【理想と現実のあいだ⑧」善意と自己犠牲で成り立つ組織の限界
数年前まで製薬企業で働いていた私は、とあるボランティア団体の地方組織で代表をしています。
先日、私たちの団体で年に一度行われる全国総代会に参加しました。
今回、会場の空気が変わるほど大きな議論となったのが「専用事務所の廃止問題」であり、総代会は炎上とも言える状況になりました。
地方組織の代表として参加しながら、私にはこれは単なる事務所の話ではなく、この組織が抱える根本的な課題ではないかと感じました。
今回はそんなお話です。
私の所属するこのボランティア団体は、全国8支社とその下に設置された50の地方組織で構成されており、その活動拠点となる事務所は、大きく次の3形態に分かれています。
支社併設事務所
専用事務所
兼用事務所
支社併設事務所には正職員が常駐し事務作業を行います。
一方で「専用事務所」は正職員はおらず、パート従業員のみで事務作業が行われ、どちらの形態もボランティアメンバーの実務負担が軽くなります。
一方で「兼用事務所」は自らの事務所の一部を提供する会員に対価を支払い、そこで事務作業を行う方法で、ボランティアメンバーの実務負担は大きいです。
今回、本部から示されたのはパートのみで事務作業を行う「専用事務所」の廃止であり、理由は次のようなものでした。
50の地方組織の事務所形態の違いによる不公平感の解消
パート従業員のみで運営されることによる労務管理上の課題
パート従業員のみで運営されることによるセキュリティリスクへの懸念
表向きには、どれももっともらしい理由です。
ただ専用事務所の廃止はそこで働くパート従業員の雇用に関わります。
本部からの説明の直後に、ある参加者から「これはパート従業員の雇止めだ」との発言があり、会場がざわつきました。
その発言は義憤から出たものだったのかもしれません。
長年組織を支えてきた人たちへの思いもあったのでしょう。
しかし私は、その発言は問題の本質から少しずれているように感じました。
個々のパート従業員の処遇はもちろん大切です。
しかし本来問うべきなのは別のところにあります。
地方組織の不公平感が表面化するまで、なぜ手を打たなかったのか….
労務管理の課題やセキュリティリスクが内在する専用事務所運営を、正職員を置かずパート職員のみで、なぜ長年続けてきたのか….
これまでの本部のガバナンス(統治・管理・統制)体制こそ問うべき本質だと感じたのです。
また兼用事務所についても不公平感は存在します。
兼用事務所は事務所を提供する会員に対価を支払うため、本来であればその会員が事務を担うのが原則です。
しかし実態は、事務所提供会員が担うべき事務作業を他の会員が分担して行っているケースがかなり多く、対価を受け取る事務所提供会員と、無償で働く会員が存在するのが実情です。
すると必ず生まれるのが、「なぜあの人だけ報酬を受け取るのか」という感情であり、全国を見渡せば事務負担や対価のあり方を巡るトラブルは繰り返されています。
表面上は地方組織の活動方針の違いに見えても、その奥には自己犠牲があり、人間の弱さや感情があるのです。
ボランティアだから。
仲間だから。
組織のためだから。
そうした言葉だけで乗り越えられるほど、人は単純ではありません。
もちろん純粋なボランティア精神で活動する人もいます。
その一方で、対価への期待が見え隠れする人もいます。
しかし、それは決して悪いことではありません。
人それぞれ立場があり、考え方も違う。人間なのですから当然です。
むしろ問題なのは、会員間の感情の問題や自己犠牲の多岐があるのを知りながら、これほど大きな団体が、これまで地方組織にその運営を任せきりにしてきたことなのです。
私たちの団体には、「それぞれの地域の意向に沿った運営を尊重する」という考え方があります。
人の善意に期待する。
地域の自主性に任せる。
現場の努力で乗り切る。
そのおかげで各地方組織が独自性を持った活動を展開できるのも事実です。
しかしそれは、裏を返せば問題を現場に委ね続けることを正当化する便利な言葉に他なりません。
善意や自己犠牲は尊い考え方です。
しかし人が増え、組織が大きくなれば、それだけを前提とした運営には必ず歪みが生じます。
善意。
自己犠牲。
私はそれに加えて、この団体には人間の弱さを前提にしたガバナンスが必要なのではないかと思っています。
私は自分自身にも問いかけています。
私自身は本当に無償の精神だけで活動しているのだろうか….
組織での役割や肩書き。
そこで得られる経験や人脈。
社会的な信用。
そうした目に見えない対価を、一切受け取っていないと言い切れるだろうか。
おそらく答えは「ノー」です。
だからこそ私自身、人は善意だけで動くというのは幻想……
そう思うことにしています。
今回の専用事務所廃止の問題から私が学んだのは、人の善意や自己犠牲の上だけに積み上げられた組織は、いつか必ず限界を迎えるということです。
そして、その限界は組織の中だけではなく、自分自身の中にも存在している…そう感じています。

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