あ 10話

バザー帰り・女


園庭は、園児と保護者で七割埋まっている。

わたしは物置の戸を閉め忘れた気がしている。

物置に視線を向ける。
そばにあるプランター。
咲き揃ったオレンジ色のマリーゴールド。
その前に、ぽつんとしゃがんだ青野さんの娘の姿。
手を伸ばし、花の表面を左から右へ、右から左へ、何往復も撫でている。

ぽろっ。

花の頭。

園庭の乾いた砂の上に落ちた。

それを手のひらに乗せる青野さんの娘。
俯いた。
段々垂れ下がっていく頭。
ひらいた膝の中に隠れ、ダンゴムシみたいに丸くなった。


「おかあしゃん」
と声。

視線を下に向ける。

娘。

わたしに四角い通園バッグを差し出している。

受け取る。

背を向ける娘。
しゃがむ。
その姿勢のまま歩き出した。

プランターの前で丸まったダンゴムシ。

娘が肩を叩くと、頭を出した。
立ちあがり、駆け出す二人。
すべり台の行列の最後尾に並ぶ。

小さな手のひらに、マリーゴールドの花。

青野さんの娘が、娘の髪に挿す。

小さな手が離れると、一瞬で花は落ちた。

足もとを見下ろす二人。

周りの園児らも一緒に見下ろす。
行列が、全員俯いた。

娘が前屈をする。
花を拾う。
自分の頭のてっぺんに花を乗せ、微笑んで見せる。

青野さんの娘。
下唇を突き出した半べそ顔。
笑った。

行列も、顔をあげた。



不意に視線を感じ、左へ顔を向ける。

男の横顔。

園児の行列を眺めている。
口がぽかんとひらき、山形県の形みたい。

わたしは一歩前へ出る。
視線を下にずらす。
男のズボンの前ポケット。

ワンポイントのワニも、変わらず口を開けていた。


娘の手が、わたしの手を握る。
小さな歩幅に合わせ、園庭を出た。

前方の道、横断歩道に向かって歩く青野さんの家族が見える。
子どもを真ん中に挟み、手をつないだ後ろ姿。

三つの短い影。
アスファルトの上、同じリズムで弾んでいた。