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第二話「誰にも見つけられず、ただそこに」

前回のお話はこちらから


誰にも見つけられず、ただそこに“いる”ということ。
それは、静かで、さみしくて、でも確かに続いている時間です。
この物語は、そんな時間の中にいた、ひとつのぬいぐるみのお話です。
声もなく、動くこともできないまま、
それでも、世界のどこかで誰かに見つけてもらえることを、
ほんのすこしだけ願っていた——
それは、長い時間の奥に、そっと溶け込んでいた小さな願いでした。


林の中をゆるやかに通る細い道。
その道の脇に、ひとつの段ボールが置かれていました。
草むらに半分埋もれるようにして、誰にも気づかれないまま、静かに時間だけが流れていきました。
白いアライグマのぬいぐるみが、そこに静かに座っていました。
どれほどの時間が過ぎたのか、もう誰にもわかりません。
でも、たんたんは、ずっとそこに“いた”のです。

猫が近づいてくるたびに、体の奥がきゅっと縮こまり、そのたびに、恐怖が静かに体の中を這っていきました。
夜には、あちこちから獣のような鳴き声が響いてきて、たんたんは、音のない声で震えていました。
昼は、灼熱の陽ざしが容赦なく照りつけて、段ボールのふちは焼けるように熱くなりました。
風もなく、空気は重たく、たんたんの体はじわじわと乾いていきました。

夜になると、世界は一転して静まり返り、真っ暗な闇がすべてを飲み込んでいました。
音がないのに、何かが近くにいるような気配だけが残っていて、たんたんは目を閉じることもできずに、ただじっとしていました。

雨の日には、空が怒っているようでした。
冷たい水が容赦なく降り注ぎ、段ボールの底はじわじわと濡れていき、
たんたんの体も、しずかに重たくなっていきました。
水が染み込むたびに、冷えが骨の奥まで届くようで、たんたんは寒さに震えながら、その“こわさ”を、静かに受け止めていました。

怖かった。
さみしかった。
でも、たんたんが感じていたのは、ただ目の前の怖さだけではありませんでした。
たんたんの中には、言葉にならない何かがありました。
それは、さみしさに沈みながらも、まわりの獣の気配や、夜の冷たさに怯えながら、
「このまま、誰にも見つけられずに、まっくらな世界に沈んでしまうのがこわい」
そんな気持ちが、たんたんの中でじっと息をしていたのです。
それは、世界から静かに消えてしまうことへのおびえでした。
誰にも気づかれず、誰にも触れられず、ただ、時間の奥に埋もれていくような
そんな“終わり”が、たんたんのすぐそばにあるような気がしていたのです。

ある日の午後、遠くからギシギシと軋むような音が聞こえてきました。
落ち葉を踏むタイヤの音と、ゆっくりと自転車をこぐ気配です。
たんたんは、耳の奥でその音をじっと聴いていました。
音は近づいてきて、やがて止まりました。
段ボールの前に、誰かが立っていました。
たんたんは、目を動かすこともできないまま、ただその気配を感じていました。
しばらくの沈黙のあと、その人はそっとしゃがみ込み、手を差し伸べました。

たんたんの心の声が、ふわりと浮かびました。
「助けてくれるのかな…?」
その手は、あたたかかった…
それは、たんたんの中に長く降り積もっていた不安やこわさを、そっとなだめるようなぬくもりでした。

何かが変わるわけではないけれど、
何も言われたわけでもないけれど、
たんたんは、少しだけ安心しました。
ここにいてもいいのかもしれない
そんな気持ちが、静かに胸の奥に灯ったのです。


たんたんのはじまりの話は、これでおわり。
でも、それはこまと出会うための、静かなはじまりでもありました。
ここから、物語がすこしずつ動き出していきます。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
こまとたんたんの物語がはじまります…

この作品をYouTubeでも見ることができます。
手描きのイラストを追加し、さらにBGMや効果音で臨場感ある、大人のための動く絵本となっております。
ぜひご覧ください。
▼YouTube動画はこちらから


第三話はこちらから読むことができます。


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