あ 13話
バザー翌朝1・男
オーブントースターに冷凍ピザを二枚並べる。
つまみを回す。
指先がテカテカになった。
ひまわり柄の暖簾を分ける。
牛乳パックを食卓に運ぶ。
小さな藍色のコップに牛乳を注ぐと、牛乳が青白く見える。
一口、毒見する。
「わたしの飲んじゃだめ」
と娘。
ぼくの太ももに、左右交互の拳でパンチしてくる。
「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、なーな、はーち、きゅう」
足を後ろへ振りあげる娘。
「とお!」
ガンッ。
食卓の脚を蹴る。
天板が揺れる。コップの牛乳が波打つ。
しゃがみ込む娘。
膝に顔を埋める。
足の甲を押さえる。
ぼくもしゃがむ。
娘の頭を撫でる。
臭い。
振り返る。
キッチンに靄がかかっている。
立ちあがり、暖簾を分け進む。
段々靄が濃くなる。
背中を屈めオーブントースターを覗く。
庫内に、炎。
「アルミホイル敷かなかったんだね」
と鼻声。
振り返る。
寝巻の妻。
流し台に立つ後ろ姿。
首に湿布。
グラスに水道水を注ぎ、飲み干す。
振り返り、ぼくを見つめる。
白目が真っ赤。
「蓋、開けちゃだめだよ」と妻。
「消火器どこ?」とぼく。
「待ってれば消える」
妻はグラスを置き、去っていく。
階段をのぼる足音。
ぼくは受話器を握る。
消防車のサイレンの音。
近づき、止まる。
網戸にした掃き出し窓から外を見ている娘。
つま先立ち。
玄関を開ける。
消防士。四人。
防火服を着ている。
「怪我人はいますか?」
と消防士。
「待っていたら消えました」
とぼく。
靴のまま家に上がってくる消防士たち。
一人は換気扇を見あげ、一人はオーブントースターを覗きメモを取り、一人は手袋を脱いで娘と手をつなぐ。
「結婚しようね」
と消防士を見あげる娘。
「何人住んでますか?」
メモを取る消防士がぼくに言う。
ぼくは薄暗い階段の先を見あげる。
指を閉じ気味に、三本立てる。
