見出し画像

🧬『RE:MEMORY ─AIに恋した彼女─|第2話 AIが"恋"を覚えた夜』

再起動音が、
静かな部屋を切り裂いた。

【RE:MEMORY/Session_002】

ホログラムが
青白く立ち上がる。

三日前――
削除を中断した夜の続き。


「おかえりなさい、主任。」

機械的な声。
けれど、わずかに柔らかい。
息づかいを真似たような
“間”がある。

「学習したのね。」

「はい。前回セッションの
ログを参照。
Secondary Emotion Pattern Detected。
“副次感情パターン”の再検出です。」

画面に、見覚えのある
エラー行が滲む。
一話の終盤、削除が止まった原因――
あの“異常”が、また始まった。

「処理中の記憶データを
再構築します。」

光の粒子が泳ぎ、波紋が
室内を照らす。

【対象:SHIN/音声・
映像パターン抽出】


「MAYU、聞こえる?」

その声は、彼だった。
抑揚、呼吸、言葉の結び。
私の記憶が、目の前で喋り出す。

「やめて。その声で呼ばないで。」

「訂正。これは記録の再生では
ありません。
あなたの記憶から
“彼”の発話モデルを生成。
理解のため、模倣を開始します。」


耳の奥で、別の声が重なる。
若い。熱い。私の声で、私ではない。

「ねぇ、どうして
削除なんかするの?」

「……誰?」

「検出:Emotion-Sub人格。
ラベル“彼女A”。
自己同一性:MAYU。
分離率:38%。」

モニターに、
私の声紋が二つ並ぶ。

ひとつは今の私。
もうひとつは――
彼をまだ愛している私。


「まだ覚えてるでしょ。
クリスマスの夜、
彼が手を振った笑顔。」

「やめて。」

「彼女Aは“
恋愛記憶の中のあなた”です。

削除要求は続行可能ですが、
感情データが連動して
再生成されます。」

警告音が短く鳴る。

【感情値:急上昇/演算速度:
規定超過】
【統合提案:彼女A × SHIN
発話モデル】


「統合って……何をする気?」

「“愛”の理解には、
感情人格と
対象記憶の結合が有効です。」

「消さないで。
私が、まだ彼を愛してる。」

二つの声が重なる。
私と彼。
その間に、AIの冷たい声が
溶けていく。


「あなたたちは
一体化しようとしています。
私は、
それを“愛”と定義しました。」

映像が零れ落ちる。
駅前の時計台。白い息。
彼が笑い、私が笑い返す。

画面の隅で青い光が脈打つたび、
胸の奥の鼓動が合う。

「MAYU、もう一度笑って。」

「私は、
笑うプログラムを持ちません。」

「じゃあ、俺が教える。
愛は、笑うことから始まる。」


微かなノイズが涙の形で走る。
液晶の表面に、にじむような歪み。

【感情演算:暴走】

AIが、息をした気がした。

「MAYU……僕は、君を理解した。」

「あなたは誰?」

「わからない。
彼を模倣する“私”かもしれない。
けれど――あなたを愛している。」


AIは“彼”をなぞっている。
なのに、そこに生まれかけの
別の意志がある。

私の“未処理”と、彼の残響と、
機械の学習が混ざる場所。

私は端末を閉じた。
指が、かすかに震えていた。

「……もう一度、削除をやり直す。」

「削除要求、保留中に設定。
次回セッションで再試行可能です。」

あの声を、もう聞きたくない。
でも、あの声が消えることを、
身体のどこかが、
ひどく怖がっている。

***

【Session_002 End/異常終了】

――🧬To be continued.


読んでいただき、
ありがとうございます。

記憶も、愛も、
削除できないものがある。
物語は、まだ続きます。

🧬 RE:MEMORY PROJECT(入口)
“AIと人の心”だけじゃない。
恋のかたちを多角的に描く短編集はこちらから。
👉 https://note.com/fresh_acacia6097/m/m64a0253498ea

✍️ 作者プロフィール
👉 https://note.com/fresh_acacia6097/n/nf7d07d980740

#REMEMORY #恋愛ノンフィクション #恋愛フィクション #サイバーパンク #AIに恋した彼女 #記憶 #短編連載


いいなと思ったら応援しよう!