Silent Night|ー十年後の君へー 【第1話 】
聖夜の夜、届かなかったラブレター
結婚を控えて、
久しぶりに実家の部屋を
片づけることになった。
窓から入り込む埃っぽい匂いが、
十代の頃の自分を呼び戻す。
段ボールの奥から、
十代の頃のアルバムが出てきた。
ページの隅には、
小さな封筒が挟まっていた。
表には、私の名前。
書いたのは、十年前の彼だった。
まだ一度も開けたことのない、
ラブレターだった。
指先が震える。
私は小さく声に出した。
「聖夜の夜、
届かなかったラブレター」
その瞬間、胸の奥の時計が止まり、
記憶はあの冬へと引き戻されていく。
***
あの冬、君と過ごした日々
あの冬、私は高校三年生。
彼は一つ上で、大学に進んだばかり。
それでも距離は変わらなかった。
家族ぐるみで認められる関係だった。
「来年も、再来年も、
クリスマスは一緒に過ごそう」
彼は笑ってそう言った。
その声を聞くだけで、未来は全部、
歩んでいくのだと思えた。
待ち合わせは駅前の時計台。
私は白いマフラーを巻き、
片方だけの赤い手袋を
ポケットに押し込み、
雪の中で待っていた。
雪は静かに降り積もり、
時間だけが冷たく伸びていった。
18時。
18時10分。
18時20分。
彼はまだ来なかった。
それでも私は信じていた。
次の角から走ってくる、
あの姿を。
***
君へ届かない手紙
アルバムを閉じ、
私は封筒を見つめた。
銀色の封は、
まだしっかり
閉じられたまま。
十年分の言葉が、
その中に眠っている。
机からカッターを取り出し、
封に刃をあてる。
切り裂こうとした、
その瞬間――
玄関のチャイムが鳴った。
秒針がひとつ進み、
心臓の奥で雪の静けさが蘇る。
私は封筒を机に置き、
立ち上がった。
白いマフラーの端が、
膝からすべり落ちた。
ドアノブに手を伸ばしたとき、
机の上の封筒が、
かすかに光った気がした。
――続く。
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✍️ 作者について
「恋愛ノンフィクション作家」として、
救いのない愛や家族の影を描いています。
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