アメリカでやおい(Yaoi)が売れている!?ニューヨークの棚で見つけた意外な光景
2025年7月中旬のニューヨークはカラッと快晴。東京よりも若干涼しいくらいで、意気揚々と散策に出かけました。
一足街に踏み入れると、所々に大麻の匂いがします。行き交う人がすれ違い様に煙を吐いて、目に染みるような香りを残していくこともざらで、社会の違いを実感するのでした。
なぜか夏だというのに、街中の排出口からモクモクと湧き上がる煙。どうやらニューヨーク名物のようですが、初めて見るとギョッとします。
そしてやたらと蒸し暑い地下鉄の駅。べたつく湿気がこもっていて、体感40度くらいあった気がします。しばらく耐えてやってきた電車に座り、「タイムズスクエア駅」で降りました。そう。あるものを探すためここへ来たのでした。

紀伊國屋書店(「BOOKS Kinokuniya」)タイムズスクエア支店。ニューヨークはこの一軒のみです。日本の出版を広く取り揃えていて、文庫本・漫画・画集などが陳列される一角に、BL関連の本があると聞きました。以下では、BL作品の取り揃えについて詳しく見ていきます。
着目するポイントは以下の通りです。
やおい(Yaoi)ジャンルの総体的な勢いは?
どのようなやおい(Yaoi)本が売られているか
他ジャンル(中華・韓国BLやGLなど)とのすみ分けは?
他にもいくつか書店を巡りながら、これらのポイントを見ていきたいと思います。
やおい(Yaoi)とは?:英語圏のBLジャンル
始めにジャンル用語を確認しておきたいと思います。
「やおい(Yaoi)」は英語圏で、日本からのBL一般を指します。ですから日本で出版されたBL作品が、英語圏に輸入される際に、日本ものとしてカテゴリ化される際の呼び方ということです。
この記事においても、「やおい(Yaoi)」を日本BLという意味で使用しますので、少々紛らわしいですがご容赦ください。
紀伊國屋書店@タイムズスクエア:最大級のBL棚が並ぶ
さて、いよいよ店内に入ろうと思います。紀伊國屋書店タイムズスクエア支店は三階建てになっており、ざっくりと言えば、地下一階は文庫本、一階は一般図書、二階は漫画・グッズに分かれていました。
二階に上がってみると、エスカレーター近くに新刊が陳列されており、少年漫画・青年漫画・レディースコミックなどが並んでいます。
その奥へ進むと目当てのBL漫画棚が。/Yaoiとあるように、日本作品が中心となっていて、それに比べると欧米BLや中華・韓国のBLはより数が少ない印象です。


これらの棚は壁沿いをずらりと占めていて、所感ですが、アメリカの書店の中でも最大級の取り揃えなのではと思えるほどでした。名が知れている日本作品の英語翻訳は大抵揃っているようでした。
『鯛代くん君ってやつは。』『ひだまりが聴こえる』『ピンクハートジャム』『君には届かない。』などなど……
しかしそもそもの話、翻訳の出版が限られているという障壁がありそうです。そう考えつつ店内を散策していたところ、なんと日本語版の棚がありました。


まさか日本語の話者が少ないこの地で、BL新刊(日本語版)の字が見られるとは。物語の言語がどれだけ理解されているかはともかく、作品を探すには十分すぎるラインナップでした。
興味深いことに、英語版と日本語版のどちらのやおい(Yaoi)本棚にも、すぐ隣にガールズラブ(GL)の棚が設置してあり、どうやら同性キャラクターの恋愛を扱う作品という点で関連づけられているようです。
ジャンルのすみ分けという観点では、BL・やおい(Yaoi)漫画の棚にいくつかの中華・韓国作品が見られましたが、それとは別に、中華・韓国作品全般を扱う棚もそれぞれ個別に設けられていました。


本棚の配置とラベリングから鑑みるに、一口にBLと言っても、地域と作品形態に従ってジャンル分けされているような形です。
Anime Castle@クイーンズ:地元の専門書店
では個人経営の書店ではどうでしょうか?
マンハッタンのタイムズスクエアから東に進み、世界最大級のチャイナタウンがあるクイーンズという地区にやってきました。チャイナタウンの喧噪を抜けた静かな街並みに、一軒の漫画専門店「Anime Castle」があります。
店内は本が所せましと並べられていて、少年漫画、青年漫画といったジャンルが見られます。

入口近くの本棚は、アルファベット順に陳列されているわけではなく、ジャンルごとのサインも見つけられなかったので、やおい(Yaoi)作品を探すのは困難かと思われました。
しかし奥に入ってみると「Yaoi Manga」のサインが。

一面にずらり。奥の壁面を占めていました。
新旧問わず、需要がある作品は並べられているようです。やおい(Yaoi)作品は必ずしも万人向けとは言えませんが、こうして見ると、熱烈なファンがいることがよく分かります。
棚の下部にはBLに比べると数は少ないものの、ガールズラブ(GL)作品も並んでおり、やはり近似ジャンルとして売り出されている感じがします。
すみ分けを理解する上では、おそらく「クィア(既存の性カテゴリに当てはまらないもの・人々)」という概念が重要になるでしょう。BLとGLはどちらもクィア作品としてまとめられやすいからです。
さらに向かい合う棚には韓国漫画と中華BLのサインが。それぞれ「Manhwa(:韓国の漫画という意)」と「Danmei(:中華圏のBLの呼称)小説」というラベルが掲示されていました。いずれも東アジアの文化作品として、ターゲットとする読者層が近いように思われます。
紀伊國屋書店@ジョージア州アトランタ:東海岸を南へいく
東海岸を南下した先、ニューヨークよりはるか南に位置するのがアトランタという都市です。最後に、その都市周辺で直に漫画を買うために訪れるところを紹介します。

またもや紀伊國屋書店(「BOOKS Kinokuniya」)。アトランタ支店と言っても、実際には、都市の郊外へ1時間ほど車で出たところにあります。このあたりは住宅街で、日系住民の少ない地域です。
ニューヨークの支店と異なり、広々と開放的な平屋作りになっていて、手前には文房具や限定グッズが並び、奥には本が配列されています。

そして奥へ進むと、ついにお目当ての棚が。

例によってガールズラブ(GL)作品、中華・韓国BLの近くにありますが、ラベル分けされています。独特な点は、LGBTQIA+漫画のコーナーが併設されており、レポや体験記などの作品がカテゴライズされていることです。
やおい(Yaoi)作品について、配列は他の支店とそこまで変わりませんが、やはり規模で言えばニューヨーク支店の方が勝るようです。

往年の名作から最近のものまで、美麗な作品の数々が並べられていました。残念なことに、アトランタ支店は英語版のみで、日本語版の棚は置いてありませんでした。
全体として、やおい(Yaoi)作品群は漫画需要における一大ジャンルとして確固たる地位を築いているように見受けられました。曖昧な部分はありつつも、欧米・中華・韓国BLとは異なる位置づけを保ち、ジャンルの基盤であり続けています。
作品の流通には翻訳の制限があるものの、一度翻訳されれば、人気のある作品は世代を超えて棚に残りやすいように思えます。その意味では、英語圏でのプロモーションによって左右されると言えるでしょう。
日本とは違って、やおい(Yaoi)がクィアや東アジア作品のカテゴリに含まれているのも特徴的です。こちらについては、これらの他ジャンルとの衝突をできるだけ避けるような売り出し方が必要になると思います。
