【Q20.しまなみ海道完走記】3.旅を再開→来島海峡大橋より上海行の船を目撃→そして今治へ
(前回の記事はこちらです)
今回の旅のGoogleマイマップ
宮窪港船客待合所にて雨宿り
宮窪港船客待合所で雨宿りをしていると、父親と息子らしき少年二人連れの、三人組が入ってくる。私と同様、雨宿りのサイクリストのようだ。三人とも、黒いサイクリングウェアを着ている。
この父親らしき人物が気さくな人物で、関西弁で色々と話しかけてくる。高いコミュニケーション能力、陽気な喋り、いかにも大阪人といった感じがする。少し世間話をする。(この人物は、元カプコン重役のユーチューバー、岡本吉起氏に、顔も喋り方も激似であった。)
スマホで天気予報を見る。雨雲レーダーの地図上には、雨雲を示す青いドットが南北に細長い帯となって、広島から愛媛までを覆っている。その西側は晴れているようだが、しばらく降り続ける様子だ。
雨宿りのサイクリストが、船客待合所に続々と避難してくる。時ならぬ混雑。欧米系白人男性も、三人ほど居る。
やはり、どこかで一泊した方が良かったのかもと思う。しかし今検索しても、宿はどこも空いていない。
関西人の父親は、やがてスマホで電話をかけ始めた。レスキュー用のワゴンタクシーを手配しているようだ。何らかの理由で走行不可能になったサイクリストのために、自転車ごと最寄りの拠点まで運んでくれるサービスが、しまなみ海道にはあるのだ。金額はおそらく高速道路料金込みで、結構かかるようだが、さすがに関西人! 損切りが早い!
他のサイクリスト達も、同様にレスキューの電話をかけ始める。外国人グループも同様だ。聞いていると、英語で対応してくれるサービスもあるようだ。
関西人の父親によると、レスキュー用のワゴンタクシー一台につき、自転車は二台まで乗せられるという。三人組なので、ワゴンは二台呼んだと言う。「自転車一台分のスペースが余るので、良かったら一緒に乗って行きませんか?」と誘われる。百パーセント善意の申し出だ。だが悪魔の囁きのようにも聴こえる。迷う。何しろ自分は、旅費と有休休暇をそれなりに投じて、このしまなみ海道に挑んでいる。有難い申し出だが、そう簡単に諦めたくはない。迷っている。(『鉄塔武蔵野線』に、こんなシーンがあったかな?) 「もうしばらく待ってみます」と答えた。
やがて、人々が呼んだワゴンタクシーが順番に到着し始める。最初に来たのが、関西人家族の父親が呼んだ車だ。自転車を積み込んでいく。出発時にもう一度「本当に、乗って行きませんか?」と聞かれたが、再度自分は断る。ここで、私の運命は決定された。

他のサイクリストも、それぞれに呼んだワゴンに乗って、次々と去っていく。暖房も無く底冷えのする三月のフェリー待合所には、私と、船を待つ老夫婦の三人だけが残される。周辺の宿泊施設を何度か検索したが、空室は全く見つからない。

だが私は、まだ希望を捨てていない。天気予報自体も、リアルタイムで変わり続けている。スマホで見ている雨雲レーダーの、雨雲を示す青いドットは、時間経過とともに、薄く細くなっている。「あと20分後に雨がやみます」と表示されたのは、15時50分のことだ。

16時丁度。宮窪港に船がやってきたので、窓ガラス越しに撮影する。
走行再開→道の駅吉海→来島海峡第一大橋
大分小雨になってきた。この程度の雨ならば、走行可能と判断。16時02分、宮窪港船客待合所を出発。走行再開だ。
ここ宮窪港は大島の東海岸に位置する。西海岸まで、島の内陸部を突っ走る。多少の登り坂であるが、ゆっくり休んだ後なので、別に何でもない。ここ大島は、石材の一大産地らしく、道中では関連施設の看板を見かける。

16時36分、道の駅吉海着。西海岸に面した道の駅で、日中は渦潮見物の遊覧船が運航されている。今の時間は営業を終了している。土産物屋の他に、海産物の直売所があって、店内には生簀が多数あるが、やはり営業は終了している。客の姿はまばらだ。スタンプがあるので押す。


これから渡る、最後にして最長の橋梁、来島海峡大橋が夕日に染まっている。海鳥が遊弋している。撮影していると、若者三人組が前を横切る。雨がやんで走行を再開したサイクリストが、私以外にもチラホラいるようだ。

17時00分、道の駅吉海発。17時15分、来島海峡第一大橋の北詰に到達。西からの強風に煽られ、吹き流しは常に水平に近い姿勢を取る。寒い。自動車道を駆け抜ける車達の走行音が、荒涼さをいや増している。闘志が湧く。これが最後の橋だ。行こう。
駆ける。落日に照らされ赤く染められた巨大構造物に、強風が絶えず吹き付け、形容しがたい不気味な高音を奏でる。風鳴りと言うには余りにも機械的で、金属音のようであり、マイクのハウリング音のようでもある。ラストダンジョン、いやラスボスそのものだ。この旅の最終関門に、相応しい舞台装置だ。
17時24分頃、第一大橋を走破。橋上に休憩スペースが設けられている。そこからの眺めは絶景だが、強風のため、撮影には慎重さが求められる。油断していると、スマホが風で持っていかれそうだ。続く第二大橋の方向からは、最終関門のBGMがより強く響いてくる。
この音は、橋のワイヤー部分が強風に弾かれて、弦楽器のような原理で鳴っているのか? それとも橋の構造物を風が吹き抜けることで、管楽器のような原理で鳴っているのか? 私には分からない。
(後記:ただ、海上の人工物に強風が当たって高音域の音を立てるというシチュエーションから、平成初期のアニメ『機動警察パトレイバー』の映画版第一作を思い出した。)
来島海峡第二大橋から、上海航路の船を目撃
引き続き第二大橋を走る。強風が体温を奪い続ける。このラスボスのBGM自体に、デバフ効果や、スリップ効果(HP逓減)があるような感じだ。低温のためか、自転車のバッテリーも減少が早いように感じる。

途中、17時32分、橋の直下を西に航行する大型船舶が視界に入る。客船のようだ。白い船体に青でアルファベットが書かれていて、どうやら中国語のピンインであることまでは見当がついたが、詳細は分からない。それでも、たまたま希少なタイミングで、希少な船舶を希少な角度から、今目撃しているのだということは直感した。足を止め、欄干の間からスマホを差し出し撮影。落とさないように細心の注意を払う。下は海だ。撮影している間も強風が吹きつけ、高音が鳴り続ける。


(後記:後ほど調べると、この船は大阪・神戸と上海を往復する「真鑑真」という船のようであった。運航は週に一往復。つまり、この曜日のこの時間に、来島海峡第二大橋を通らないと、目撃することは出来ない。雨に降られずに順調に進んでも、どこか途中で一泊しても、見られなかった船だ。僥倖だ。ここまで走ってきた私の苦労に対し、タイミングの女神が微笑んでくれたのであろう。)(初代ポケモンにおいて、双眼鏡から伝説の鳥ポケモンの一、フリーザーをチラ見する演出があったが、それと類似の体験かもしれない。)

17時39分、第二大橋も渡り終える。第二大橋と第三大橋の間には、馬島という小島がある。一般の自動車は降りることが出来ず、自転車やバイクと歩行者だけが、専用のエレベーターで上陸が可能であるという。橋の下段にあるエレベーターを見つけ、17時46分、馬島に降り立つ。

私以外には、観光客は誰も居ない。周囲には特に何も無い。夕日に照らされた第三大橋が遠くまで続く姿が美しい。
ハイウェイパトロールの車を一台目撃する。馬島へ降りるインターチェンジは、このような許可を得た車輛のみ通行可能だという。
島を探索する時間は、さすがに無い。第三大橋の橋上に戻り、前進を続ける。ラスボスの最終形態、最後の最後だ。私から見て、日没の方向に向かって伸びている。ただ走る。
すれ違うサイクリストも、自動車道の車も、皆急いでいるように見える。
やがて、四国本土の沿岸部に蝟集する、無数のクレーン群が見えて来る。第三大橋を渡り終え、下りのループ線を走る私を迎えるように、18時を知らせる防災無線が鳴る。エンディングだ。18時02分、四国本島に上陸。
今治駅前にゴールイン
後はサイクルステーションに、自転車を返却するだけだ。この、来島海峡大橋の四国本土側にも道の駅があったのだが、疲労のためか案内板を見逃してしまう。そのまま直接、今治駅を目指すこととなった。
今治市街地の道路を、南西方向に適当に進む。特に変わった所も無い、普通の地方都市のロードサイドの風景。やがて地上を走る線路に当たる。JR四国、予讃線だ。後は、この線路に沿った国道を、ひたすら東に進めば良い。そのうち今治駅に着くだろう。
しばらく走っていると、予讃線の線路は勾配を上昇し始め、高架上を走るようになる。駅が近いことを感じさせる。

18時37分、今治駅前サイクルステーション着。しまなみ海道を無事完走した。尾道を出発したのが朝の7時半ぐらいだから、11時間ほどかかった事になる。しまなみ海道サイクリングコースの全長が、70キロとされているから、単純に70割る11で計算すると、時速6.36キロ位の速度となる。
途中、しばしば足を止め撮影に興じた事や、一時間半ほど雨宿りをしたことを考慮しても、さすがに遅い。今の自分の体力は、こんなものなのかと思わざるをえない。健康な若者なら、昼過ぎぐらいには走破可能であろうし、タイムアタックに全振りすれば午前中にも攻略可能であろう。
だが今回の旅は、速さを競うことが目的ではない。多島海の景観を充分に楽しめ、自分としては満足だ。
ある島の向こうに、常に次の島が存在しているという地理的条件は、その土地に生きる者、見る者の精神形成に少なからず影響を与えるだろう。少なくとも、果てしない水平線の太平洋や、冬に荒れる日本海を見て育った人間とは異なる自然観、世界観を抱くようになるだろう。(無論、海そのものを見たことが無い人間とは大いに異なるだろう。)
多島海や内海においては、交易路である海を通して、人間の世界はどこまでも続いているという、文明と世界に対する楽観性が育まれるのかもしれない。(また、その内海は豊かな漁場でもある)。他方で島に生きる人々には、他の環境の人間には分からない別の苦労があるのかもしれない。隣の島まで、空を飛んで行きたいという潜在的な願望を、島に住む人々は潜在的に抱いていて、その願望が具現化したのが、高速道路の高度の橋梁によって島々を結ぶ、しまなみ海道なのかもしれない。
サイクルステーションの窓口で、自転車の返却手続き。他に利用者の姿は無く、もしかしたら、私がこの日の最後の返却者だったのかもしれない。朝、尾道で借りる時に撮ったスクショを係員に見せ、滞りなく終了。右ハンドルに取り付けていた私物のカメラマウントを取り外し、返却場に自転車を置けば終りだ。
この、最後の最後で手間取る。寒さのために手がかじかんで指先に力が入らず、カメラマウントを固定するネジの部分を回せないのだ。朝の私は、随分と念入りに、固く締めたものだ。こんな所に! 裏ボスが待ち伏せているとわ!
苦闘の末、ようやく外れる。これで本当に、全て終了。旅行アプリで予約した、駅近くのビジネスホテルにチェックイン。今夜のホテルは、建物も内装もフロントの係員も、全てが実に整然と、清潔に整えられている。ロビーの一隅には、自転車置き場が設けられている。(完)
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