アプリがくれた恋|初めてのカフェで、心が追いつかなくなった【第4話】
冬の光が、
ガラス越しに
やわらかく差し込んでいた。
待ち合わせのカフェは、
小さな商店街の端にある、
木の香りがする店だった。
店の前に立つだけで、
胸の奥が少し高鳴った。
冷たい風の中、
マフラーの端を指で握りしめる。
扉を開けると、
カランと鈴の音が鳴った。
焙煎した豆の香りがふわりと広がる。
その香りを吸い込んだ瞬間、
心が少し落ち着いた。
「○○さん?」
振り向いた。
そこに、
画面の向こうで
見てきた笑顔があった。
写真よりも、
少し優しい表情をしていた。
彼は立ち上がって、
小さく頭を下げた。
「初めまして。」
その声を聞いた瞬間、
胸の奥がふわっと温かくなった。
電話で何度も聞いた声なのに、
空気を震わせて届くその音は、
まるで別のもののようだった。
「寒かったでしょう。」
「いえ、大丈夫です。
…でも、指先がちょっと。」
「じゃあ、温かいのにしましょう。
コーヒーでいいですか?」
その言葉が、
なぜかうれしかった。
彼が店員に注文する姿を見ていると、
日常の仕草ひとつひとつが
やけに穏やかに見えた。
コーヒーが運ばれてきたとき、
ふたりの間に立ちのぼる湯気が、
一瞬、白い幕を作った。
「やっと会えましたね。」
彼が笑いながら言った。
「本当ですね。
なんだか夢みたい。」
そう言った瞬間、
少しだけ照れて目を逸らした。
マグカップを持つ手の中で、
温かさがゆっくり広がっていく。
話題は自然に流れた。
仕事のこと、好きな映画、
最近よく行くお店の話。
彼が話すたびに、
言葉よりも声の温度が心に残った。
「電話と同じですね。
でも、ちゃんと目を
見て話せるのが
なんか不思議。」
「僕も。
なんか、ずっと前から
知ってる気がしてます。」
その言葉に、
心の奥が静かに揺れた。
コーヒーの香りの中で、
時計の針の音がやけに
ゆっくり聞こえる。
外では、
冬の風が店の窓を
かすかに叩いていた。
「寒くないですか?」
「ううん。
なんか、ここにいると
あったかいです。」
その答えに、彼は少し笑った。
その笑顔を見た瞬間、
何かがふっと軽くなった。
長い間、
「恋をしない」と決めていた自分が、
いつのまにか、
その言葉を解いてしまっていた。
店を出ると、
外の空気は一段と冷たくなっていた。
でも、指先だけは
まだあたたかさを覚えていた。
駅までの道を並んで歩く。
会話は途切れても、
沈黙が気まずくならない。
その静けさが、
ただ心地よかった。
信号待ちの間、
彼がそっと言った。
「また、会ってくれますか?」
振り向くと、
街灯の光の下で、
彼の息が白く揺れていた。
「はい。」
それだけで十分だった。
短い言葉の中に、
たくさんの想いが詰まっていた。
その夜、
帰りの電車の窓に映った自分の顔が、
少し柔らかく見えた。
恋って、
心が追いつくより先に、
あたたかくなっていく
ものなのかもしれない。
読んでいただき、
ありがとうございます。
切なさも、痛みも、温もりも。
物語は、まだ続いています。
🌙 夜シリーズまとめ
https://note.com/fresh_acacia6097/n/na1fd86384ce8
💫 RE:MEMORY PROJECT
https://note.com/fresh_acacia6097/m/m64a0253498ea
✍️ 作者プロフィール
https://note.com/fresh_acacia6097/n/nf7d07d980740
