😂じっちゃん、聞いてや!アレルギー申告が増えすぎて献立が作れない ― 学校給食の調理師・加藤さん編
七月の縁側。夏休み前の蒸し暑さ。じっちゃんがスイカにかぶりついている。種をぷっと庭に飛ばす。
「じっちゃん、種飛ばすな。行儀悪いで」諒太が言う。
「スイカの種は飛ばすもんたい。それが夏のマナーばい」
「何のマナーやねん」
免ちゃんがライトブルーのジャケットで登場。「じっちゃん、種飛ばし選手権でも出るんか」
「出たら優勝するばい」
門の方から、白衣の女性が歩いてきた。
「すみません。加藤と申します。免田さんの弟さんの奥様にご紹介いただいて」
白衣に三角巾。エプロンのポケットから温度計がのぞいている。四十代の女性。学校給食の調理師、加藤さん。免ちゃんの弟の嫁が小学校のPTA役員で、給食室の加藤さんが悩んでいると聞いた。
「加藤さん、まぁ座りなさい。スイカ食うか」
加藤さんが座って、スイカを一切れ受け取る。でもなかなか口をつけない。
「アレルギー対応のことなんです」
「117話の前田さんの時と似とるな」免ちゃんが言う。
「あの、誤解されがちなんですけど、うちは申告書だけで動いてるわけやないんです。医師が書く『学校生活管理指導表』が必ず要る。それがないと除去食は出せません」
「ちゃんとした仕組みなんやな」諒太が言う。
「はい。でも、その書類が正しいとは限らんのです。乳児健診の血液検査だけで『卵アレルギー』と診断されて、指導表が出た子がおるんですけど、五年生になった今も同じ書類のまま。家では普通に卵焼き食べとる、と担任から聞きました」
「更新されとらんのか」
「保護者からしたら、治ったかどうかを確かめるのに、また病院連れて行って、負荷試験受けさせて……手間なんですよ。だから『念のため』で古い書類のまま出し続ける家庭がある。医師の側も、親の申告だけで慎重に広めの診断書を書くことがあるんです」
加藤さんが温度計をいじる。
「書類は正規のもんです。でも、その裏にある実態が見えん。私は書類通りに、その子の卵を抜いて作る。それでええんか、過剰にその子から食べる自由を奪っとるんちゃうか、分からんくなるんです」
「対応できん場合は弁当持参にすればええんやないんか」諒太が聞く。
「もちろんそれが原則です。でも実際は、給食だけみんなと同じものを食べさせたい、弁当だと目立つ、いう親の気持ちもあって……線引きが難しいんです」
じっちゃんがスイカの種をもう一つ飛ばしてから、口を開いた。
「加藤さん。あんたが怖いのは、書類の裏側まで疑ってしまうことやろ」
「……はい。信じなあかんのに、疑ってしまう自分がおって」
「その迷いが、あんたの武器たい」
加藤さんが顔を上げる。
「書類の中身が古いか新しいか、本物か念のためか、それを見極めるんはあんたの仕事やない。医者と親の仕事たい。あんたの仕事は、出された書類を信じて、その通りに作ることばい」
「加藤さん。疑い出したら、あんたの手は止まる。書類が正しいと信じて、その一皿を丁寧に作る。それだけで、あんたは自分の仕事をちゃんと果たしとるんたい」
加藤さんの手が止まる。
免ちゃんが「加藤さん一人で判断せんでええってことやな」とうなずく。
諒太が言う。「学校と保護者、医師の間の話やから、加藤さんが背負う話やないですよ」
加藤さんがやっとスイカを一口かじった。「……そうですね。書類を信じて、目の前の子を守る。それだけ考えます」
じっちゃんが飴ちゃんを一つ、加藤さんの手のひらに乗せた。
「加藤さん。あんたの給食で元気になった子が何百人おると思う。書類通り、真面目に作り続けるその手が、いちばんの安全たい」
加藤さんが飴ちゃんを握って、笑った。「……明日も、ちゃんと作ります」
「おう。スイカの種には気をつけてな」
「じっちゃん、給食にスイカの種は入っとらんわ」諒太がツッコむ。
夏の風が、種の飛んだ庭を通り抜けた。
「おもろかったら『スキ』押しとき。アレルギーなしで安心して押せるばい」
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