タイガー・リリー🪶
20代の頃、オクラホマ州のコミュニティカレッジに語学留学した。
オクラホマ州は、アメリカ全土から先住民が強制移住させられた州で、その文化も色濃く残っていた。
詳しくは聞かなかったが、悲しい歴史があるようだ。
入居した寮の隣りは、ネイティブ・アメリカンの子の部屋だった。
隣人は、『ピーター・パン』に登場するタイガー・リリーの様な、華奢で可憐な女の子。
その父上は、酋長のような風貌。
父上が長い三つ編みヘアを揺らしながら彼女の荷物を運ぶ姿は、近寄りがたい威厳に満ちていた。
髪には不思議な力が宿るそうで、三つ編みは心、体、精神の統一を表現しているらしい。
私には心と精神の違いすら分からないが、彼からは自分達の文化に対する誇りを感じた。
ところでリリーちゃんの方は、ファッションも髪型もアメリカ文化にすっかり同化している。
行動も、可愛い見た目に反して大胆だ。
リリーちゃんは、クラスが終わると真っ直ぐ彼氏の部屋に直行する。
そして朝になると、シャワーと着替えのために自分の部屋に戻り、何気ない顔で授業に出席していた。
彼女とは殆ど接する機会が無かったが、成績は優秀だったらしい。
一度だけ、彼女の部屋に入ったことがある。
部屋の中は整然と片付けられていた。
扉の無いクローゼットのポールの右側にはトップス、左側にはボトムスが掛けられている。
まるでお店のように、服の長さもキチンと揃えられていた。
そして自分のベッドは、使用した形跡がない。
リリーちゃんは厳格なパパの目を逃れて、青春を謳歌していた。
カレッジには、いろんな珍しいクラスがあった。
「ライフルレンジ」という射撃訓練のクラスや、「ファーストエイド」という応急処置のクラスなど。
私はアートのクラスを取っていたが、先生はどこから見てもショーン・コネリーに瓜二つ。
ショーン先生は、とても繊細な風景画を描いていた。
学年の終わりに、私たちが描いた絵の販売会があり、そのために額を買わされる。
額は結構高かったのだが、結局私の絵は一枚も売れなかったので大損した。
寮では、度々イベントやパーティーも催された。
いろんな国から来た留学生が、それぞれの国を紹介するイベントもある。
ジャパンデーでは着物を着て、みんなで作ったお汁粉を振る舞った。
食べた学生からは、ホットチョコレートみたいで美味しいと大好評。
それからトガパーティーと言う催しがあった。
参加者全員が古代ローマのトーガを模して、シーツなどの布を纏う。
私は服の上からベッドスプレッドを纏ったが、みんなは素肌に布一枚。
文化の違いと言えど、無防備過ぎる。
なんだかヘンテコなパーティーで、私はノリについて行けなかったので早々に引き上げ、それ以降のパーティーには参加しなかった。
いろいろと楽しい寮生活だった。
でも、やはりアメリカ。
クリスマスイベントで、浮かれた学生が発砲した。
幸い怪我人は出なかったが、危険を感じた私は寮を出た。
こうして私の短い寮生活は、幕を閉じた。
いろんな国の人に出会い、いろんな文化に少しだけ触れた貴重な日々だった。
そして日本が、とても恵まれた国であることを教えられた。
