【マロニエの木の下で】十六章(贈り物)
「西崎君、こっちはうんと降りよるけん今日仕事は休みにするぜ」と浜脇さんから連絡があった。
慎也は履いていた作業ズボンを脱いだ。
「今日は雨で仕事が休みになったけん」と台所にいる母に伝えた。
「じゃあこれはお昼に食べたや」とテーブルに置き仕事に出かけた。
今日の様に急に予定が無くなることに慣れていない慎也は困惑してしまった。
以前の慎也であればバーチャルの世界で暇な時間など全く感じたことがなかったからだ。
したい事も思いつかず、見るでもなくテレビを点けた。
9時を過ぎた頃チャイムが鳴った。
慎也宛の郵便物だった。
白色で少し厚めのクッション封筒だった。
差出人はFrom CoCoとあり、住所は書かれていなかった。
予期せぬ贈り物に暫く声も出なかった。
慎也は受け取った封筒を両手で優しく包み込んだ。
丁寧にゆっくりとに封を剥がしていった。
親愛なるシンへ
あなたが好きなシャガールの展覧会があったので見に行ってきました。
とても感動したのでDVDを贈ります。
絵葉書はココとお揃いだよ。
初めてのハガキの時と同じく丸く小さな文字で丁寧に書かれた手紙とDVD、絵葉書2枚も同封されてあった。
今のこの気持ちを素直に伝えたいと思い電話をした。
タダイマ オカケニナッタ デンワバンゴウハ・・・・・・
またあのアナウンスだった。
「そうだ、今ココは仕事中だ」と慎也は思うことにした。
そして昼休みの時間帯に合わせてメールを送った。
一番嬉しい贈り物をありがとう。
シャガールの生前の映像を初めて見ることが出来てとても感動しました。
前にくれた詩のハガキと今日の手紙を何度も読み返しています。
その夜ココからメールが来た。
今夜は電話ができないの
ごめんね。
喜んでもらえてよかった。
シン、あなたの事が大好きだよ。
いつもより短いメールだと感じたが、世界中の誰よりも自分が一番幸せだと思える夜だった。
メールの後、ココの絵を描きたくてたまらなくなりキャンバスを取り出した。
三日月の上に一人の女性、遠くにある真っ赤な太陽、それを引き寄せているようなイメージで描いていった。
慎也はその絵をココに見てもらいたいと思った。
