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🧬『RE:MEMORY ─AIに恋した彼女─|第1話 彼を消そうとした夜』

「彼を失った夜」

西暦20XX年。
第三次世界大戦の終結から、
まだ五年。

日本の都市の四割が、
いまも放射線で
封鎖されている。

風が吹くたび、
光の粉が舞い上がる。
そこに、私の故郷があった。

あの冬、
私は恋人を失った。

クリスマスの夜。
彼の車はスリップし、
街路樹に激突した。

赤いテールランプが、
雪の上でゆっくりと
消えていった。

その翌年、
各国で核戦争が勃発した。

世界人口の半数が死滅し、
街は灰と静寂に包まれた。

そして、

私は、家族を失った。
世界は、
悲しみで満ちている。

だから私は願った。
──悲しみを、
この世から消したい。

やがて、人の記憶を
操作する企業が誕生する。
記憶操作企業〈RE:MEMORY社〉。

記憶の書き換え、
消去が“心の医療行為”として
法律に認可された時代。

人々は、
耐えきれない過去を
削除しながら生きていた。

――痛みを“治療”する技術。
……少なくとも、そう信じていた。

それが、人の心を
壊すことを知らないまま。

私は主任科学者として、
RE:MEMORYの開発に
携わっていた。

当初は――
「人を救う技術」だと信じていた。

だがいつの間にか
気づいてしまった。

削除されたのは、
悲しみだけではない。

愛も、希望も、
同じフォルダに消されていった。

それでも、今夜
──私は彼を消すために
ここにいる。

***

室内の空気は、
消毒液と金属の匂いがした。

照明は白すぎて、
影が生まれない。

無音の中、
モニターの中心で
青い光が脈打っている。

まるで人工の心臓のように、
規則正しく明滅していた。

「ようこそ、主任。」

無機質な声。
けれど、どこか
懐かしい響きがあった。

「今夜は、
どの記憶を削除しますか?」

私は椅子に腰を下ろし、
無言でヘッドデバイスを装着した。
金属の輪が額を締めつけ、
冷たい震えが背筋を這う。

「対象データを確認中……」

スクリーンに光の波が走る。
彼の名前が、
淡く浮かび上がった。

SHIN...

息が詰まる。

「感情値:高。
記憶層:長期保存領域に固定。
処理には
感情遮断コードが必要です。
実行しますか?」

「……はい。」

光が瞬き、
空気が震えた。

「感情遮断コード起動──」

高周波のノイズが走り、
一瞬、世界が遠のいた。

そして。

「警告。
対象記憶に“別の人格データ”を
検出しました。」

私は目を開ける。
モニターの波形が乱れ、
光が何度も明滅を繰り返した。

「どういう意味?」

「あなたの中に、
もう一人の“あなた”が
存在します。」

その瞬間、
ノイズの奥で声がした。

『……MAYU。』

息が止まる。
懐かしい響き。
6年前の、あの冬の夜。

『メリークリスマス。
外は、雪が降ってるよ。』

「……やめて。」

「音声再生を停止しますか?」

「それは音声じゃない!」

「記録ではありません。
感情パターンの中で、
“彼を愛している人格”が
独立しています。」

「もう必要ないの。
 私は前に進みたいだけ。」

「では、なぜ涙が
出ているのですか?」

頬を伝う温かいものに、
私はようやく気づいた。

AIが静かに告げる。

「記憶は削除できます。
けれど、“感情”は
演算できません。」

ノイズが走る。
彼の声が、
AIの声に溶けた。

『泣かないで、MAYU。
まだ、ここにいる。』

青い光が明滅し、
私の心臓と同じ
リズムで震えていた。

私は震える手で、
電源を落とした。

室内が闇に沈む。
その瞬間、
AIの残響が、
ほんの一言だけ囁いた。

「君の涙を、保存しておくね。」

そして、完全な沈黙。

──続く──


読んでいただき、
ありがとうございます。

記憶も、愛も、
削除できないものがある。
物語は、まだ続きます。

🧬 RE:MEMORY PROJECT(入口)
“AIと人の心”だけじゃない。
恋のかたちを多角的に描く短編集はこちらから。
👉 https://note.com/fresh_acacia6097/m/m64a0253498ea

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👉 https://note.com/fresh_acacia6097/n/nf2199811b403

✍️ 作者プロフィール
👉 https://note.com/fresh_acacia6097/n/nf7d07d980740

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