「警察沙汰なら即クビ」で本当に大丈夫ですか?コンビニ店長に同じことが起きた時、就業規則の差が会社を殺す
阿部元監督のような問題が、もしコンビニ店長に起きたら
こんにちは。
有限会社吹田総業の吹田です。
今回は、少し重たいテーマを書きます。
最近、プロ野球界で大きな問題が話題になりました。
ここでは、その事案の真偽や細かい事実関係を語るつもりはありません。
私が考えたいのは、こういうことです。
もし、同じようなレベルの問題が、コンビニの店長に起きたらどうなるのか。
たとえば、店長がプライベートで重大なトラブルを起こした。
警察が関わるような事態になった。
報道される可能性もある。
従業員もざわつく。
お客様にも知られるかもしれない。
オーナーとしては、当然こう思うはずです。
「もう店には出せない」
「店長として置いておけない」
「警察沙汰なんだから、クビで当然だろう」
感情としては、よく分かります。
私でも、まずそう思うと思います。
しかし、ここで一番危ないのは、“警察沙汰だから即クビで当然”と思い込むことです。
コンビニの店長が雇用されている従業員であるならば、会社は感情だけで処分できません。
たとえ本人が重大な問題を起こしたとしても、会社側には会社側の手順があります。
事実確認。
本人への確認。
弁明の機会。
就業規則上の根拠。
処分の相当性。
出勤させない期間の賃金処理。
退職勧奨をするなら、その進め方。
懲戒解雇にするなら、その根拠と手続き。
このあたりを飛ばしてしまうと、あとから会社側が非常に苦しくなります。
「もう来なくていい」は、経営者にとって一番危ない言葉
現場でよくあるのは、オーナーが怒ってこう言ってしまうことです。
「もう来なくていい」
「しばらく店に来るな」
「顔も見たくない」
「警察沙汰になったんだから、辞めて当然だろう」
しかし、従業員側がこう言ってきたらどうでしょうか。
「私は出勤する意思があります」
「働く意思があります」
「会社が一方的に出勤させてくれないだけです」
この時、会社側にきちんとした根拠がなければ、非常に危険です。
会社が出勤させていないだけなら、賃金を払わなければならない可能性があります。
会社都合の休業と見られれば、休業手当の問題も出てきます。
懲戒処分としての出勤停止にしたつもりでも、就業規則に根拠がなければ、その処分自体が争われる可能性があります。
つまり、警察沙汰になったからといって、オーナーが自由に出勤を止められるわけではないのです。
ここを軽く考えているコンビニオーナーは、かなり多いと思います。
私の就業規則と、一般的な就業規則の違い
ここで、私が強く言いたいことがあります。
就業規則は、ただ持っていればいいものではありません。
問題は、その就業規則が、実際のトラブルに耐えられる作りになっているかどうかです。
私の会社の就業規則では、こういう場面を想定しています。
たとえば、従業員に規則違反の疑いがある場合、調査や処分決定までの前置措置として、自宅待機を命じることができる規定があります。さらに、自宅待機中は通常の賃金を支払うこと、勤務時間中は自宅で待機し、会社が出社を求めた場合には応じられる態勢を取ることまで書かれています。
これがあるだけで、会社側の対応は大きく変わります。
いきなり「来るな」と感情で言うのではなく、
「現在、事実確認中である」
「処分決定までの前置措置として自宅待機を命じる」
「この期間の賃金は規定に従って処理する」
「必要に応じて出社・事情聴取に応じてもらう」
という形を取れる。
これは大きいです。
さらに、私の就業規則では、懲戒解雇事由に該当するおそれがある場合や、不正行為の再発・証拠隠滅のおそれがある場合には、調査および審議が終了するまで就業を拒否することがある、という規定もあります。
ここが非常に重要です。
警察沙汰になった店長を、すぐ現場に戻せるのか。
金庫に触れる立場に戻せるのか。
アルバイトを指揮する立場に戻せるのか。
お客様の前に立たせられるのか。
普通は難しいと思います。
しかし、「難しいと思う」だけでは弱いのです。
会社として出勤を止めるなら、就業規則上の根拠が必要です。
私の就業規則は、そこをかなり現実的に作っています。
一般的なセブンイレブン共有の就業規則では、ここが弱い可能性がある
一方で、一般的に本部から共有されているような就業規則を見たとき、私は正直、かなり不安を感じます。
もちろん、基本的な条文はあります。
採用、労働時間、休日、休暇、退職、解雇、懲戒。
形式としては、ひと通り揃っているように見えます。
しかし、今回のような事案で本当に必要なのは、形式ではありません。
現場で何かが起きた時に、オーナーが何を根拠に、どの順番で、どこまでできるのか。
ここです。
警察沙汰になった店長を出勤させない。
調査が終わるまで店に入れない。
本人に事情を聞く。
証拠を残す。
弁明の機会を与える。
処分を決める。
退職なのか、普通解雇なのか、懲戒処分なのかを整理する。
賃金をどう扱うか判断する。
この一連の流れを、一般的な就業規則だけで安全に処理できるのか。
私はかなり疑問です。
特に危ないのは、オーナーがこう思い込むことです。
「就業規則があるから大丈夫」
「本部からもらったものだから大丈夫」
「警察沙汰ならクビで当然」
「本人に退職届を書かせれば終わり」
これは本当に危ないです。
就業規則があることと、実際に戦える就業規則であることは、まったく別です。
退職届を書かせれば終わり、ではありません
今回のような場面で、オーナーがやりがちな対応があります。
それは、本人に退職届を書かせることです。
「自分で辞めると言った」
「退職届を出した」
「だから問題ない」
そう考えたくなる気持ちは分かります。
しかし、これも非常に危険です。
本人が後から、
「強制された」
「辞めるしかない空気にされた」
「退職届を書かないともっと不利になると言われた」
「本当は働き続ける意思があった」
と言ってきたらどうなるでしょうか。
会社側に、きちんとした面談記録、説明記録、本人の意思確認、処分検討の過程がなければ、退職の有効性そのものが争われる可能性があります。
だから私は、退職届を取ること自体を否定しているのではありません。
問題は、退職届だけで安心するなということです。
会社側が事実確認をしたのか。
本人に説明したのか。
本人の弁明を聞いたのか。
退職以外の選択肢も説明したのか。
強制ではなかったのか。
その記録が残っているのか。
そこまで必要になります。
「犯罪をしたなら解雇できる」は、半分正しくて半分危ない
ここで誤解してほしくないのですが、私は、重大な問題を起こした従業員を処分できないと言っているのではありません。
むしろ、会社を守るために、処分すべき場面はあります。
ただし、問題はその処分が、就業規則に基づき、相当な手続きで行われているかどうかです。
たとえば、私生活上の非違行為であっても、会社の信用を傷つけた場合、職場秩序に重大な影響を与えた場合、業務に支障を与えた場合には、懲戒の対象になり得ます。
しかし、それを会社側がきちんと説明できる必要があります。
「警察沙汰だから」だけでは弱い。
「オーナーが腹を立てたから」では論外。
「店の空気が悪くなったから」だけでも足りない。
必要なのは、
その行為が会社にどのような影響を与えたのか。
店長という立場に照らして、なぜ重大なのか。
職場秩序にどのような支障があるのか。
お客様や従業員への影響はどうか。
再発防止や証拠隠滅の観点から、なぜ出勤させられないのか。
解雇以外の処分では足りないのか。
こういう整理です。
ここまで考えずに「クビ」と言ってしまうと、あとで会社側が苦しくなります。
私の就業規則なら、まず“止める”ことができる
今回のような事案で一番大事なのは、最初の一手です。
現場に戻していいのか。
店長業務を続けさせていいのか。
他の従業員への影響はどうか。
証拠や情報に触れさせていいのか。
お客様の前に立たせていいのか。
私の就業規則であれば、まず調査・処分決定までの前置措置として自宅待機を命じることができます。さらに、懲戒解雇事由に該当するおそれや不正行為の再発・証拠隠滅のおそれがある場合には、調査・審議終了まで就業を拒否できる規定があります。
これは、現場では非常に大きいです。
いきなり解雇するのではない。
いきなり退職届を書かせるのでもない。
いきなり出勤停止という懲戒処分にするのでもない。
まず、会社として安全確保と事実確認のために動く。
そのための根拠を就業規則に置いている。
ここが、一般的な就業規則との差です。
普通の就業規則では、ここが曖昧なままになりがちです。
だから、オーナーの感情で「来るな」と言ってしまう。
そして後から「賃金を払え」「不当解雇だ」「退職強要だ」と言われる。
これでは会社を守れません。
損害賠償や退職後責任まで見ているか
もう一つ、大きな違いがあります。
今回のような問題で、会社に損害が出ることもあります。
シフトが崩れる。
採用費がかかる。
店の信用が落ちる。
売上に影響する。
第三者から何らかの請求を受ける。
退職後に問題が発覚する。
こういう時に、会社としてどこまで責任追及できるのか。
私の就業規則では、従業員または従業員であった者が、故意または重大な過失によって会社に損害を与えた場合、損害の全部または一部の賠償を求めることがある、という規定があります。さらに、退職後であっても在職中の行為に起因する損害については責任を負う、という規定もあります。
これも現場では大事です。
もちろん、規定があるから何でも請求できるという話ではありません。
損害賠償には法的なハードルがあります。
実際に請求するなら、社労士や弁護士と相談しながら慎重に進める必要があります。
しかし、最初から規定がなければ、会社側の主張はさらに弱くなります。
ここも、一般的な就業規則と大きく違うところです。
本部の就業規則は、オーナーを守るための防具なのか
私は、ここを一番問いかけたいのです。
本部から共有されている就業規則は、本当に加盟店オーナーを守るための防具になっているのでしょうか。
もちろん、最低限の形はあります。
でも、今回のような現実のトラブルに耐えられるのか。
警察沙汰になった店長を、どう扱うのか。
出勤を止める根拠はあるのか。
賃金はどうするのか。
本人の弁明はどう取るのか。
懲戒処分の段階はどう踏むのか。
退職届を書かせるなら、どう記録を残すのか。
懲戒解雇にするなら、どこまで証拠を積むのか。
会社の信用毀損や職場秩序への影響をどう説明するのか。
このあたりが曖昧なままなら、それは“就業規則がある”とは言えても、“戦える就業規則がある”とは言えないと思います。
オーナーが一番やってはいけないこと
今回のようなケースで、オーナーが一番やってはいけないことは、感情で動くことです。
「警察沙汰だからクビ」
「店長失格だから辞めろ」
「もう来なくていい」
「退職届を書け」
「本部にも迷惑がかかるから今すぐ辞めろ」
これをやってしまうと、会社側が不利になります。
本当にやるべきことは、逆です。
まず、事実確認。
次に、就業規則上の根拠確認。
必要なら自宅待機。
本人への事情聴取。
弁明の機会。
証拠の整理。
処分案の検討。
社労士・弁護士への相談。
そして、最終判断。
面倒くさいと思うかもしれません。
でも、これが会社を守るということです。
コンビニオーナーは、労務リスクを軽く見すぎている
私は、コンビニオーナーは労務リスクを軽く見すぎていると思っています。
売上、廃棄、シフト、人件費、発注。
そこにはものすごく敏感です。
でも、就業規則、懲戒、解雇、退職勧奨、休業手当、社会保険、労働時間管理。
こういう話になると、急に雑になる人が多い。
「そこまでする必要ある?」
「うちは小さい店だから」
「本部の就業規則があるから」
「今まで問題なかったから」
「警察沙汰ならさすがにクビでしょ」
その考え方が、危ないのです。
従業員側は、今は知識を持っています。
AIで調べることもできます。
労基署、ユニオン、弁護士、SNS、いくらでも情報にアクセスできます。
一方で、オーナー側が昔の感覚のままなら、負けます。
就業規則は、社長の感情を止めるためにある
私自身、過去に労働問題で痛い目を見ています。
その時に私を守ったのは、気合でも、人情でも、本部でもありませんでした。
守ってくれたのは、社労士の先生と一緒に作っていた独自の就業規則でした。
私の過去記事にも書いていますが、独自の就業規則があったことで労働局のあっせんでも大きな武器になり、結果として大きな傷にならずに済んだ経験があります。
だから私は、就業規則をただの紙だとは思っていません。
就業規則は、社長の感情を止めるためにあります。
オーナーの怒りを、手続きに変えるためにあります。
従業員を守るためにも、会社を守るためにもあります。
「腹が立ったからクビ」ではなく、
「規定に基づき、事実を確認し、手順を踏んで判断する」。
これができる会社と、できない会社では、労務トラブルが起きた時の結果がまったく変わります。
今回のような問題は、他人事ではない
プロ野球の監督の話だから、自分には関係ない。
そう思う人もいるかもしれません。
でも、私はそう思いません。
コンビニでも、店長や幹部スタッフがプライベートで問題を起こすことはあり得ます。
警察沙汰になることもあり得ます。
SNSに出ることもあり得ます。
お客様に知られることもあり得ます。
従業員が不安になることもあり得ます。
その時、あなたの店はどうしますか。
本部の就業規則を見ながら、
「たぶんこれでいけるだろう」
で処理しますか。
それとも、あらかじめ現実のトラブルを想定した就業規則を整えておきますか。
この差は、事件が起きてからでは取り戻せません。
まとめ:問題が起きてからでは遅い
今回、私が言いたいことは一つです。
警察沙汰になった従業員であっても、会社は感情だけで処分できない。
だからこそ、就業規則が必要です。
しかも、ただの就業規則では足りません。
現実に起こるトラブルを想定し、
出勤を止める根拠があり、
調査の手順があり、
弁明の機会を踏まえ、
懲戒・解雇・退職の判断に耐えられる、
そういう就業規則でなければ意味がありません。
本部から共有されている一般的な就業規則で、本当にそこまで守れるのか。
一度、真剣に見直した方がいいと思います。
「就業規則があります」では弱い。
大事なのは、
その就業規則で、実際に会社を守れるのか
です。
私は、自分の会社の就業規則を、社労士の先生と一緒に、何度も現実のトラブルを見ながら作ってきました。
血と汗と涙の結晶です。
そして、実際に助けられたことがあります。
コンビニオーナーの皆さん。
売上や人件費を見るのも大事です。
でも、労務リスクを軽く見てはいけません。
問題が起きてからでは、遅いのです。
※本記事は、コンビニ経営における労務リスクについて、筆者自身の経験と問題意識をもとに書いたものです。個別具体的な懲戒・解雇・退職勧奨・就業規則の届出等については、必ず社労士・弁護士等の専門家にご相談ください。私は就業規則の考え方や実務上の注意点を共有することはできますが、労基署への届出や個別案件の法的代理を行う立場ではありません。
