中小食品企業のAI活用はチャンスだらけだ——ただし「問い」の立て方で成果は大きく変わる
大手メーカーに15年いた自分が、中小企業に飛び込んで最初に驚いたのは、お客さんとの距離でした。
味の素時代、お客さんの声を聞くにはリサーチ会社に数百万円を払う必要がありました。調査を設計して、対象者を集めて、インタビューして、レポートにまとめてもらう。それでようやく「お客さんはどうやらこう感じているらしい」とわかる。それが当たり前だった。

ところが飲食・小売の中小企業に入って、顧客向けのイベントを開いてみたら、お客さんのほうからお金を払って来てくれる。しかも「昔あったこのメニューを復活してほしい」、「このメニュー、もっとこうしたら最高なんですけど」と、めちゃくちゃ具体的な意見をくれる。大手が何百万もかけて手に入れていた声を、ファンが自分から届けてくれる。
これが中小ブランドの強さか、と思いました。
数百万円かけていたデータが、目の前にあった
そしてもうひとつ驚いたのは、数万人規模の顧客データがすでに手元にあったこと。購買履歴も来店頻度も客単価も、全部POSやCRMの中に積み上がっている。大手メーカーからすれば、喉から手が出るほど欲しい情報です。
なのに、ほとんど活用されていなかった。
データはある。お客さんの声もある。でもそれを使いこなす仕組みがない。宝の山の上に座っているのに、掘り出す道具がない状態。
正直、ワクワクしました。だってこれ、どこから手をつけても成果が出せるということだから。おそらく多くの中小企業が、同じ状態にあると思います。
まず立ち止まって、優先順位をつけた
じゃあ自分は何から始めたか。
候補はいろいろありました。顧客データを活用したマーケティングの最適化。メニューごとの原価の見える化。人員配置の効率化。どれも手をつければ成果は出そうだった。
でも自分がやったのは、まず立ち止まって、候補を全部並べて優先順位をつけることでした。

結果、最初に選んだのはビール樽の需要予測。在庫を適正化して、発注業務を効率化する取り組みです。
なんでビール樽だったか。理由はシンプルで、様々な食材の中で圧倒的に取扱額が大きく、かつ構造がシンプルだったから。
メインのビールはドイツから仕入れていたのでリードタイムが長く、かつ取扱量も非常に多かった。だから在庫のコントロールを少し改善するだけで、削減できるコストのインパクトが大きい。しかもメニューと原価が直結しているからデータのつなぎ方がわかりやすくて、不確定要素も少ない。シンプルにやれば、大きな成果が出せる領域だった。
これは「AIで何ができるか」から考えたんじゃなくて、「事業のどこを動かせば一番利益が出るか」から逆算した結果です。
この思考のプロセスは、実はAI活用の本質的なところにつながっています。
AIに「何を聞くか」で成果は大きく変わる
2026年に入ってAIのレベルが一気に上がって、自分でも本格的に使い始めました。圧倒的に速くて質も高い。この力を中小の食品企業にこそ届けたいと思って、Fondを立ち上げました。

中小企業のAI活用は、チャンスだらけです。データがあって、課題があって、改善余地があって、しかも今のAIにはそれを解決するだけの力がある。どこから始めてもある程度の成果は出ます。
ただし、ひとつだけ知っておいてほしいことがある。
どんな「問い」を立てるかで、AIから得られる成果は大きく変わる。
たとえば、利益を増やすために売上を伸ばしたいと思ったとする。そのとき気軽に聞けるからと「売上を伸ばすにはどうしたらいいか」とAIに聞いてみる。するとAIはめちゃくちゃ的確に答えてくれる。SNS戦略、新チャネル開拓、客単価アップの施策——どれも筋が通っていて、すぐに実行できそうなアイデアが並ぶから徐々にその気になっていく。
でも、ちょっと待ってほしい。
そもそも利益を増やす方法は、売上を伸ばすことだけじゃない。コスト面を見直すだけで、もっと大きな利益改善ができるかもしれない。でもAIは「売上を伸ばす方法」と聞かれたら、売上の話しかしない。コスト面にチャンスがあっても、聞かれていなければそっちには目を向けてくれない。
AIは聞かれたことに対しては非常に的確で高度な答えを出してくれる。でも、聞かれていないことまで気を回してくれるレベルにはまだない。だからこそ、何を聞くか——「問い」の設計が、成果を大きく左右する。
自分でできる「問いの立て直し方」
じゃあどうすれば、良い問いを立てられるのか。
自分がやっているのは、すごくシンプルな方法です。コンサル的な大げさなフレームワークじゃなくて、誰でも今日からできること。

ステップ1:「そもそも何を実現したいのか」に一段戻る
「売上を伸ばすには?」と聞きたくなったら、一回立ち止まる。そもそも自分が本当に実現したいのは何か。売上を伸ばすこと自体が目的なのか、利益を増やしたいのか、それともキャッシュフローを改善したいのか。
一段上の目的に戻ってからAIに聞くだけで、返ってくる答えの幅がまったく変わります。
ステップ2:自社の数字を眺めてから聞く
P/Lでも月次の売上レポートでもいい。自社の数字をざっと見てからAIに聞く。これだけで問いの質が上がる。
たとえばP/Lを開いて、原価率が想定より高いことに気づいたとする。そうしたら「原価率を3%下げるために、見直すべきポイントを挙げてほしい」と聞ける。数字を見ずに「コスト削減するには?」と聞くのとでは、AIが出す答えの具体性が全然違います。
ステップ3:問いの粒度を変えてみる
同じテーマでも、問いの広さで返ってくる答えが変わる。
たとえば「新商品を開発したい」というテーマで考えると——
広い問い:「食品業界で今後伸びるカテゴリは?」→ 市場全体のトレンドが返ってくる
中くらいの問い:「うちの既存顧客が求めているが、まだ提供できていないものは何か?」→ 自社の顧客データを前提にした仮説が返ってくる
狭い問い:「主力商品Aの購入者が一緒に買っている他社商品を分析して」→ 具体的なクロスセルの手がかりが返ってくる
どれが正解というわけじゃない。でも「広い問い」だけを投げていると、一般論しか返ってこないし、「狭い問い」だけだと視野が限られる。**まず広く聞いて全体像を掴んでから、気になるところを狭く掘る。**この往復をやるだけで、AIとの対話の質がぐっと上がります。
もうひとつ、食品業界あるあるの例を挙げると——
「人手が足りない」という課題。これをそのまま「人手不足を解消するには?」と聞くと、採用強化やアウトソーシングの話になりがちです。でも一段戻って「現在の業務の中で、人が手でやっているが自動化できそうな作業を洗い出してほしい」と聞き直すと、AI自身が解決策になれる領域が見えてくる。問いを変えるだけで、まったく違う景色が開ける。
まず触ってみる。そして自分の事業を眺めてみる
だから自分はこう思っています。
最初のステップは、とにかくAIを触ってみること。難しく考えず、日常の業務で「これ聞いてみよう」を繰り返してみてください。中小企業にはAIで改善できるポイントがたくさんあるから、何かしらの手応えは得られるはずです。
そしてもうひとつ、やってみてほしいのは、自分の事業の数字をあらためて眺めてみること。
P/Lを開いて、売上・原価・販管費の構成を見る。どこが大きいか、どこが変動しているか。それだけで「ここをAIに聞いてみたらどうだろう」というテーマが自然と浮かんでくる。問いを立てる力って、特別なスキルじゃなくて、自分の事業をちゃんと見つめることから始まるんだと思います。
触ってみて、自分の事業を眺めてみて、「これはいける」という手応えを感じたら——そこからさらに成果を大きくするために、事業のこともAIのこともわかる人に壁打ちしてみるのも有効です。問いの設計を少し変えるだけで、AIのアウトプットが何倍にも変わることがある。自分はその経験を何度もしてきました。
道具はもう揃っている。あとは、どこに向けて使うか。
まずは自分の事業の数字を見ながら、AIに一つ聞いてみてください。
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