人工衛星のレイアウトを地獄のパズルに変える「電磁適合性(EMC)」の深淵
〜8月23日 07:30
本編では、海外ベンダーとの泥臭い交渉や調達のリアルについてお話ししました。
しかし、機器の調達は、「注文をする前」から始まります。
機器が満たすべき「基準」を決めるのです。
(規格・スペックとよびます)
そして、ある規格が衛星システム全体の最適化において
頭痛の種になることが多いです。
それが、電磁適合性(EMC:Electromagnetic Compatibility)です。
一言で言えば、衛星に乗る機器同士が
「自分の出す妨害波で誰かに迷惑をかけず、
相手の妨害波で自分が狂わない」ための設計思想です。
皆さんも、電子レンジの近くでイヤホンからの音が途切れる、
という経験をされたことがあるのではないでしょうか?
「人体には一切影響がない」電子レンジでさえ、近くにいると通信に影響を出すのです。
人工衛星という限られた空間に、
強力な電波を放つアンテナと、
極めて繊細なセンサー
が同居する様子を考えてください。
そこでは、「わずか数センチの配置ミス」が、
プロジェクト全体の生死を分けることになります。
今回は、教科書的な知識を超えた、現場のエンジニアが血を吐く思いで調整する「EMC設計の裏側」を深掘りします。
EMCを支配するの4つの視点
衛星のEMCを考えるとき、私たちは常に頭の中に
4つの視点を描いています。
電源の放射: 自ら出す電圧変動(ノイズ)が、電源コードを通じてほかの機器に行かないようにする。
空間の放射: 空間に放つ電波(ノイズ)が、ほかの機器に行かないようにする。
電源の耐性: 他者のノイズを、電源ラインから受けても問題ないようにする。
空間の耐性: ほかの機器が放つ電波を浴びても問題ないようにする。
つまり、
「放射をできるだけ抑え」
「耐性をできるだけ高める」
ことで機器同士が隣り合っていても平気なようにする、
というのが基本的なEMC設計の思想です。
この4つの視点すべてをすべてクリアしなければ、
衛星という閉じた環境にいる機器たちは
宇宙で生き残りをかけた「デスゲーム」をすることになります。
例えば、ある機器が電源ラインに電圧変動(ノイズ)を出してしまうと、
隣の精密機器の計測結果を狂わせるかもしれません。
あるいは、アンテナから放たれた強力な電波が、
近くにある機器の回路に電流を逆流させてしまうかもしれません。
いずれも機器の動作に影響が懸念されるだけでなく、
場合によっては「機器が壊れる」ことになりかねません。
あるいは、壊れるだけであればまだいいかもしれません。
衛星には、「爆管」と呼ばれる「爆発物」が載っているのです。
アンテナや太陽光パネルなど、
「畳んで打ち上げるべきもの」を固定しておいて、
開きたい時に爆破させて固定を解除します。
もしノイズが「爆管」を意図せず作動させてしまうとどうなるでしょう?
更にそれが、まだ打ち上げられていない、
地上での作業や試験中だったらどうなるでしょう?
何メートルもある大きなアンテナや太陽光パネルが急に落ちてくるのです。
もしも周りに人がいる状態でそんな事故が起きたら、
怪我どころでは済まないでしょう。
衛星や周りの物、設備へのダメージも計り知れません。
「構体外機器」という名の、地獄のパズル
特にエンジニアを悩ませるのが、衛星の外側に露出している「構体外機器」です。
衛星の外側には、地上と通信するための巨大なアンテナが鎮座しています。
一方で、宇宙の太陽光を捉えるセンサーや、
姿勢を制御するスラスターなども表面に配置しなければなりません。
さらには、例えば「地球を観測するセンサー」など、
衛星を作る目的そのものも、衛星の外側に搭載されることが少なくありません。
ここで最悪の事態が起こります。
アンテナという「超敏感な高感度センサー」のすぐ隣で、
アンテナが出す「高出力の電波を浴びながら」
別の機器が正常に動かないといけないのです。
特に高周波帯の通信を行う衛星では、通常の測定では
「周囲のノイズ」に埋もれてしまうような微弱な放射すら、
アンテナの受信感度を致命的に下げてしまう原因になります。
さらにことを難解にするのが、
「どんな周波数でどれくらい影響を受けるのか」は
衛星ごとに違うことです。
「どの周波数を使うのか」や「どこにアンテナを配置するのか」
そして「どれくらいの出力で電波を放射するか」は
衛星毎に通信帯域や地上局の場所などに応じて最適化されるのです。
そのため、構体外機器に対する電磁適合性要求は衛星ごとに変わるため、
その度に問題ないか確認する必要があります。
電波暗室という「静寂の戦場」
放射と耐性、その微細なバランスを証明するために、
私たちは機器を「電波暗室」に運び込みます。
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7月24日 07:30 〜 8月23日 07:30
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