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「仁義なき戦い」あらすじ解説【深作欣二】

少し難解な映画です。でも誰も難解だと思っていません。面白過ぎるからです。考えようとする意志を喪失するからです。


あらすじ

あらすじVer.1

土建屋を営んでいた山守義雄。ヤクザの組を立ち上げます。

その後色々あって、面倒な手下たちを殺し合いさせて、自分の地位を守ります。

(あらすじVer.1・終)

菅原文太演じる広能(ひろのう)昌三が記憶に残りますが、
実体は山守物語です。

あらすじVer.2

土建屋を営んでいた山守義雄。ヤクザの組を立ち上げます。

ヤクザの仕事で他の組と抗争します。幹部の坂井と

広能(ひろのう)の力で圧勝します。

しかし広能受刑中に内部抗争勃発。勝者になった坂井が力をつけすぎました。

せっかく表世界では競艇場の重役になったのに、山守は坂井から組の代表を追い落とされます。困った山守、恩赦で出所した広能に頼んで、坂井を暗殺させようとしますが、思い通りにゆきません。

しかし最終的に、坂井は何者かに暗殺されて、山守の地位は安泰になります。

(あらすじVer.2・終)

他所の組との抗争よりも、主に内部で争う話です。与党内の倒閣運動に似ています。

あらすじVer.3

5章に分割できます。順に説明します。

1、山守組結成

土建屋を営んでいた山守義雄、

荒っぽい稼業でしたので、ヤクザの組を立ち上げます。土建の社員たちや、社員たちの喧嘩で力になってくれた広能などを組員にします。広能は刑務所に入っていましたが、山守さんが(部下を助けてくれたからと言って)縁もないのに保釈金を出してくれました。いい人です。

広能は刑務所の中で土居組の若頭の若杉と義兄弟になっていました。

広能出所の際には(子分の若杉が世話になったと言って)若杉の親分の土居組長も来て祝ってくれます。山守と土居、二人ともいい人です。

組の立ち上げの時の儀式の媒酌人は呉市極道界の長老、大久保、

見届け人は土居組長さんです。

二人に祝福されて、組員たちと船出です。前途洋々です。

2、政治案件

組を立ち上げたときの媒酌人・大久保から頼まれて、市会議員の頼み事の案件を引き受けるのですが、

その仕事は立ち上げた時の見届け人・土井組長の利益に反することでした。少しマズいです。でも極道界長老の大久保の頼みだと断れません。

3、山守土居抗争

結果山守組と土居組は抗争になります。最後は山守の手下の広能が土居組組長を銃殺、勝負がつきます。

広能は刑務所入り、土井組に裏切った山守組の幹部神原は、広能の義兄弟若杉に射殺されます。

その若杉もなにものかのタレコミで警察に囲まれ銃殺されます。

4、山守組内紛

広能が受刑していて留守中の山守組は、幹部の坂井と新開が、ヒロポン(覚醒剤)の扱いをめぐって内部対立します。

戦いは坂井の圧勝。勢いに乗って組長の山守を追い落としにかかります。

5、坂井VS広能

そうこうしているうちに恩赦で広能が出所。

ピンチの山守親分は子分の広能に坂井対策を頼むのですが、山守に代わって土居を殺して刑務所に入っていたのに、出所したら全財産を譲ると泣いて約束してたのに、いざ広能が出所すると、スズメの涙の少額の金を渡しただけで坂井を殺せと言うのです。

当然広能はやる気が出ません。殺す代わりに坂井には「話し合いをしろ」と伝えただけです。坂井も素直に了承します。
しかし坂井は武闘派です。「話し合い」という言葉の理解が、ちょっと違っていたようです。

「話し合い」によって山守は引退宣言を出さざるをえなくなりました。山守を引退させて自分は会社を設立する坂井、我が世の春です。

当時、表世界では競艇場の重役にまで出世していた山守、

広能に再度坂井暗殺を命令しますが、広能は山守の勝手に愛想が尽きて、彼の元を去ります。しかしそれでも自分の問題として、坂井の命を取りに行きます。

坂井滞在のホテルに行きます。若い連中ガードしてます。あえなく捕まる広能です。しかし坂井は殺しません。互いに山守組長に、踊らされた被害者だという気持ちを持っているからです。

坂井は広能を解放します。ピストルさえも返します。「勝負はこの次つけよう」と。

その直後、坂井は暴漢に銃撃くらって絶命します。せっかく成りあがったのに、その瞬間に死亡です。空しいです。

かくて山守の地位は安泰になりました。広能は葬儀に平服で立ち寄ります。祭壇にピストルを連射し、悲しさ、虚しさを表現します。

(あらすじVer.3・終)

全体は対称構造になっています。

かなり綺麗な構成です。一流文学作品レベル、とまではいきませんが映画にしてはまとまりが良い。脚本書いた笠原和夫は、部屋の壁に事件の年表貼って、見ながら原稿書いていたようです。章立て表も年表も、表に変わりはありません。そういう練り方して書くと、構成は綺麗になりがちです。

第3章が理解しにくくなっています。深作監督が脚本家に、絶対脚本修正しないと約束させられたからです。でも監督は努力して、理解しやすく演出しています。

物語の最初のほう、山方(土建屋山守組所属)が怪我させられます。友人だった広能は自分が報復すると宣言。すると土建屋山守組の坂井が、自分のピストルを貸してくれます。

最後のシーンは広能が坂井の祭壇に、ピストル連続発射します。
広能なりの友情表現、坂井への恩義の返し方だったのですね。

最終章「坂井VS広能」


坂井暗殺実行犯

坂井は広能を開放したあと、子供のお土産を買うためにおもちゃ屋に立ち寄り銃撃されて死にます。手にはお人形握ったままです。可哀そうですね。

では坂井を襲撃したものは誰か。顔ははっきりとは見えませんが、話の流れで推察がつきます。矢野の配下のものたちです。

矢野は坂井の同輩、山守組の幹部です。要は坂井のライバルです。坂井は新会社を立ち上げて大きく成功した以上、矢野は没落の宿命にあります。広島市の海渡組を訪問して、坂井と海渡の縁組を壊せないかと画策します。

それを事前に察知して、坂井はヒットマンを派遣して、海渡邸前で矢野を殺します。

射殺された時矢野につきそっていた配下が、おもちゃ屋で坂井を殺した二人です。

顔は見えづらいのですが、翌日の事件ですので、同じ服を着ています。よって矢野配下の犯行と特定できます。監督の気配りです。 

坂井暗殺実行犯に情報を与えた者

しかし、矢野配下が坂井を恨むにしても、どこに行けば坂井が居るのか情報を持っていないと報復は出来ません。誰がその情報を持っていたか。これも作中では明示はされませんが、視聴者だれもが明解に理解できる形で示唆されています。山守と腰巾着の槇原です。

彼らは広能が坂井を殺しに行くと聞くと、わざわざ地図に赤丸をつけて、間違えないように正確に坂井の居場所を教えます。坂井出世の最大の被害者は、山守と腰巾着槇原ですから、坂井の動向を徹底的にリサーチしていたのでしょう。

坂井は愛人宅で広能と偶然邂逅した時も、子供のおもちゃを買ってきていました。

つまり自宅近辺のおもちゃ屋に立ち寄る癖があった。敵の山守と槇原は、その癖を事前に掴んでいた。矢野の配下は親分殺され、報復を狙っていることは確実です。よって彼らに坂井の癖の情報を流して誘導した。矢野の配下は正確に坂井を捕捉できました。

坂井に矢野の情報を与えた者

ここまでは普通の権謀術数です。自分の勢力を乗っ取った奴を始末したというだけです。でもよく考えると、坂井に「矢野が広島市の海渡組を訪問する」という情報を流した人間は、山守配下の槇原なのです。槇原は表面上は坂井の味方で、会社立ち上げパーティーに参加しています。

パーティー席上で坂井に、矢野が変な動きをしているという情報を流します。危機を感じた坂井はヒットマンを広島市に派遣し、矢野を射殺するのですが、矢野は元来山守組の中では、山守親分に忠臣です。広能出所の際に山守夫妻と一緒に出迎えたのも矢野です。

つまり山守と槇原は、ここで大変エグい事をしているのです。

1、山守と槇原の本当の狙いは坂井の抹殺です。
2、しかし自分たちも配下の矢野も武闘派の坂井が恐くて手出しできません。
3、よってまず坂井に矢野を殺させるように仕向ける。矢野を海渡組に派遣したのは山守たち。その情報を坂井に垂れ込んだのも山守たちです。
4、恨みを持った矢野の配下に坂井の居場所を知らせました。
5、だから矢野配下による坂井の銃殺が発生しました。目的は達成されました

憎たらしい敵を倒すために、まずは自分の忠臣をあえて敵に殺させる。使い捨ての極みです。

山守の作戦

少し遡ります。広能が出所した時、山守夫妻は坂井の暴虐を広能に訴え、坂井が広能を殺すと言っているという(恐らく嘘の)情報を与え、広能に坂井を殺してくれと、泣いて(ウソ泣きです)頼みます。

昔広能は出所したら全財産渡す約束で土井を殺しました。でも実際に出所して渡された金は1万2千円です。昭和31年の1万2千円の貨幣価値を現在に換算するとどうなるか。ChatGPTに聞いてみました。


昭和31年(1956年)の1万2千円を現在の貨幣価値に換算するためには、当時と現在の物価指数の変動を参考にします。

1956年から2023年までの物価上昇率を参考にすると、おおよそ10倍から12倍程度と推定されています。これは消費者物価指数(CPI)の増加に基づくおおよその目安であり、実際の物価上昇率は詳細なデータによって異なる場合があります。

計算例
もし10倍として換算した場合:
1万2千円 × 10 = 12万円

12倍として換算した場合:
1万2千円 × 12 = 14万4千円

したがって、2023年の価値で約12万~14万4千円程度の金額に相当すると考えられます。物価変動は日本銀行や総務省の「消費者物価指数」などで確認できますが、この換算はあくまでインフレ調整による一般的な目安となります。


14万程度もらって殺人ってのは、今の闇バイトの相場より低いのではないでしょうか?当然やる気が起きません。
坂井と接触した際、山守と話し合いしろと勧めます。坂井の「話し合い」がただの脅迫であったことは前述の通り。引退宣言出さされます。
山守は考えました。坂井は強い。抵抗できない。広能も強いがやる気がない。矢野は弱い。槇原はもっと弱い。広能と矢野(の配下)の二段構えで殺すしかない。

かくて作戦は成功しました。殺しに来た広能との会話を終え、気が緩んだ坂井は一時的に無防備になっていました。そこを矢野配下に襲われて、あっけなく殺されました。矢野切り捨て作戦はエグいですが、山守が勝つ手段はこれしかなかったようです。

山守組内紛

ここまで第5章の「坂井VS広能」を解説しました。今度はその前の章「山守組内紛」を見て見みましょう。

朝鮮特需で山守組はたいそう儲かりましたが、ヒロポンの扱いで幹部の坂井と新開が対立します。御前会議では坂井路線、つまり上納金減らす方向に決定します。

当然山守は不満です。新開も不満です。不満の新開に舎弟の有田が人に会ってくれと言います。会ってみると市会議員の金丸でした。

金丸は新開に、坂井を追い落とせ、土居組の残党をおまえに預けると言います。新開は大幅な戦力プラスです。

その会合は坂井派である山方がひそかに察知して偵察していました。

しかし山方もその場で射殺されます。

殺した人間は、非常に思い出しづらいのですが、有田のヒロポン置き場に居た人物です。

射殺する時はヤク中らしくプルプル痙攣しています。それを見て「ああヒロポン置き場の」と連想してほしいからです。これも監督の気遣いです。秘密会合を調査する敵の偵察の山方まで、動向を把握できているのですから、なかなか新開派も調査が行き届いていますね。

その時、親分山守と武闘派坂井との亀裂はますます広がっていました。口論していると、元来礼儀のなっていない坂井は、言ってはいけない言葉を親分に言ってしまいます。

「あんたは初めからわしらが担いどる神輿じゃないの。(中略)神輿が勝手に歩ける言うんなら歩いてみいや」

いけませんね。昔小沢一郎という政治家が、担いでる海部俊樹総理を評して、「神輿は軽くてパーがいい」と言ったとされています。どの席で言ったのかよく知りませんが、総理の面前ではありません。伝え聞いた海部総理が本人に「言ったのか?」と問いただすと、小沢は「言うわけないじゃないですか」と答えたらしいです。それが日本の政治の中での最大限の非礼です。親に直接「あんたは神輿じゃないの」はさすがにマズいです。

坂井の神輿発言に憤懣やるかたない山守は、ここでもエグい作戦を考えつきます。まず坂井派の幹部上田と明日会う約束を電話でします。

電話口の上田の発言、「明日床屋に寄ってからそちらに向かう」を憶えておいた山守は、電話を切ると少し考え、また別のところに電話を掛けます。

翌日上田が床屋に行くと、有田が出現、射殺します。

山守が電話したのは新開、有田だったのです。幹部を暗殺させるために電話をかけたのです。しかも暗殺した新開派は、かつて山守組の敵だった土居組残党を抱き込んでいます。むちゃくちゃ矛盾していますが、坂井に追い詰められた山守は、最早なりふりかまっていられません。

盟友上田を殺された坂井は怒って全面戦争を開始します。坂井が怒ると物凄い戦闘力です。

新開配下は軒並み殺されるか重傷、有田は逮捕、新開本人は刺殺されます。

山守組の内紛が終わってみれば、坂井派の山方と上田、山守派の新開が死んでいなくなりました。幹部が三人消えています。壮絶ですね。
しかし山守としては実は戦略的には失敗でして、武闘派坂井の権力が逆に肥大化しています。新開、有田をけしかけた結果敵が強くなった。彼を押さえられる戦闘能力は広能だけですが、内紛当時刑務所に入っていました。だから出所の際には夫婦そろって出迎えに行って、坂井暗殺を命じたのです。

物語全体が終わってみると

これだけの人間が死んでいます。全て山守組です。生き残った幹部は広能と腰巾着槙原のみです。山守は外部と戦っていません。内部相互粛清を繰り返しただけです。山守親分はひたすら子分を殺し続ける、いうなれば「我が子を食らうサトゥルヌス」です。

ゴヤ作「我が子を食らうサトゥルヌス」

サトゥルヌス山守の誕生

山守がサトゥルヌスになったのは、その前の章、第3章山守土居抗争の時です。こちらが特に難解です。流石の深作欣二でも、わかりやすく出来ていません。じっくり見てゆきましょう。

山守組による金丸議員拉致に怒った土居組組長は、山守組の神原を拉致、拷問、全て吐かせます。

そのことを伝え聞いた土居組幹部の若杉が、若杉の愛人の店で、義兄弟の広能と山守組長に状況を説明します。えらいことになったと。

若杉は広島の海渡組に行って和平仲介と頼むつもりです。山守組と土居組の抗争を最小限にするためです。
若杉は土居組の組員で、かつ山守組幹部広能の義兄弟です。義兄弟と殺し合いをするのは嫌なのです。

と話し合っているところへ、全部吐いてしまった神原がドアを叩きます。入れてくれと。仕方なくドアを開けると、うしろに敵の土居組面々がついてきます。土居組長、激怒しております。

土居組長「若杉、われなんでここに来とるんな?」
若杉「おやっさん、マア」
土居組長「どいとらんかい(引っ込んでろ)」

土居組長「山守、わりゃようも俺の裏をかいてくれたの」

土居組長を止める若杉

土居組長「われどっちの味方や」
若杉「山守にわしゃ話をつけ・・・」
土居組長「バカタレイ、話すくらいならな、なんでぶっ殺さんのじゃい」
若杉「おやっさん、盆茣蓙の上のいざこざだったらともかく、議員連中に尻かかれとる(そそのかされる)ことなら、その辺の犬と一緒じゃないすか」
土居組長「なにい・・(ピストル取り出して)おどりゃあ破門じゃい」

その後若杉はもみ合ってピストルを土居組長から取り上げます。

若杉「おやっさん、言うといたるがの、わしの目の黒いうちは絶対やらせませんで。先に手を出した方からぶっ殺してやる」
土居組長「ヒロシ、わりゃあ、憶えちょれや」(土居組一同、店を退出)

店には全て吐いてしまった神原が残ります。リンチされてボロボロです。

広能は怒ってしかりつけます。神原は逃げ出します。店内が少し落ち着いたところで、山守は若杉のやってくれたことを理解します。若杉が土居組長から無理やりピストルを奪わなければ、山守は射殺されていました。若杉は命の恩人です。

山守「すまん、わしゃな、あんたいう人間を初めて知った。(泣く)ひろちゃん、今後ともなあ、わしのねき(近く)におって、力になっとってくれの。頼む。この通りじゃが(頭を下げる)」

ナレーション「この事件をきっかけに、若杉は山守組の客分となった」

ここで一回切って解説しますが、

1、若杉、広能、山守が相談していた店は若杉の愛人の店です。
2、土井組長は入って来た時に、「若杉、なんでここに来とるんな?」と聞いています。つまり土居組長はここが若杉がらみの店と知らない。つまり土居は子分の状況を十分には知らない粗雑な脳みそです。
3、土井は神原を連れて来た。つまりここに山守が居る事は知ってた。恐らく土居の子分の調査によります。
4、若杉は「議員連中(中原および金丸)に扇動されてはならないと主張。事態の本質が見えています。洞察力があります。
5、土井組長が破門と言った以上、若杉は土居組の構成員ではなくなり、広島の海渡の仲介交渉に働きかける権限を喪失しています。
6、最終的に若杉は山守組の客分となるが、正式組員でも幹部でもありません。
7、神原の罪を許して山守組に戻す選択肢も有りました。しかし広能が怒鳴りつけたせいで逃げ出します。おそらく今後土居組の一員になります。つまり向こうの戦力が増える。若杉を破門しているので土居組は戦力が落ちています。神原を確保しておくべきでした。それだけで山守組優位になっていたはずです。広能の悪手でした。

という状況です。山守はこのシーンで初めて泣きます。

その後2回泣きまして、2回ともウソ泣きなのですが、ここでは8割くらいは本気です。残りの2割で今後の戦闘のことを考えて若杉を確保しておかねばならないことを理解しています。神原を追い出してしまう広能や、怒りに任せて若杉を破門してしまう土居よりはっきり頭が良いです。

話を再開します。半年後広能が広島の海渡組にやっかいになっていた時、若杉がやってきて頼み事をします。

若杉「しばらくこの家(海渡組本宅)を離れてくれ。土居が広島で興行を撃つ。その際海渡親分に挨拶に来る」
広能「土居がなんかやったんですか?」
若杉「あの神原のばかたれ、子分にしての。山守のシマ荒らしにかかっとるんじゃい」
広能「ほうですかい」
若杉「ほうじゃけん、ここらではっきりカタをつけたほうがええけん、こんなんここにおらんほうがええ」
広能「兄貴、ほいじゃああんた、土井殺る言うんの?」
若杉「わしがやらにゃあ、恰好つかんじゃろ」

広能は反対します。杯を返したと言っても元親分をあなたが殺るのはマズい、とくかく呉に戻って山守組全員で相談しよう。

再び切って解説します。

1、この時広能が海渡組本宅に居るのは、交渉権を喪失した若杉に代わって海渡組に仲裁してもらうためです。
2、しかし既に半年が経過、海渡組は仲裁していません。広能はスタッフと麻雀しています。人質同然です。判断を引き延ばされています。
3、広能と海渡の交渉不調の中で土居が来るということはつまり、海渡の心が土居に靡いたということです。
4、海渡組は広能を確保したまま土居との交渉を開始する模様です。仲裁というより両者を競らせて利益を得ようとしている疑いがあります。仲裁役を期待した当初の若杉の意図は完全に失敗しました。だから若杉は広能を引き上げさせて、暴力で土居と決着をつけようとしたのです。

山守組での全体会議です。

土居組に全面攻撃をしかければ一番早いことは分かっています。しかし新開は体調不良を訴え、槇原は妊娠中の女房が可哀そうだから死にたくないと泣き出します。やる気の無い幹部に苛立った山守、本当はその気はまったく無いのですが、もういい、だったら俺が土居と刺し違えると興奮します。

広能はやむなく、自分がやると言います。広能は前科があります。最悪死刑になる可能性があります。でもそれは極道なのだから仕方が無いと。

山守は感激して泣きます。ウソ泣きです。このウソ泣きはこれ以降山守組長の必殺技になると同時に、俳優金子信雄の生涯の代表的演技となり、本作を日本映画史上屈指の有名作品に押し上げました。

山守「昌三、わしゃあ生涯忘れん、わしを男にしてくれ、そんかわりなあ、お前が無期(懲役)か20年ぐれえの形で帰ってきたらな、そん時はな、わしの全財産をおまえにくれちゃる。金儲けならわしは才覚があるつもりじゃけん、お前の代わりにわしが金儲けしとる思うたらええ、のう、のう」

そう言って山守は、手元の金の全額を広能に渡し、これで遊べと言います。

この時点では(山守妻を除く)全員がウソ泣きとは思わず、本気の感謝だと騙されて、つられてもらい泣きします。若杉なんぞ「ええ親分もったの」などと言い出します。

そして視聴者は残念ながら、まことに残念ながら、極めて残念ながら、楽しい気分になるのです。山守のウソ泣きは理屈抜きに楽しめます。ああ俺もこんなウソ泣きやってみたいと思うのです。いけませんね。背徳の喜びと言いますか、禁忌の魅力と言いますか。

広能はもらった金で女を抱きにゆきます。これが最後の女になるかもしれません。下手すれば死刑、あるいは相手に射殺、そうでなくても一生刑務所暮らしかも。追い詰められますね。追い詰められて獣のようにがっつく広能に、女はもっと静かにしてくれとクレーム言います。答えて広能は本作最大の名セリフを吐きます。

「あとがないんじゃ、あとが」
刺さりますね。これも人生で使ってみたいセリフですね。しっかり覚えておきましょう。

広能は広島の海渡組宅に舞い戻り、土居を待ちます。土居が来るとピストルを持って一旦門外に出て、海渡宅から土居の出てくるのを待ちます。土居が門から出て来て車に乗りこむ瞬間に襲撃します。成功です。

さらに切って解説します。
1、海渡組本宅内部で射殺することも物理的には可能でした。しかしその場合海渡も広能を生きて返すことはできません。組の全力を挙げて射殺します。だから一旦外に出て土居を殺しました。
2、そうは言っても海渡宅のすぐ前です。これは海渡組への示威行為になります。以後山守組と他の組を競らせることはしないほうが良いぞと。ただし海渡組には当面出入り禁止措置になります。
3、もしも地元の呉で土居組長一人を暗殺した場合、土居の跡目が海渡との交渉を継続する可能性があります。海渡はアングロサクソン的分割統治が好きなようですから、その場合土居残党にテコ入れするはずです。つまり山守組にとって土居組の脅威は減らない。
最善の解決策は、前述のように呉で土居組全体を攻撃して壊滅させることです。戦闘力ゼロになればいくら海渡組でもテコ入れのしようがありません。しかし幹部が逃げ腰でした。次善の策として海渡宅門前での土居の射殺がありました。海渡の怒りは買いますが、安全策はこれしかなかったのです。

話戻します。広能はしばらく山守の用意してくれた隠れ家にこもることにします。戸を叩く音がします。誰何すると神原だと言います。山守さんから電話が来て、あなたを逃がせないかと頼まれて、車で迎えに来たと言います。

広能「親父が?」
神原「ああ、(山守は)サツに張られて動けんちゅうてよ、それに下(しも)に行きゃあ、広島の海渡組が網張っちょるし、上へ逃げるにゃあ、土居のシマの中抜けにゃいけんじゃろ。わしじゃったら土居組の目かわせるけん、頼むちゅうてよ」

広能は疑いますが、結局車に同乗します。そしてトンネルに入ったところで、仕組まれたようにエンストします。気が付けば後ろから敵が迫っています。神原はなぜか消えています。広能は走って逃げます。どうも刑務所しか居場所がないようです。自首して服役します。

また切って解説します。

1、土居暗殺成功を聞いた山守は、最短で20年後の全財産譲渡も惜しくなりました。
2、理想は広能が誰かに殺されることです。次善としては別の暴力事件を起こさせてより重罪にすることです。連続殺人なら死刑が確実です。
3、広能の居場所を警察に密告すると、(山守夫妻しか知らない居場所なので)広能が出所した際に報復に来ます。だから密告は出来ません。とにかく家から出さなければいけません。ただしそのまま自首されたのでは減刑になりかねません。家を出して、消すか罪を増やすかです。始末が大変です。
4、この難しい役をこなせるのは神原だけです。戦闘力で広能と互角なのは坂井ですが、今は旅行中です。現在土居組所属の神原ならば、広能の首を取れば勲章になります。土居組で上に上がれます。今土居組は組長は不在です。組長も狙える状況です。
5、つまり山守は広能を助けるためにではなく、消すために神原を派遣した。その先の絵図は神原に描かせば十分です。モチベーションが高い状態ですから。
6、山守の作戦が成立したのは広能が若杉の女のバーで神原を怒鳴りつけたからです。神原を土居組に押しやってしまった。このような危険性があるから若杉はあの場で広能を止めました。しかし広能は、山守や若杉、あるいは坂井ほどの洞察力を作品内で与えられていません。

話戻します。刑務所に若杉が面会に来ます。若杉は神原の件を例に挙げ、どうも山守は信用できないところがある、と言います。流石に鋭いです。しかし広能は古風かつ単細胞なので苦しそうにするだけです。

若杉は旅に出ようとします。その前夜に愛人に神原を呼び出さして、土居組の状況を聞きます。

神原「土居の若いもんちゅうたらみんなしっかりしとるけん、あんたが心配するような事ないけえのう」
若杉「そうか、それ聞いて安心した。ところで、われがおらんようになったらどうなるかのう」

若杉は神原の頭を打ち抜きます。

また解説です。ここが全編で一番わかりにくいです。問題は、なぜ神原に現在の土居組の若い者の状況を問いただしたか、です。

1、神原は元山守組で、現在土居組構成員。若杉は元土居組で現在山守組客分。立場が逆です。
2、ただし、神原は広能救出作戦(にみせかけた抹殺作戦)を山守から持ち掛けられた時点で、山守に対する不義理は解消されたと考えるべきです。つまり土居組構成員であると同時に山守の親しい知人です。裏切って逆に居場所が広くなっています。
対して若杉は、土居組長を射殺した広能の義兄弟で土居の敵の山守組客分。つまり道義的には土居組全体から命を狙われている存在です。危険な状況です。だから自分では呼び出さずに、愛人に神原を連れて来てもらいました。神原はスジから言えば若杉を見た瞬間に「土居親分のカタキ」とか言って襲い掛かってきてもおかしくないのです。戦闘力が違い過ぎますのでその可能性は低いですが。
3、土居組の若いもんの状況を聞いて、もしも神原の返答が「組長が居なくなって若い衆がみんな困っている、若杉さん戻って来てくれないか」のようなものでしたら、射殺する必要はありませんでした。組としての戦闘力が低下しているという意味だから自分に危害は加えません。
4、しかし冷たい返事だったので、神原を消して土居組を大きくへこませる必要が出ました。「しっかりしとる」とは、戦闘力は十分残存しているという意味があります。危険です。神原が消えれば今の土居組は山守組の仕業だと思います。組長に続いて神原までやられれば、恐怖で土居組は体をなさなくなります。自分への報復の可能性は大きく減ります。実際第4章「山守組内紛」では土居組構成員は「土居組の残党」として登場します。広能の海渡組への示威行為と、若杉のこの一撃で組組織としては壊滅したと見てよいです。
5、ただしそれでも一時的に土居組の憎悪を一身に引き受ける形になります。危険ではあります。
6、山守が(広能を確実に始末してくれるだろうと)信頼した神原を射殺したということは、山守組客分の地位を手放すと同義です。
7、よって若杉は旅に出るのが正解です。射殺の瞬間に呉での居場所が完全になくなっています。

話戻します。警察が神原の死体のそばに地図が置いてあるのを発見します。

若杉の愛人宅です。警察は愛人宅に踏み込みます。隠れていた若杉を見つけ出します。銃撃戦になり、最終的に若杉は警察に射殺されます。

解説です

1、地図を置いていたのは無論、山守・槙原コンビです。
2、山守が広能を裏切った、と若杉は解釈しています。一方山守は、裏切りを若杉に感づかれているかもしれないと思っています。実際に感づかれているかどうかは、若杉の神原に対する態度で判別できます。若杉が神原を敵視しているなら、山守も敵視しているはずです。
3、山守はおそらく若杉に監視を張り付かせていました。監視役は腰巾着槙原です。神原を射殺した時点で結論が出ました。このままでは自分達もやられる、地図を置いて警察を誘導しました。当時山守組は、戦闘力の高い坂井は旅に出ていて不在、同じく戦闘力の高い広能は服役中。他の幹部は戦力になりません。若杉自身は本当は山守および槇原に危害を加える意図はなく、明朝旅に出るつもりだったのですが、山守達は現時点で戦力ゼロですからそこまで若杉を恐れていました。

少し前に、若杉の愛人のバーで山守は、若杉の体を張った頑張りによって命を救われました。山守は泣いて感謝していました。その命の恩人までも切り捨てる。若杉は自分達に対して殺意はなかったのですが、恐怖心だけで警察に密告する。チキン極まっての卑劣行為です。

第3章通してみると、山守がサトゥルヌスに成り下がった運命の転換点は、幹部との会議にあるとわかります。

広能が土居を殺すと言い出します。死刑も覚悟しています。山守は泣いて感謝します。ウソ泣きなのですが、ウソ泣き演技の都合上全財産をお前に渡すとか、持ち金全部広能にあげるとか、本人の人間的な器に似合わない過大な気前良さを発揮してしまいます。
それがまずかった。山守はすぐに金が惜しくなります。広能を消したくなります。神原なんぞ使わなくても、広能はどうせそのうち逮捕されたのです。でも下手すると20年後来てしまう財産譲渡をしたくない。欲が出ました。だから神原を使った。そして神原を使ったから(神原を使った意図を理解できる頭脳を持ち、かつトップクラスの戦闘力を持つ)若杉が恐くなった。恐くなったから命の恩人若杉を切り捨てた。金銭欲で自分で自分の人間性を崩壊させていった。
ウソ泣きシーンは面白く、映画を観る人全ての印象に残りますが、ストーリーの転換点にもなっています。物語内容と映像インパクトが一致しています。つまりまとまりが良いのです。
対称構造ではだいたい中心部分が転換点になります。本作ではこの黄色の部分です。

土居との抗争の背景

ここからは駆け足で説明します。そもそもなぜ土居と抗争するようになったかです。

山守組立ち上げの際の媒酌人、呉の極道会の長老大久保は、市会議員から旧海軍物資活用の相談を受け、山守組を利用しようと計画します。第一段階としてまずは親戚の上田を山守組の賭場に行かせ、難癖つけさせます。

派手な喧嘩になります。事態収拾のため、広能は指を詰め、組長山守は大久保宅へ謝罪にゆきます。

大久保は計画通りにすすんでいるので喜んで、第二段階として山守に市会議員中原に会えと命じます。

中原は山守に、(物資活用に反対している)金丸派の議員を(議会での採決で勝つために)一人減らしてくれと頼まれます。金丸議員には、土居組がついています。土居は山守組立ち上げの見届け人です。

だから本当はしたくありません。でも大久保からの頼みですし、こちらが指を詰て謝っている以上、大久保に気分的に飲まれてしまって断れません。その上、中原議員の口利きで、山守は無利子無担保でいくらでも銀行から融資を受けられるようになりました。そんな条件で断れる実業家は居ません。

仕方なく坂井が実行しますが、坂井は武闘派ですので金丸本人を監禁してしまいます。おかげで議会は中原議員の思い通りに決議します。金丸議員は解放されますが、金丸に叱責されたであろう土居は怒り狂います。よって神原を拉致、拷問した上で、山守を襲撃するのです。

ですから始まりの地点では、山守は被害者的側面もあるのです。大久保-中原ラインのたくらみに乗せられた。若杉が「議員連中に尻かかれとる(そそのかされる)ことなら、その辺の犬と一緒じゃないすか」と言っていましたが、適切な洞察ですね。大久保の陰謀ではないかという意見は、早い段階で坂井も言っていました。

ほか、広島の海渡組も悪いですね。海渡組の門前で、二人死んでいます。
広能が土居を射殺

坂井が矢野を襲撃

いずれも海渡組がアングロサクソン分割統治をしようとしたからです。広能が居候(半分人質)しているのに土居と業務提携しようとする。あるいは坂井が既に提携しているのに、反目する矢野と会おうとする。いずれも海渡組親分は登場しないのですが、はっきり呉の勢力にたいして悪意があります。

最初に坂井からピストルを貸してもらってこの道に入った広能です。

広能は坂井の葬儀に乱入してピストルを乱射しますが、打ち抜く名札は、
中原市議と

大久保と、

海渡組長のものです。

深作監督、頑張って分かりやすくしています。この三者によって山守はサトゥルヌスになりました。山守、坂井、若杉などと比べると洞察力で劣る広能ですが、最後には事態の本質が認識できたようです。



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