【マロニエの木の下で】十章(シンヤ)
21:12
慎也は久しぶりに指定席のこげ茶色の座布団に座った。
箱の中にはアイと、ナノがいた。
ヨル>久しぶり!
アイ>ヨル!いったい何してたのよ!
ナノ>お前誰だっけ?
なんてなwお久!
ヨル>うん、久しぶりだね!
アイ>ヨルがちっともINしてくれないから
私ナノさんのグループに入れてもらって
ナノさんやセーナさんのINする
平日は昼間に遊ぶようになったんだからね!
ナノ>www
ヨル>ごめんよ・・・
アイ>!
ナノ>!
ナノ>お前今なんつった?
ヨル>INできなくてごめんよ
アイ>キミ?本当にヨル?
ナノ>なんかヨルっぽくないんだが?
ヨル>え?俺なんか変な事言った?
アイ>なんか『ごめんよ』なんてらしくない
ナノ>うん・・・らしくないな
ヨル>www
俺ってこの世界でも
常識なかったんだなwww
アイ>!?
ナノ>なんか乗っ取りとかじゃねぇよな?
ヨル>違うわ!www
アイ>よかったwww
ナノ>久々にヨルも帰ってきたことだし
新しいダンジョンに行こうぜ!
アイ>うんうん!GO!GO!
ヨル>ちょっと話があるんだけどいいかな?
アイ>話って?
ナノ>なんだい?
ヨル>実は俺、ゲームを辞めることにした
アイ>え?
ナノ>なぬ?
アイ>まあまあ冗談はいいからさ
早くダンジョンに行こうよ!
ヨル>アイ?冗談なんかじゃないんだよ
突然こんなこと言ってごめんよ
アイ>どうして?
これから楽しくなるのに・・・
来週には新しくアップデートされるよ!
ナノ>ヨル?何かあったのか?
ヨル>正直、金がなくなったからかなw
アイ>そんな理由だったら
別にゲーム辞めなくても
バイトとかすればいいじゃん!
ヨル>そうだね・・・でも理由は
それだけじゃないんだよ
みんなとこうして遊ぶのは楽しいし
いつまでもこの世界にずっと居ようって
思ってたけど
もうヨルでいたくなくなったんだ・・・
アイ>なにそれ意味わかんない・・・
ナノ>ふむふむ
ナノ>ヨル?
ヨル>?
ナノ>理由はよく分からないけど
ヨルが辞めたいならそうすればいい
アイ>ナノさん!どうして止めないの?
ヨルにもう会えなくなるんだよ?
ナノ>アイ?そんなん言ってても
すぐに戻ってくるってw
アイ>絶対戻ってくるんだよ!
バイトして戻ってくるんだよ!
絶対だよ?
ヨル>w
ナノ>じゃあなヨル!
二度と戻ってくんなよ!
どうせすぐに『お帰り!』だろうけどw
アイ>もう!ナノさん余計な事言わない!
ヨル>アイ?ナノっち?ありがとう!
みんなにもよろしく!
ヨル>さよなら
慎也は二年間つけっぱなしだった27インチの箱の電源を切った。
パソコンのファンの音が止まり、ずっと点滅し続けていたモデムのランプも瞬きを止めた。
一気に暗くなった部屋に白い光が入り込んでくる。
慎也は窓から顔を出し、空を眺めた。
冷たい空気が一気に慎也の体を包んだ。
「俺の名前はシンヤだ・・・」
そう呟いた空には、三ヶ月前に眺めた丸く大きな月が慎也を優しく見下ろしていた。
