不合格通知を受け取る覚悟で挑戦する娘へ(1,980字)
昨日から、娘の大学受験のために、四国に来ています。
車で2泊3日の旅です。
家では、妻が猫とお留守番。
わが家では猫は神様のような存在ですから、2日間も家を空けるわけにはいきません。
娘はこの日のために、数えきれないほどの努力と悩みを重ねてきました。
彼女はいわゆる完璧主義。
何事も綿密に準備をしたいタイプです。
要領よくこなす器用さはありません。
考えることが多すぎて頭がいっぱいになり、ダイニングで動けなくなっている姿を、私は何度も見かけました。
そんな娘が今日、ついに受験の初日を迎えたのです。
雨のなか、ホテルから会場までタクシーで向かいます。
道順や時間管理で娘の頭がいっぱいにならないよう、段取りはすべて私が引き受けます。
とにかく荷物が多い娘のカバンも、もちろん私が持ちます。
至れり尽くせりの、お抱え運転手兼マネージャー。でも「受験サポート」という大義名分があるので、今回に限っては甘やかし放題です。
私の本音を言えば、娘との旅行気分で楽しくて仕方がありません。
「もしお腹が痛くなったら、我慢せずにちゃんと言うんだよ。手を上げて、『先生、う●こ!』って」
娘は「ハイハイ」と軽く流しながら、受験票の注意事項を真剣な目で見つめていました。
大学構内は広く建物も複雑なので、娘が迷わないよう、親が入れるギリギリの境界線まで付き添います。
水たまりで少し靴下が濡れてしまったようで、「お父さんの靴下と交換する?」 と尋ねましたが、もちろん食い気味に断られてしまいました。
私のサポートの甲斐あって、予定通りの時間に試験会場入り口に到着。とりあえず一安心です。
別れ際、娘は一瞬不安な表情を見せましたが、笑顔で校舎に入って行きました。
試験が終わる頃を見計らって、構内の一角で娘を待ちます。
風が出てきて、寒さが身に染みます。
周りを見渡すと、同じようにじっと子を待つ親たちが列をなしていました。
きっと私と同じように、子が頑張ってきた日々を思い出し、祈るような気持ちでいるのでしょう。
娘にとって、ここは第一志望。
併願はするけれど、ここ以外には行きたくない。そんな強い想いを持って挑んでいます。
この場所が、娘の過ごすキャンパスになるのだろうか。
そんなことを考えていると、受験を終えた学生たちがぞろぞろと出てきました。
親を見つけ、小走りで駆け寄る子。傘を持つ子の手を、ぎゅっと握る親。 アイコンタクトだけで歩き出す親子。
いろいろな「親子の形」に目を奪われていると、すぐ近くに娘がいました。
「いやー、う●こ漏れるかと思ったわー」
開口一番、娘が言いました。
なんだ、ちゃんとアドバイスを聞いていたんだな。
私は少し安心して、娘と一緒に歩きだしました。
先月の共通テストの出来は、あまり思わしくありませんでした。
模試の結果からしても、正直、合格は厳しいでしょう。
それは、娘自身が一番よく分かっています。
娘の話では、周りの友達の多くは共通テストの結果を見て、国立の受験自体をやめたそうです。
理由は「不合格通知を受け取りたくないから」。
娘は、そんな友達の気持ちが「よく分からない」と言っていました。
娘には言いませんでしたが、私には分かる気がしました。
「不合格」という文字は、その大学から「あなたは要らない」と言われたようで、ひどく傷つくものです。
その痛みがずっと残るくらいなら、白黒つけずに「自分の意志で受けなかった」ということにしたい。
それも、自分を守るための選択なのだと思います。
でも、娘にはその発想がありませんでした。
それはつまり、娘が今のところ「不合格」という結果を、「自分の価値」と切り離して考えられている、ということ。
それが嬉しくて、私の受験サポート旅行をますます楽しいものにしてくれているのでした。
娘のこれからの長い人生。
きっといろいろな人と出会うでしょう。
中には、一部の能力や成果だけを見て、あたかもその人自身に価値がないような言い方をする人がいるかもしれません。
いないことを祈りますが、残念ながら、きっといます。
そんなとき、決して忘れないでほしい。
結果がどうあれ、あなたの価値は1ミリも変わらない。
あなたが積み重ねた時間。
迷い、悩み、諦めそうになった日。
それでももう一度、立ち上がったこと。
その価値は、成功した人だけが持てるものではありません。 「挑戦した人」だけが、手にすることができる宝物です。
その価値を持った人は、きっとまた前に進める。 あなたは今、まだその途中にいるだけなのです。
「いや、落ちる前提やめて!」
と娘には怒られてしまいそうですが。
私は、挑戦したあなたを誇りに思うし、心から尊敬しています。
この記念すべき日に、隣の部屋で明日に向けて
まだ机に向かっているであろう娘に向けて。
そして、日本全国の受験生のみなさん、見守ってきた全ての方々へ。
今日は本当に、お疲れ様でした。

