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求人票の読み方【ITエンジニア版】想定年収・固定残業代・「変更の範囲」の見かた

前回の記事はこちら

シリーズ第二回です。


IT系の求人票を161件、実際に読んで数えました。

そのうち固定残業代について何か書いていたのは41件。
そして、基本給がいくらなのかまで読み取れたのは、2件だけでした。

残りの39件は「月給29万円〜42万円(固定残業45時間分を含む)」のような書き方です。この求人に応募するかどうかを、基本給がいくらか分からないまま決めることになります。

前回の記事で、職種の名前は追いかけても仕方がない、追うべきは「その仕事が何を任されているか」だと書きました。ではそれはどこに書いてあるのか。答えは求人票です。

そして求人票には、法律で書くべきことが決まっています。

こんな人に向けて書いています

  • 求人票の「変更の範囲:会社の定める業務」という一行が気になった方

  • 想定年収のレンジが広すぎて、自分がどこに当たるのか分からない方

  • 応募する前に、何をどこまで聞いていいのか迷っている方

読み終えたときに、求人票のどこを見て、面接前に何を聞けばいいかが分かる状態を目指します。

結論を先に3行

  1. 2024年4月から、求人票には「変更の範囲」を書くことが求められています

  2. ただし民間媒体では、書かれていても中身はほぼ定型文でした

  3. 想定年収は「金額は出るが、内訳が出ない」状態です。内訳は自分で聞くしかありません


求人票に書くべきことは、法律で決まっています

まず前提の確認です。求人票は、企業が好きに書ける広告ではありません。

インターネットやSNSを含む広告で労働者を募集するときは、募集主の氏名または名称・住所・連絡先・業務内容・就業場所・賃金の6つを表示する必要があります。これが記載されていない場合は法令違反になる、と厚生労働省は明示しています。

そのうえで、2024年4月から明示すべき事項が3つ追加されました。職業安定法施行規則の改正によるもので、①従事すべき業務の変更の範囲 ②就業場所の変更の範囲 ③有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)の3点です。

この「変更の範囲」がこの記事の主役です。
厚生労働省のリーフレットでは、雇入れ直後にとどまらず、将来の配置転換など今後の見込みも含めた、契約期間中における変更の範囲のこと、と定義されています。

つまり本来これは、「入社後に何をやらされる可能性があるか」が書いてある欄です。

厚労省が示している記載例は「(雇入れ直後)経理 →(変更の範囲)法務の業務」「(雇入れ直後)法人営業 →(変更の範囲)製造業務を除く当社業務全般」といったものです。

ここで大事な注意点があります。 募集広告に変更の範囲が書かれていなくても、直ちに違法とは限りません。広告スペースの都合などで「詳細は面談時にお伝えします」と付したうえで、面接など求職者と最初に接触する時点までにすべての労働条件を明示する、という形も認められています。厚労省のQ&Aでも、就業場所の変更の範囲を書かずに雇入れ直後だけを示す形や、賃金を「時給1500円〜」とする形について、個別の判断にはなるものの直ちに違反とはならない、との考え方が示されています。

なので、書いていない求人を見つけても「違法だ」と決めつけないでください。そのかわり、面接までには全部聞ける、と考えてください。 法律はそちらを保障しています。


実際は「会社の定める業務」でした

では、実際の求人票にはどう書かれているのか。IT系の求人161件を数えました。

数字を文章でも置きます。ハローワーク97%(30件中29件)、type 80%(30件中24件)、リクナビNEXT 27%(26件中7件)、Green 8%(26件中2件)、doda・エン転職・Wantedlyは0%でした。

ただし、本当の発見は記載率のほうではありません。 民間媒体で記載があった31件は、例外なく定型の包括文言だったことです。たとえば「上記業務を除く当社業務全般」「会社内のすべての業務」「当社における各種業務全般」。ひとつの媒体では、24件のうち21件が一字一句同じ文言でした。

つまり「変更の範囲:会社の定める業務」と書かれている求人は、制度上は書いてあるが、読んでも何も分からない状態です。
これは求職者の読解力の問題ではありません。

一方でハローワークは中身が分かれました。記載があった29件のうち、「変更なし」と限定していたものが14件(約半数)、包括系が7件、「ITエンジニアとしての業務内で変更の可能性有」といった限定つきが3件です。

限定を明示するケースが半数近くあるのは、実査した中ではハローワークだけでした。

実務ではこう考えます 「会社の定める業務」は、嘘ではありませんが情報でもありません。この一行を見たら「異動の可能性がある」と読むのではなく、「まだ何も分かっていない」と読んで、面接で具体名を聞く。それだけで扱いやすくなります。


「月給29万円」の中身を解体する

もうひとつの主役が賃金です。

若者雇用促進法に基づく指針では、固定残業代を含める場合、3つをそろえて明示することが求められています。①固定残業代を除いた基本給の額 ②固定残業代の時間数と金額 ③その時間を超える分は割増賃金を追加で支給する旨の3点です。

「月給29万円」の内訳の例

実査した数字がこうでした。民間2媒体60件のうち、固定残業代に何か言及していたのは41件。3点セットがそろっていたのは23件。そして固定残業代を除いた基本給まで読み取れたのは、41件のうち2件です。

固定残業の時間数が読み取れた30件の分布も出しておきます。20時間が6件、30時間が5件、45時間が3件、35時間が2件、あとは40・25・17・16・12・8・7・5時間が各1件。最長は45時間分で、これは36協定における時間外労働の原則的な上限と同じ時間数です。

対してハローワークの求人票は、賃金が基本給・定額的に支払われる手当・固定残業代・その他の手当に分解して表示されます。さらに月平均の時間外労働時間が30件すべてに記載されていました(平均13.9時間、最小4時間・最大25時間)。賞与も「計2.50ヶ月分(前年度実績)」という形で実績が出ます。

同じ求人を探しているのに、媒体によって手に入る情報量がまったく違うということです。

レンジの幅にも差が出ました。年収表記の媒体は平均2.26倍(下限382万円・上限856万円)、月給表記の媒体は平均1.67倍。年収で書く媒体ほどレンジが広いという傾向がはっきり出ています。最大は4倍のものもありました。

上限の金額は、多くの場合あなたの提示額ではありません。


応募・面接の前に確かめる5つのこと

ここまでを、そのまま使える形にします。

内容を文章でも置きます。

  • 変更の範囲:「会社の定める業務」とありますが、実際に異動の可能性がある部署はどこですか

  • 基本給:固定残業代を除いた基本給はいくらですか

  • 固定残業:何時間分で、金額はいくらですか。超えた分は追加で支給されますか

  • 実際の残業:直近の月平均の時間外労働は何時間ですか

  • レンジの根拠:提示レンジの上限は、どの経験・等級の人が該当しますか

この5つは、聞いていい質問です。 前半の3つは、そもそも明示が求められている項目です。厚労省のリーフレットには「時間外労働 あり(月平均20時間)」という記載例まで載っています。聞きにくいことを無理に聞き出すのではなく、本来書いてあるはずのことを確認するだけです。

ただ、面接まで進んでから条件が合わないと分かるのは、お互いにとって時間の損です。応募する前に条件面を詰めておきたい場合は、企業に直接確認できる立場の人を挟むという方法があります。エージェントを使う実利はここにあって、非公開の求人を見るためというより、求人票に書かれていない部分を応募前に埋めるためです。転職するかどうかを決める前でも、情報収集として使えます。

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それでも食い違ったときの相談先

入社後や選考中に「聞いていた話と違う」となった場合の窓口も、整理して置いておきます。

  • ハローワークで見つけた求人の内容が実際と違った → ハローワーク求人ホットライン(03-6858-8609/全日8:30〜17:15、年末年始を除く)。事実を確認のうえ、会社に対して是正指導が行われます

  • 転職エージェント経由での説明が不十分だった/求人サイトの表示がおかしいと感じた → 都道府県労働局の職業安定部 需給調整事業課・室

  • 入社後に条件が違った、賃金が支払われない → 労働基準監督署、総合労働相談コーナー

ひとつ注意があります。求人ホットラインは、ハローワークで公開・紹介している求人が対象です。

民間の転職サイトで見つけた求人は対象外なので、そちらは労働局の窓口になります。IT系の転職では民間媒体を使う人のほうが多いはずなので、ここは間違えやすいところです。


日本の求人票は「金額は出るが、中身が出ない」

最後に、海外と比べておきます。

EUでは2026年6月から賃金透明性の指令が各国で適用され、求人票または面接前に初任給または給与レンジを応募者に知らせることが求められています。応募者に過去の賃金履歴を尋ねることも禁止されました。米ニューヨーク州やカリフォルニア州でも、募集時に報酬レンジを示す義務があります。それでも米国の求人で賃金情報が載っていた割合は、2024年9月時点で約58%です。

欧米が今やっているのは「そもそも金額を出させる」ことです。 日本の求人票は、その点ではすでに先に進んでいます。実査でも、想定年収のレンジはほぼすべての求人に書かれていました。

日本の課題は別のところにあります。金額は出るが、内訳が出ない。 レンジの上限が誰の話なのか分からず、月給に何時間分の残業代が含まれているのか分からない。求職者が引き算しないと基本給が出てこない。これは欧米とは別の種類の不透明さです。


まとめ

求人票が読みにくいのは、読み方を知らないからではありません。本来書かれるべきことが、定型文と合計額に丸められているからです。

ただ、丸められているということは、元の項目が決まっているということでもあります。変更の範囲、基本給、固定残業の時間数と金額、超過分の扱い、月平均の残業時間。この5つは、法律の側が「明示されるべき」としている項目です。求人票に書いていなければ、面接までに聞けます。

次回は、その求人票に書かれている「経験3年以上」「シニアエンジニア募集」といった条件のほうを扱います。ジュニア・ミドル・シニアに公的な定義はありませんが、企業が何を見て線を引いているかには共通点があります。


この記事で扱った範囲を、もう少し体系立てて追いたい場合は書籍のほうが早いです。

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職種を問わず、もう少し長期的なキャリアの考え方を整理したい方はこちらです。


次に読む

  • ジュニア・ミドル・シニアの違いは何で決まるのか|経験年数と実装力(第3回)

筆者厳選おすすめの記事



参考にした一次情報

  • 厚生労働省「求職者への労働条件明示のルールなどが変わります!」(職業紹介事業者向けリーフレット)

  • 厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」

  • 厚生労働省「労働者の募集広告には6情報の表示が必要です」および募集主向けQ&A(職業安定法5条の4関係)

  • 若者雇用促進法に基づく指針(固定残業代の明示)

  • ハローワークインターネットサービス「ハローワーク求人ホットライン」

  • 欧州委員会「New EU rules on pay transparency explained」(2026年6月)

  • 求人媒体の公開求人ページ 計161件(2026年8月11〜12日取得)

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