AI小説 星を信じた日 3年生0学期編
1年生編、2年生編は以下から↓
第1章 ふたたび、空をつなぐ
3月、星陽高校の校舎には、まだ春の気配が遠かった。
新学年を控えた春休み。天文部の活動は自主参加のかたちで続いていたが、蓮はこの静けさの中にも、次に踏み出すべき何かを感じていた。
年が明けてからの日々――。紗英や奏、斎藤、江島――後輩たちが、ぎこちなくも新年度に向けて成長していく様子。
そして、何より自分自身の気持ち。
1月に見つけた、かつての先輩が残した手紙。
「誰かと星を見てほしい」という願い。
あれを読んでからというもの、蓮の中にはずっと引っかかっていた言葉があった。
「もっと、誰かと空を見たい」
そう思ったとき、ふと浮かんだのが、かつての合同合宿で出会った他校の天文部員たちの顔だった。
—
「……もう一度、集まれないかな。あのメンバーで」
放課後の部室でつぶやいた蓮に、最初に反応したのは江島だった。
「オンラインなら、やれるかもしれませんよ。前にフォローしあってた人たち、まだアカウント残ってますし」
「春休みだし、もしかしたら時間とれるかもね」と斎藤も頷いた。
「でも、ただ集まるだけじゃ、話題続かないんじゃないかな」
そう言ったのは奏だった。
「せっかくだし、“観測会”って名目にしない? それぞれの学校で空を見ながら、通話つないで」
「いいじゃんそれ。名前もつけようよ!」と紗英が笑った。「『再会観測会』とか!」
蓮はその言葉に、小さく微笑んだ。
気がつけば、すでに彼らが動き出していた。
自分が思っていた以上に、次の星を見ようとしていた。
—
その夜、蓮は一通一通、丁寧にメッセージを送った。
「春休み、また一緒に星を見ませんか?」
「それぞれの場所で空を見上げながら、あの日の続きをやりませんか?」
返信は、予想以上に早く、温かかった。
「ちょうど機材の点検してたところだった!やるやる!」
「うちの部も新入生にアピールしたくて。協力します」
「雪はまだあるけど……雲が切れたらいけそう!」
わずか数日で、20校近くが名乗りを上げた。
それぞれの学校に事情があり、機材も環境も異なる。それでも「空を見たい」という気持ちは、確かにそこにあった。
—
観測会は、ZoomとSkySafariの画面共有を併用した、オンラインの“つながる星見”。
使用する望遠鏡のセッティングやタイムスケジュール、天候による中止基準、当日のMC役――
細かいことは山ほどあったが、それでも準備は楽しかった。
蓮は自分でも驚くほど自然に、次々とやるべきことを見つけ、後輩たちに振り分けていった。
斎藤と江島は、他校との連絡係。
奏はタイムライン作成と観測対象の選定。
紗英はデザインを引き受け、広報スライドを作った。
3月10日――
「全国高校再会観測会」の実施が、正式に決定された。
その日の夜。蓮は部室のベンチでひとり空を見上げた。
まだ春の星座には早い時期。けれど、東の空にはほんのりと、うしかい座のアークトゥルスが顔を出していた。
「また、誰かと星を見る」
その当たり前のことが、こんなにも胸を熱くさせるのだということを、蓮はこの1年で学んだのだった。
遠くの誰かと空を共有する――
それは、今や「可能な夢」だった。
第2章 星の下で、はじめまして
「じゃあ……始めますか」
画面の向こうで、蓮の声がやや緊張気味に響いた。
Zoomのウィンドウには、全国各地から参加した高校の天文部員たちがずらりと並んでいた。最初は音声トラブルや背景のぼやけで笑いも起きたが、開始時間が近づくにつれて、全体が少しずつ引き締まっていく。
春休みの観測会――第1回 全国高校合同天文合宿・オンラインセッション。
その名前には、ささやかながらも「これからの伝統になるかもしれない」という願いが込められていた。
時間は午後7時半。
画面に写る部員たちは、校舎の屋上、郊外の空き地、自宅の庭など、それぞれの「観測地」に陣取っていた。もちろん、天候の関係で参加できない学校もある。だがそれでも、最終的に14校、40人を超える高校生たちが集った。
MC役は、蓮と、東北の名門校・鳴瀬学園の3年生・若林遥斗が務めた。
「では、まず一言ずつ、参加校の自己紹介からいきましょうか。星陽高校、どうぞ」
カメラの前に立つ蓮の背後に、紗英、奏、江島、斎藤がぎこちなく並ぶ。
「星陽高校天文部です。部員は6人、春に2年生になります。今日は4人で参加しています。自分たちで星空をつなげるのは、今日が初めての試みです。うまくいくか分かりませんが、楽しみにしています。よろしくお願いします」
短く頭を下げると、Zoomのチャットが一斉に反応した。
蓮が少し気まずそうに苦笑いする横で、奏がボソッと漏らした。
「なんか、オフ会っぽいですね……」
「ほんと、部員以外の顔見るの久しぶりかも」と紗英が言う。
「でも、同じ“好き”を持ってる人たちが、こんなにいるんだなって、ちょっと安心しますよね」
江島の声には、珍しく感情がにじんでいた。
その後も、東京、長野、福岡、和歌山……と、さまざまな学校が自己紹介を終えていった。地方の訛り、地方の空、そして地方の天文部の空気。それぞれが、そのままその学校の色になっていた。
夜8時過ぎ。
いよいよ、観測本番が始まった。
この日のターゲットは、春の月としし座のレグルス、そして晴れていればM44(かに座のプレセペ星団)。
SkySafariの画面共有をしながら、望遠鏡の導入や写り具合をリアルタイムで見せ合う。
学校ごとの違いがあらわになり、時折「あー!ずれた!」「やばい、電池切れた!」という声に、笑いも起きる。
「星陽、月入りました! あ、これ…クレーター、ちょっとブレてますけど……」
奏が調整しながら声を上げ、江島がピントを合わせる。
斎藤はスマホでその映像をキャプチャしながら、「よし……SNS用いけるな」とつぶやいた。
「よし、こっちも月ゲット! ついでに土星も少し見えてきたよ」
別の学校からの声に、Zoomの画面がどっと沸いた。
「……こんな風に、リアルタイムで空を見せ合えるなんて、すごい時代だよね」
紗英が静かに言った。
「たしかに。空って、個人のものだと思ってた」
斎藤も同意する。
「でも、こうしてつなげると、ほんのちょっとだけ、みんなのものになる気がしますね」
江島がぽつりとつぶやいた。
その一言に、蓮はふと手紙の言葉を思い出していた。
「誰かと星を見ることは、世界を少しやさしくすることだと、私は信じている」
あの日の先輩の想いが、今まさに、形になり始めている気がした。
午後9時。
最後に、全員での「一枚空」を撮ることになった。
それぞれが撮影した月の写真を、ひとつのコラージュ画像に仕上げる。
月はひとつ。でも、その見え方は、角度も、色も、光も、みんな違った。
「……この差、いいですね」
若林が言った。
「空って、平等だって言われるけど、たぶんちょっと違う。
それぞれの場所、それぞれの見方があって。
でも、それでも“同じ空を見てる”って思えるのが、いいんだと思います」
その言葉に、蓮はふっと息を漏らしながら、微笑んだ。
夜10時。
全員で手を振りながら、観測会は終了した。
画面が消えたあと、部室の空気は、しばらく静かだった。
「……終わりましたね」
江島がぼそっとつぶやく。
「みんな、楽しそうだったな」
奏が小さく笑う。
「……来年も、やれたらいいですね」
斎藤が机に頬杖をつきながら言うと、
「やるよ。来年も。きっと」
蓮の声が、夜の部室に静かに響いた。
その言葉に、誰も返事はしなかった。
ただ、全員がその言葉を心の中で、もう一度繰り返していた。
第3章 言葉で、空を描く
春休みが終盤に差しかかる頃。蓮は、天文部のSlackに新しいスレッドを立ち上げた。
#企画案:プラネタリウム甲子園(仮)
タイトルは少し大げさかもしれない。けれど、先日の合同合宿を終えてなお、胸の奥にはまだ熱がくすぶっていた。あの夜、遠くの空で星を導入し、見せ合い、笑い合った仲間たち。あのつながりを、一度きりのイベントで終わらせたくなかった。
そんなある夜、蓮はネットでふと目にした記事を思い出していた。
「全国の高校生が、プラネタリウムで“言葉と演出”を競う『星の語り部コンテスト』」
数年前まで開催されていたが、コロナ禍以降は休止状態らしい。
けれど、それを自分たちの手で、今の時代に合わせてリメイクできないだろうか――。
そうして生まれたのが、「プラネタリウム甲子園」だった。
「要は、プラネタリウムの“番組”を自分たちで作るってこと?」
奏が眉をひそめた。
「そう。ナレーション原稿と、映像スライド、それにBGMや演出込みで、10分以内の作品をつくって発表する」
蓮は手元のノートパソコンをスクリーンに映しながら説明を続けた。
「オンライン開催にして、参加者の作品をZoomで発表してもらって、希望者に視聴してもらう。観客投票で“感動した作品賞”みたいなものも決める」
「それって……星空じゃなくて、“物語”を見せるってことですか?」
斎藤が、少し興味ありげに尋ねた。
「そう。実際に空を見せる観測会じゃなくて、言葉と映像と音で“星を見せる”。
誰かの目を借りて、心の中に星を描いてもらう。……そういう企画なんだ」
江島が、ぽんと膝を打った。
「なるほど、それはそれで、“見せる人の力”が問われるわけですね」
「星の語り部か……なんか、燃えるな」
斎藤が珍しく乗り気だ。
「でもさ……うち、プラネタリウム設備ないけど、大丈夫?」
奏が心配そうに尋ねる。
「問題ない。今回は“仮想プラネタリウム”として、PC上で作れるプレゼン資料を中心にする。無料ソフトや画像素材を使って、誰でも参加できるようにする」
蓮の説明に、部室の空気が徐々に熱を帯び始めていく。
その夜、蓮はもう一度Slackを開き、合同合宿でつながった14校の部長たちにメッセージを送った。
🌌新企画のお誘いです!
「全国高校プラネタリウム甲子園(オンライン)」
ルール:10分以内のオリジナル番組(ナレーション+スライド)
形式:Zoomで配信・観覧自由
審査方法:参加者+観客による投票
興味のある学校、ぜひ一緒に作りましょう!
最初に返信があったのは、和歌山の部長だった。
めっちゃいい!うちの1年、プレゼン好きなんで食いつきます!
ついで、鳴瀬学園の若林も「参加希望!」と即答。
蓮の目元に思わず笑みが浮かぶ。
「よし、じゃあ始めよう。
星を、今度は“声”で、届ける番だ」
数日後
校内にある視聴覚室にて。蓮たちは部員たちとともに、原稿づくりの打ち合わせを始めていた。
「テーマはどうする?」
江島がノートをめくる。
「夜空の旅」「星座の神話」「未来の宇宙」「好きな星を紹介」……案は山ほど出た。
けれど、どれも“誰でもできそう”に感じられて、ピンと来ない。
そんな中、紗英がぽつりと口を開いた。
「……“空を信じられなかった人”に、もう一度星を見せる話、ってどうかな」
一瞬、視聴覚室の空気が止まった。
「……それって、あのときの……」
奏が蓮の顔をそっと見やる。
蓮は、うなずいた。
「いいかも。それ、自分たちの話だ」
それは、蓮たちが歩んできた2年間の物語。
諦めそうになった星、手放しかけた夢、それを拾い直すまでの時間――
「じゃあ、主人公は“かつて星を嫌ってた高校生”ってのはどうですか?」
斎藤が言った。
「で、誰かと出会って、また星を見上げるようになる、と」
江島が続ける。
「なんか、ありきたりだけど……それでも、うちらがやったら説得力あるかも」
奏が笑った。
そのとき、蓮の中にひとつの映像が浮かんだ。
夜の空に、ひとり立つ少女。
そこへ、誰かがそっと望遠鏡を差し出す。
「見える?」「うん」――ただそれだけの、でも決定的な瞬間。
「よし……やろう。うちらだけの、空の物語を」
第4章 見えない空に、手を伸ばす
発表当日。
星陽高等学校の視聴覚室には、午前中から独特の緊張感が漂っていた。
スクリーン、音響、照明、Zoomの配信設定。
最後の機材チェックを終えた蓮は、部室の窓の外に目をやった。
三月末の空は霞がかっていたが、春を思わせるやわらかな光に満ちていた。
「よし、あとは信じるだけだな」
「その言い方、なんかフラグっぽくてやめて」
奏が笑いながらも、手元の原稿をしっかり握っていた。
発表順はくじ引きで決まり、星陽高は全12校中の7番目。
午後の枠ということで、しばらくは観覧に回ることになった。
どの学校の発表も、それぞれの色を持っていた。
ある学校は星座神話を大胆に再構成し、音楽と語りで“星の演劇”を演じた。
また別の学校は、理系らしく超新星爆発のしくみをシミュレーションしながら「宇宙の死と再生」を語った。
オンラインであっても、表現の力は画面越しに確かに伝わってくる。
「……うまいな、あそこ。音の入り方が自然」
「ナレーションが落ち着いてる。聴いてて疲れない」
江島や斎藤がプロの目線で感想を漏らすたび、緊張がじわりと蓮の背を押してくる。
そして、午後2時20分。
星陽高天文部の出番がやってきた。
タイトルは――『あの日、星が見えなかった君へ』
ナレーションが始まる。
「昔、星が嫌いだった。
夜空なんて、ただの黒い空にしか見えなかった。
望遠鏡をのぞいても、ピントは合わず、見えるのは自分の影ばかり――」
蓮の声は、スクリーンに映る静かな星空とともに、少しずつ会場を包み込んでいく。
「でも、ある日。
誰かが言った。『じゃあ、星が好きな人に聞いてみれば?』と」
画面には、架空の“天文サークル”が描かれていた。
笑顔で空を見上げ、架空の蓮に向かって望遠鏡を差し出す。
「それから、少しずつ世界が変わった。
星は、誰かと見るとき、はじめて“見えるもの”になる」
静かに流れるピアノの音。
ナレーションはクライマックスに向かって加速していく。
「そして、気づいたんだ。
自分も誰かに、星を見せる側になりたいって。
あの日の自分のように、
まだ見えない空を怖がる誰かの、手を取る人に――」
ラストシーン、画面には架空の主人公が望遠鏡をかついで夜道を歩いていく後ろ姿。
その上に、蓮の最後のセリフが重なる。
「星は遠い。でも、心はもっと遠くに届く。
僕らは今日も、誰かの空を見上げている」
発表が終わった瞬間、画面越しに拍手のエフェクトが溢れた。
「いい話だった!」「泣きかけた……」
Zoomのコメント欄が一気に流れる。
星陽高の視聴覚室では、誰もすぐには言葉を出せなかった。
奏が、ふっと涙を拭っていた。
江島と斎藤は、にやりと顔を見合わせ、軽くグータッチを交わす。
そして蓮もまた、深く息をついた。
「ああ……終わったんだな」
終わったと同時に、胸の奥が少し軽くなる。
その日の夜。すべての発表が終了し、結果発表が行われた。
「感動した作品賞」「音楽演出賞」「構成力賞」など、視聴者投票により様々な賞が贈られた。
星陽高は、「語り部賞」と「構成力賞」の二つを獲得した。
「たくさんの“君”に、星を見せてくれてありがとう」
そんなメッセージとともに、全国の高校から感想が届いた。
Zoomの配信が終了したあと、蓮はSlackに、こう書き込んだ。
「次は、直接空の下で会おう。
――全国合同星見合宿、夏、開催予定」
誰かがすぐに「賛成!」とリアクションした。
そのあとも「参加希望」「もう予約した!」「星って、ほんとにすごい」と、にぎやかなスタンプの嵐が続いた。
――今度は、画面の向こうじゃなく。
本物の空の下で、また一緒に星を見る日が、少しずつ近づいていた。
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