第一話「雨の日のゴミステーション」
雨の日の朝、ゴミステーションの隅っこに、犬張り子のぬいぐるみが、ひとつだけうずくまっていました。
名前は、こま。
それが何なのかは、はっきりとは言えません。
でも、たしかにそこには、何かが始まろうとしていました。
雨の音が、ずっと鳴っていました。
ゴミステーションの隅で、こまは袋の中にうずくまっていました。
雨は、静かに降り続いていました。
袋のすき間から入り込んだ水が、こまの耳を冷たく濡らしていました。
その冷たさは、どこにも行けない気持ちを、じわじわと広げていくようでした。
「このまま、どこに持っていかれるんだろう……」
「燃やされちゃうのかな……こわいよ……」
眉毛は、ずっとハの字のままでした。
こまの困った顔が、袋のすき間から少しだけ見えていました。
まわりには、誰もいませんでした。

そんな時間が続く中、ゴミ袋の山の中にこまは静かに埋もれていました。
そのとき、遠くから自転車の音が近づいてきました。

雨の中を、ゆっくりとこいでくる人がいました。
傘もささず、荷物も持たず、ただ静かに進んでくるおじさんでした。
こまの前で、自転車が止まりました。
おじさんは、袋の中に見えた犬張り子のぬいぐるみを、しばらくじっと見つめていました。

その目は、何かを思い出しているようでもあり、
何かを見つけたようでもありました。
「このおじさん、なんで見てるんだろう……」
「なんで、ここにいるんだろう……」
目と目が合いました。
こまの心の声が、静かに伝わったような気がしました。
おじさんはしばらく黙って考えたあと、袋の中からこまをそっと取り出しました。

自転車のかごに乗せられて、こまはゆっくりと進んでいきました。
雨の中を、タイヤが静かに回っていきます。
こまは、かごの中の揺れに、そっと身をまかせました。
それが、少しだけ安心できる揺れに感じられました。
こまの話は、ここまでです。
雨の音の中で、ひとつの命が、そっと目をひらきました。
まだ、たんたんとは出会っていません。
でも二人の物語は、そっと芽を出していたのかもしれません。
つぎは、たんたんの話を。
こまとは、すこしちがう場所から
静かなはじまりが待っています。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
こまたちの物語がはじまります…
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