【シャンパンコール】第2話「絶対零度のプリンセス」
耳を突き刺すような、忌々しいシャンパンコールの声。弾ける泡の音さえ、今のノアには神経を逆撫でするノイズでしかない。
——

「へぇ……。
リコ、大好き……ねぇ。
そうなんだあ……。
ユキぴのエースはノアなのにね。
てか、ノアの前で他の姫に
『大好き!』とか言えちゃうんだ……」
口から漏れた自分の声が、冷たく響く……

グラスを持つ指先に力が入り、指の関節が白く浮き上がる。視界の端で、リコとかいう女が勝ち誇ったような顔をしているのが、たまらなく癪に障る。
「ばっかじゃないの!?ユキぴもユキぴだよ!そんなに、高いボトルでもないくせに!!デレんなよ!!」
思わず本音を口にすると、ユキぴのヘルプでついている"レン"が、必死に場を繋ごうとノアをなだめてくる。
「まあまあ、ノアちゃん。ちょっと落ち着こ?
ぼくでよかったらいくらでも話し聞くからさ💦
今は、ぼくと楽しくお酒飲もうよ?ね??
それか……なんか食べる!?
甘いやつあるよ??」

……隣の子犬がウザイ。
(お菓子だの、甘いものだの。……バカじゃないの? ノアが今、そんなもので満たされるとでも思ってるわけ?)
ノアの目は、フロアの中心でリコに微笑みかけるユキぴに釘付けだった。
あの笑顔も、優しい声も、全部ノアのものなのに。
「……特別な日かなんか知らないけど……
ちょっとあの担当被り、調子に乗り過ぎだよね!?」
抑えきれない感情が言葉になって溢れ出す。
もう、我慢の限界だった。
……
「ユキぴの1番になっていいのはノアだけなんだよ???……レンくんもそう思うよね?」
「ああ……ね。それはさー。ぼくも認めてるって。でもさあ……。こんなことユキぴさんが聞いたら悲しくなっちゃうよ?」
ノアはレンをキッと睨みつけると、彼は狼狽えながらノアの機嫌を取り始めた。そして、レンの言葉を遮るように、ノアは鋭く言い放つ。

……
「ねえ、レンくん……
あれより高いシャンパン持ってきて。2本!」
……

「……あれって、めちゃくちゃ高いやつだよ?
それに……
今のシャンパンコール見てたよね??
今から被せるのは……さすがにさ……」
「だからじゃん。
ユキぴを1番にするのも、ユキぴの1番になるのもノアじゃなきゃだめなの。……特別な日、なんて関係ない!!」

「……ユキぴが、ノアの前であの子のためにラスソンなんて歌ったら
……ノア、絶対に許さないから!!!」
震える手で、ノアはレンを急かす。
「ねえ!早くしてよ!!
シャンパン!ピンクとゴールドのやつ!
2本!!!」

(ユキぴの1番はいつだってノアなの!1秒だって譲らない)
……
……
レンは一瞬、呆れたように肩をすくめたが、すぐに仕事用の顔に戻り、右手を上げて内勤を呼んでくれた。

黒服の男に差し出されたきらびやかな伝票を強引に受け取り、サインをすると、ようやく少しだけ呼吸が楽になった……。
——
しばらくすると、店内のBGMが切り替わり、耳を突き刺すような爆音のシャンパンコールが鳴り響いた……。
ノアがホストからマイクを奪い上げると、フロア中の視線がノアに集まる。
そうそう♡これでいい。

「今日はユキぴと被りちゃんの特別な日みたいなのでー。ノアからもユキぴにお祝いのシャンパンいれちゃいまーす。
よいちょ♡」
ザワつく店内で浴びるように交わされるシャンパンコール……
(ここで勝つのは純粋な愛なんかじゃない。
札束だ……
金額=愛の大きさなんだよ!!思い知れ!!
「あはは♡たのしー✨✨
せーの!……かんぱーい♡」
浴びるようにシャンパンを流し込み、満足感に浸りながらあの女を睨みつける。
今日もユキぴは、ノアのものだよ?
これでわかったかな?
——
喧騒が一段落し、ようやく隣に来たユキぴの腕を引くと、ギュっ……としがみついた。
「遅い。ずっと待ってたんだよ?」
「ごめん……」

ユキぴは一言だけそう言うと、何も言わずにシャンパングラスに口をつけた。
「ユキぴ♡ノアのお酒おいし??」
「……うん。」
……彼は明らかに不機嫌そうだ。でも、ノアは何も悪くない。ノアのお金を、ユキぴのために使っただけ。なんなら怒ってるのはこっちの方だ。
気だるげな彼の態度が、更にノアの怒りの矛先を刺激する……。
「許さないよ?
被りと同じ空間にいるだけでもムカつくのに……
ノア以外の女の子に優しくしないでよ!!
ノア以外の女の子に『大好き!』なんて絶対に言わないで!!!……わかってくれてるよね?」
ユキぴの大きな手が、ノアにそっと伸びてきた……
ノアはその手を取ると、両手でギュウっと握りしめた。そして、目を見て真っ直ぐにこう告げる……
「ユキぴをNo.1にできるのはノアだけだよ?
大好き……
——
だから、ノアのことだけ大切にして……」
……
……
祈るような気持ちだった……
自分でも分かってる……
お金で繋ぎ止める関係がどれほどくだらなくて儚いかなんてことくらい……
それでも……ノアにはユキぴが必要だった
……おねがい、ユキぴ……
ノアだけを見てて……?

