座った。

 しばらくして母親がドアの向こうで何か言っている。
どうやら俺の仕事の事を言っているようだ・・・。

灰皿が飛んだ。



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