離婚と税金、財産分与の「税務上の盲点」4つ — 知らないと損する、もらった後・住宅ローン・慰謝料の落とし穴
1. はじめに
こんにちは、ふじまるです。
「離婚で財産分与をするとき、税金には気をつけて」 ——このことは、最近少しずつ知られるようになってきました。
前編として「離婚で家を渡したら、800万円の税金?知らないと損する財産分与の3つの落とし穴」というnoteを書きました。この記事では、**「渡す側に譲渡所得税がかかる」「3,000万円控除のタイミング」「過当な財産分与は贈与税」**という3つの代表的な落とし穴をまとめています。まだ読んでいないという方は、先にそちらを読んでいただくとスッと入ってきやすいと思います🌿
ただ、相談現場でお会いしていると、**前編で書ききれなかった「もうひとつ深いところ」**で困っている方がたくさんいるんです。
不動産を「もらった側」が、その後の売却や賃貸で困るケース
住宅ローンが残っている家を分与するときの、思わぬ譲渡所得税
慰謝料と財産分与を混ぜてしまって、贈与税の対象になってしまうケース
離婚協議中に別居している家を売って、3,000万円控除が使えるかどうか迷うケース
今日は、前編で扱いきれなかった**「税務上の盲点」を4つ**、相談現場の体験を交えながらお伝えしますね。
2. 前編のおさらい — 押さえておきたい3つの基本
後編に入る前に、前編の要点をかんたんに整理しておきます。
ひとつ目。不動産を渡す側に「譲渡所得税」がかかること。
「民法第768条の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者は、その分与をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる」と明確に定められています。財産分与は経済的利益を対価とする譲渡として扱われるため、たとえ現金を受け取っていなくても、譲渡所得の対象になります。
ふたつ目。マイホームを渡すなら、3,000万円控除のタイミングが大事だということ。離婚届を出す「前」に名義変更すると、戸籍上の配偶者への譲渡として控除が使えません。
みっつ目。「分けすぎ」は贈与税の対象になること。
この3つは、前編で詳しくお話ししました。ここから後編は、もう一歩踏み込んでいきます。
3. 現場の実感:前編で書ききれなかった4つの盲点
盲点①:「もらった側」の取得費・所有期間は『分与時』にリセットされる
前編では「渡す側に譲渡所得税」というお話をしました。 じゃあ、もらった側はラッキーなのか——というと、実はここにもうひとつの落とし穴があります。
先日のご相談で、こんな方がいらっしゃいました。 「離婚で夫名義のマンションを私の名義に変えました。その3年後に売ろうと思っているのですが、税金はどうなりますか?」
ご結婚されたのが20年前、不動産を取得したのが18年前——でも、もらった側(妻)の不動産の取得日は、財産分与を受けた時になります。
これは所得税基本通達38-6で、こう定められています。 「民法第768条の規定による財産の分与により取得した財産は、その取得した者がその分与を受けた時においてその時の価額により取得したこととなる」
つまり——
取得費:分与時の時価(前の所有者の取得費を引き継がない)
取得日:分与を受けた日(前の所有者の取得日を引き継がない)
何が問題かというと、所有期間がリセットされるんです。 所得税法上、不動産の譲渡所得は所有期間が5年超なら長期譲渡(税率20.315%)、5年以下なら短期譲渡(税率39.63%)と、ほぼ2倍も税率が変わります。
ご相談者の方の場合、「18年所有しているから長期譲渡で安心」と思っていたら、分与から3年後の売却なので短期譲渡(39.63%)になってしまうんですね。
例えば分与時の時価6,000万円、3年後に6,500万円で売却した場合、譲渡益500万円の約198万円が税金。長期譲渡だと約101万円。同じ500万円の利益でも、約100万円違ってきます。
「もらった側」も、安心しきってはいけないんです。
盲点②:「慰謝料」と「財産分与」、混ぜると贈与税のリスクが上がる
ふたつ目の盲点は、お金や財産の**「名目」**の問題です。
ある相談会で、こんな話を聞きました。 「夫から、慰謝料込みで2,000万円もらうことになりました。財産分与の名目で振り込んでもらう予定です」
ここに、ちょっとしたリスクが潜んでいます。
慰謝料は、原則として非課税です。
所得税法は「心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金で、心身又は資産の損害に基因して取得するもの」を非課税所得と定めています。
つまり、慰謝料は何百万円もらっても、原則として税金はかからない——これは大きなポイントです。
ただし、「財産分与」の名目で渡すと、相続税法基本通達9-8の判定対象になります。 「夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当である」と判断されると、その過当な部分には贈与税がかかる、というお話を前編でしました。
実は実務では、こんな考え方ができます——
純粋な財産分与(夫婦で築いた財産の精算)部分 → 財産分与として明示
精神的苦痛に対する補償部分 → 慰謝料として明示
離婚後の生活保障部分 → 扶養的財産分与として明示
**「合意書で性質ごとに金額を明示する」**ことで、税務リスクを大きく減らせます。
「全部まとめて2,000万円」と書くと、税務署から見たときに「これは多すぎるのでは?」と引っかかる可能性が高くなるんですよね。
ちなみに、もし「慰謝料」と書いていても、金額が社会通念上の慰謝料相場を大きく超えると、「実質は財産分与」と判断されることもあります。名目だけで決まる話ではない、というのも大事なポイント。
盲点③:住宅ローン付きの不動産、思わぬ「譲渡対価」が発生する
3つ目の盲点は、住宅ローンが残っている不動産を分与するケース。 これ、相談現場で本当によく出てきます。
とある相談会で、50代のご主人がこうおっしゃいました。 「住宅ローンが2,000万円残っているマンションを、妻に渡します。ローンも妻が引き受けるので、私は何も払いません。これなら税金はかからないですよね?」
実は——ここに大きな落とし穴があります。
国税庁の質疑応答事例「財産分与により住宅を取得した場合」では、こう整理されています。 債務(住宅ローン)を相手が引き受けてくれた場合、その引き受けてもらった金額は「経済的利益」として、譲渡収入金額に含まれる。
つまり、ご主人にとっては——
財産分与義務の消滅:マンションの時価相当(仮に4,000万円)
住宅ローン債務の消滅:奥様が引き受けた残債2,000万円
合計2,000万円分が、譲渡所得の収入金額として計算されることになります(譲渡対価6,000万円 − 取得費等)。
「現金は1円も動いていないのに、譲渡所得税が出る」——これが、住宅ローン付き財産分与の怖さです。
さらにオーバーローン(ローン残高が時価を超える)の場合は、家庭裁判所の運用では「マイナス財産」として扱われることがありますが、税務上は別の話。状況によっては経済的利益の認定が複雑になります。
このパターンは、事前に税理士に試算してもらってから合意するのが鉄則です。
盲点④:別居中のマイホーム、3,000万円控除は使える?使えない?
最後は、前編で触れた3,000万円控除の続編です。
前編では「離婚届を出した後に名義変更すれば控除が使える」という話をしました。 じゃあ、「離婚協議が長引いて、もう何年も別居している家を売るとき」はどうなるのか——これも相談で本当に多いケースです。
措置法第35条第1項は「自己の居住の用に供している家屋」を譲渡した場合に3,000万円控除を認めています。さらに、措置法施行令第20条の3第2項は、**「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日まで」**に譲渡すれば、過去に住んでいた家屋でも控除が使えると定めています。
ある相談会で、こんなケースがありました。 「夫と別居して4年、家には今も夫が住んでいます。家の名義は私ですが、私が出ていって離婚協議中です。家を売って財産分与したいのですが、3,000万円控除は使えますか?」
判定のポイントは、**「あなた自身が住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日まで」**です。
「私が出ていって4年」という時点で、原則として控除の対象期間を過ぎてしまっている可能性が高いんですね。 (厳密には、出ていった日が「住まなくなった日」となり、その年の12月31日から3年経過の判定をします)
国税不服審判所の裁決でも、「居住の用に供している」かどうかは、真に居住の意思をもって、客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としているかで判定されると示されています。
別居が長期化しているご家庭は、3,000万円控除が使えるうちに動くことを強くおすすめします。
4. 読者へのポイント:4つの盲点チェックリスト
ここまで読んでくださった方に、相談現場でいつもお渡ししているチェックリストをお伝えしますね。
ひとつ目。「もらう側」も、所有期間と取得費は分与時にリセットされることを忘れずに。すぐに売る予定があるなら、長期譲渡になるタイミングを意識して動きましょう(所得税基本通達38-6)。
ふたつ目。慰謝料と財産分与は、合意書で性質ごとに金額を明示すること。慰謝料は所得税法第9条第1項第18号で原則非課税。財産分与とごちゃ混ぜにしないのが安全策です。
みっつ目。住宅ローン付きの不動産を渡すなら、ローン残高分も譲渡対価になることを必ず試算する。国税庁の質疑応答事例で明確に整理されています。
よっつ目。**別居が長引いているマイホームは、「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日まで」**に売却を検討する(措法35条1項、措法令20条の3第2項)。
5. まとめ
離婚と税金のお話、前編と合わせると、ぜんぶで7つの落とし穴になりました。
前編の3つ(渡す側の譲渡所得税・3,000万円控除のタイミング・過当な財産分与の贈与税)に加えて、今日の後編の4つ(もらう側の取得費・所有期間リセット、慰謝料との区分、住宅ローン付き不動産、別居中の3,000万円控除)。
すべてに共通するのは—— **「現金が動いていなくても、税金はかかることがある」**ということ。 **「タイミングひとつで、税額が数百万円変わる」**ということ。
離婚のときって、感情も生活も大きく揺れているタイミングです。 そんな中で税金の話を冷静に整理するのは、本当にむずかしい。 だからこそ、**「決める前に、税理士に試算してもらう」**ことをおすすめします。
「もう離婚届を出した後で…」という方も、まだ間に合うことはたくさんあります。 2026年4月施行の改正民法第768条で財産分与の請求期限が5年に延長されたことで、後から整理し直せる余地も広がりました。
ふじまるは、年間350件以上の資産税のご相談に向き合っています。 「離婚と税金」で頭を抱えている方が、ひとりでも減りますように🌿
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
#離婚と税金 #財産分与 #譲渡所得税 #3000万円控除 #資産税
生成日:2026年5月16日 by ふじまる(資産税につよい税理士)
