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なぜ「売らないFP」を選んだのか。顧客本位を貫くという選択【回想録(1)FPサテライトの革新1-1】

「FPさんですか!どこの保険会社を取り扱っているんですか?」
「いえ、うちは金融商品を取り扱わないFP事務所なんです。」

こんな会話を何度してきたことでしょう。FPサテライトは、2016年の創業当初から一貫して金融商品の販売を行なわず、ユーザーにとって中立中正な立場から業務を行うファイナンシャルプランナー(FP)事業者として展開してきました。

なぜこの事業コンセプトでFP事業を始めたのか、どんなスタンスで業務を行なっているのかなど、この記事で詳しく明かします。

2016年創業当時の業界状況

私が独立を志して日本FP協会の会合などに顔を出し始めた2013年頃から創業した2016年まで、独立系FPの風潮はこんな感じでした。

  • 「独立するにあたって、商品を”販売するかしないか”どっちにしようか……」

  • 「お金の相談を受けるのに、まずFPの収入が安定していることが大事だと思うので私は販売しています。」

  • 「保険とか金融商品を販売しない独立系FPは厳しいよね……」

つまり、「独立系FPは金融商品を売るも売らないも選択肢」「売らない選択は稼ぐのが難しい前提」という論調が業界内のスタンダードでした。

世の中の認知としても、「FP=保険屋さん」という認識が今以上に高かった時代です。創業前の時期は保険業法改正前で、乗り合い保険代理店である保険ショップが「中立」という言葉を使用していた時代でした。

2016年の保険業法改正で、乗り合い保険代理店(複数の保険会社の商品を取り扱っている保険代理店)は「中立」と謳って営業することが制限されています。

創業前、二人の原体験

そんな風潮の中でも創業時から一貫して「金融商品を販売しない」と決めた理由。
創業前に、私と夫は複数の保険営業現場を経験しています。夫婦それぞれの経験が、「FPが金融商品を販売するべきではない」という結論に一致しました。

「転換全盛期」の生命保険販売現場に直面

夫の町田貴規は、2000年代前半に外資系生命保険会社で保険外交員として保険の営業現場にいました。その時期、生命保険業界では「転換契約」という営業手法が横行していました。

「転換契約」とは、すでに加入している保険契約を解約し、その解約返戻金(解約時に戻ってくるお金)を新しい保険契約の加入資金に充当することを勧める”営業方法”です。

バブル期に契約された利率の高い貯蓄性保険、いわゆる「お宝保険」を解約させて貯蓄性のない掛け捨ての生命保険に契約を切り替えさせる。不景気の社会情勢を利用し顧客の不安を煽り、貯蓄性がなくなるなどのリスクをまともに説明しないまま「もっと保険金額が高額な保険にしましょう!」と転換を勧めたといいます。

保険会社は好景気で高金利だった時代の保険金支払いを逃れて利益を確保。外交員や代理店の販売員は「新規契約」扱いで営業成績、保険販売手数料UP。
一方的に既存顧客が不利益を被る結果となったのです。

この時代ど真ん中で営業現場を経験した夫は、「詐欺同然に感じた」と述べています。

転換した場合の不利益をまともに説明しない営業が蔓延った結果、2007年に複数の保険会社に業務停止命令、業務改善命令が下されることとなりました。

(余談:私は2010年代前半に大学で保険学を学び、生命保険業界の悪しき歴史としてこの一連の時代を知った後に、生き証人の夫から大学で学んだ通りの話を聞くこととなりました。)

税理士法人での保険営業

一方、私は大学卒業後に埼玉のファミリーカンパニーな税理士法人に就職しました。入社理由の一つは、保険代理店として保険事業も行っていたためです。結果として、悪い意味でその選択が後学に活きることになったと言えましょう。

ある日、某国内生命保険会社の代理店営業担当者(自社の代理店を回ってフォローする担当者)が事務所にやってきて、私の上司にこう言いました。

「今月ノルマが2件足りなくて、このままだと代理店契約解除になってしまうんです。」

焦る上司たち。そこから会社が行なった行為とは……

  1. 決算期が近いかつ利益の出ている顧問先を探し、節税手段として提案する

  2. 業務中に怪我をした顧問先の社長のもとへ「次回怪我したときに備えましょう」と営業する

そして何とか営業ノルマを達成し、代理店契約解除は免れたのでした。
めでたしめでたし……なわけがありません!
顧問先のことなどまるで考えていない、自分本位な保険営業。

100歩譲って、1.のいわゆる「節税保険」の提案は顧問先のためになっていないこともないかもしれませんが(しかし普段から顧問先のために提案しているわけでもなく、あくまで自分たちのための提案ですから顧問先本位とは言えないですよね……)、2.のような顧問先の社長が怪我をして大変な時ここぞとばかりに営業する無神経さに、ただただ軽蔑するばかりでした。

創業30年を超える老舗事務所だったこともあり、無条件に信頼して事務所の提案を疑わない顧問先も多くありましたが、その信頼を悪用していたのです。

この二つの経験から生まれた決意

それぞれが違う立場、違う時代に醜い保険営業の現場に直面したことから、夫婦の見解は完全に一致していました。

金融商品を販売しては顧客との利益相反が生じる可能性が極めて高い。
だから、何があっても金融商品は取り扱わない

そして、「FP=保険屋さん」という世の中のイメージを払拭すべく、「金融商品を販売しないFP事務所」として創業を果たしました。

「売らない」選択がもたらす困難さ

夫婦で強い理念をもって創業したFPサテライトですが、選んだ道はいばらの道、FP業の中でも最難関といえます。ここからはその理由を解説していきます。

コンサルティングフィーオンリーでの収益構造の厳しさ

そもそも金融商品を販売しない独立系FPが少ないのは、単純に「稼げないから」の一言です。以下の図をご覧ください。

拙著『よくばりに気分よく生きたい私たちに都合のいい お金の教科書』P154の図をもとに筆者編集

「保険を取り扱うFP」は、予め保険会社と保険代理店契約を締結し、お客様との相談の中で保険の提案を行い、加入してもらうことによって保険会社から販売手数料(コミッションフィー)を受け取ります。これが事業としての売上になるのです。[図 下段]

一方「コンサルティング型のFP」つまり金融商品を販売しないFPはコミッションフィーがまるっと入りません。そのため、ご相談にいらっしゃるお客様から相談料(コンサルティングフィー)をいただくのが基本的なビジネスモデルとなっています。[図 上段]

BtoCのコンサルタントであるFPがコンサルティングフィーで事業化することの難しさ……火を見るよりも明らかでしょう。

現在のコンサルティングフィーの相場として、町田の体感としてはライフプランニング相談一式(お客様のご相談内容をもとにシミュレーションして解決策を提案する一連の相談プラン)で3~6万円程度です。

しかし、実際にシミュレーション、分析、提案までオーダーメイドで対応するとなると、一式20万円程度の相場感にならないと全くコンサルティングの費用対効果に見合わないのが現状です。

商品販売による手数料収入の放棄

コンサルティングフィーオンリーの厳しさを理解いただくために、「販売する場合」と「販売しない場合」の収益構造を比較してみます。

保険代理店の場合
生命保険の販売手数料は、初年度が保険料の30%〜150%、2年目以降も継続手数料が入ります。たとえば年間保険料100万円の契約なら、初年度だけで30万円〜150万円の手数料。月に3件契約すれば、それだけで月商90万円〜450万円です。

IFAの場合
投資信託の販売手数料は約定代金の0.5%〜1.0%、預かり資産の年率0.5%〜1.5%が一般的。3,000万円の投資信託を販売すれば15万円〜30万円の手数料が入ります。

不動産仲介の場合
不動産仲介手数料は物件価格の約3%。3,000万円の物件なら96万円の仲介手数料です。

この差は歴然です。しかも、保険や金融商品の販売は「相談の流れの中で自然に提案できる」ため、営業コストもほとんどかかりません。一方、コンサルティングフィーをいただくには、お客様に「お金を払う価値がある」と納得していただく必要があります。

私たちは、この圧倒的に効率の良い収益源を、完全に放棄したのです。

コンサルティングフィーオンリーの攻略法

コンサルティングフィーのみで採算を合わせるのが無理かどうか聞かれると、全く不可能ではないと考えています。ただし、無形商材の王道モデルを例にとると、以下の手順を踏むことになります。

  1. バックエンドに20万円以上の相談サービスを設計する

  2. 綿密にマーケティング導線を設計し、実行する

  3. 自信をもってバックエンドの商品を提供する

つまり個人向け商品設計とマーケティング設計が必要になり、ハードルが非常に高く再現性が低いのです。これらをクリアして事業化に成功しているFPさんもごく少数ながらいらっしゃいます。

が、マーケティングのプロの力を借りないとなると莫大な労力がかかり、マーケティングのプロにお願いすると莫大な費用がかかる(しかもサービス設計など自身で考えなければならないことも多く結局労力も必要)ので実現できないFPが多いのです。

それでも「売らない」を徹底する

FPの仕事は個人のお客様から相談を受けるだけではありません。
企業などの団体から依頼を受け、マネーのコンテンツを執筆したり、マネーセミナーの講師を務めたりすることも立派なFPの仕事です。

これら「相談」「執筆」「講師」はFP業界内で「独立系FP三大業務」と呼ばれています。

BtoBtoCのお仕事であり、コンテンツを届ける先は個人であるもののクライアントは企業となることが多い執筆や講師の依頼。実はこんな実態があります。

クライアント商材に誘導する案件

「『おすすめの学資保険』をテーマに記事を書いてください。おすすめの商品には必ず〇〇生命の学資保険を入れること。」
「読者が変額保険に入りたくなる構成で記事を執筆してください。」

「不動産投資を始めたくなる内容のセミナー内容で講師をしてください。」
「セミナーの最後に住宅購入の個別相談へトスアップする流れにしてください。」

こんな依頼がたくさんあります。商品誘導にしっかり繋げる依頼ほど、報酬が良いのです。相談の中で金融商品を取り扱わなかったとしても、これらの依頼をお受けすればFPとして自立することができるでしょう。
実際に、投資用不動産を推奨するお話に定評があり、不動産会社から講師依頼で引っ張りだこのFPも存在します。

……しかし。これでは自身が金融商品を販売しているのと本質的には何ら変わらない。
そう判断し、FPサテライトではこれらのご依頼を全てお断りしています。


なぜそこまで徹底してきたのか。
そして、徹底した結果としてFPサテライトに何をもたらしたのか。
次回の記事に続きます。




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