アネモネ 彼女の視点
一輪(彼女視点)
テーブルの上に、アネモネを一輪置いた。
花瓶じゃなくて、コップでいい。
どうせ、特別な日じゃない。
少し元気がなさそうだったから、切ってきた。
放っておいたら枯れてしまう。
そういうものは、見過ごせない。
彼女は気づいたみたいだった。
視線が、花に吸い寄せられていたから。
「枯れそうだったから」
そう言うと、彼女は何も聞かなかった。
聞かない、という選択ができるところが、
彼女のいいところだと思う。
アネモネは、綺麗だ。
派手じゃないけど、芯が強い。
水を替えれば、ちゃんと応えてくれる。
「花言葉、知ってる?」
知らないと言われたので、
少しだけ安心して教えた。
「あなたを信じて待つ、だって」
本当は、もうひとつ意味があるけど、
それは言わなかった。
言わなくても、伝わることはある。
彼女は何も言わず、
ただ頷いた。
信じてもいい、という合図だと受け取った。
待つのは、簡単だ。
追いかけるより、ずっと優しい。
相手に選ばせてあげているのだから。
「逃げたら追いかけないから」
嘘じゃない。
追いかける必要がないだけだ。
アネモネの水は、毎日替える。
多すぎても、少なすぎてもいけない。
適量を守るのは、愛情だ。
夜、照明を落としたあとも、
花はそこにある。
見えなくても、存在している。
信じて、待つ。
それは約束じゃない。
選択肢だ。
彼女が戻ってくるかどうか、
私は決めていない。
決める必要がないから。
アネモネは一輪でいい。
たくさんあれば、迷ってしまう。
選ぶ余地があるように見えてしまう。
ここには、
いつでも戻れる場所と、
黙って待っているものがあればいい。
枯れそうになったら、
また切ってくればいいのだから。
