日産は、なぜ“欲しい車”を失ったのか――日産再建を読む②
日産は、なぜ“欲しい車”を失ったのか――日産再建を読む②
前回、日産の再建策を「止血」として読んだ。
工場を閉める。
人を減らす。
車種を絞る。
固定費を削る。
売上12兆円規模の会社が、営業利益率0.5%まで沈んでいる以上、コスト削減は避けられない。
だが、止血は再建ではない。
日産の本当の問題は、コストが重いことだけではない。
もっと根本にあるのは、今の日産車に「買いたい」と思わせる力が弱くなっていることだ。
数字にも、魅力の低下は表れている
これは単なる印象論ではない。
2025年度の日産のグローバル販売台数は315万台だった。
前年比で5.8%減である。
売上高は12兆円ある。
しかし、販売台数は減り、営業利益率は0.5%に沈んでいる。
さらに象徴的なのは、スズキに抜かれたことだ。
2025年の世界販売で、スズキは約330万台。
日産は約320万台。
長らく日本の大手自動車メーカーとして世界で存在感を持っていた日産が、軽・小型車に強いスズキに販売台数で上回られた。
もちろん、スズキが強いこと自体は悪いことではない。
問題は、日産がそれだけ存在感を落としていることだ。
トヨタ/レクサスは、同じ2025年に世界で1000万台を超える規模を維持している。
日産との差は、もはや単なる販売台数の差ではない。
ブランドの強さ、商品力、選ばれる理由の差でもある。
国内でも厳しい。
2025年度の国内新車市場は約453万台だったが、日産の国内販売は40万台を下回った。
比較可能な1993年以降、年度として初めての40万台割れである。
日産車がまったく売れていないわけではない。
しかし、かつての名門としての存在感は明らかに薄れている。
日産は、何で選ばれる会社なのか
車を買うとき、人は何かしらの理由で選ぶ。
燃費がいいから。
デザインが好きだから。
ブランドに憧れるから。
価格が安いから。
家族に合うから。
走りが楽しいから。
先進性を感じるから。
では、今の日産は何で選ばれているのか。
ここが見えにくい。
低燃費で長距離を安心して走るなら、トヨタのプリウスがある。
幅広いデザインとラインナップなら、トヨタやレクサスが強い。
高級ラグジュアリーなら、レクサスやメルセデス・ベンツがある。
EVの先進感なら、テスラがある。
格安EVなら、BYDをはじめとした中国勢が台頭している。
もちろん、日産にも車はある。
セレナがある。
エクストレイルがある。
ノートがある。
サクラがある。
Zがある。
GT-Rがある。
しかし、消費者の頭の中で「この用途ならまず日産」と浮かぶ場面が減っているのではないか。
これが深刻だと思う。
ミニバンでも、日産は主役を奪われた
かつて日産には、エルグランドがあった。
初代エルグランドは、迫力あるデザインと広い室内、豪華な内装で、「高級ミニバン」という市場を作った一台だった。
元祖キング・オブ・ミニバンと呼んでもいい存在だった。
だが、その市場は今、完全にトヨタに握られている。
2025年のミニバン販売台数を見ると、トヨタ・アルファードは86,959台。
ヴェルファイアは33,031台。
2車種合計で119,990台である。
一方、日産のエルグランドはトップ10にも入っていない。
近年の販売台数は、年間2,000台前後、月100〜200台ペースとされる。
高級ミニバンという市場を切り開いた日産が、今ではその市場でほとんど存在感を示せていない。
これはかなり象徴的だ。
日産は、単に販売台数で負けているだけではない。
「高級ミニバンといえば何か」という消費者の頭の中の場所を、トヨタに奪われている。
実用ミニバンでも同じだ。
2025年の販売台数では、トヨタ・シエンタが106,558台、ノアが80,065台、ヴォクシーが78,760台。
日産セレナは71,465台で、まだ一定の存在感はある。
だが、トヨタはコンパクトからミドル、高級ミニバンまで、複数の車種で市場を面で押さえている。
日産はセレナが踏ん張っているものの、ラインナップ全体としてはトヨタに包囲されている。
良い車が一台あるだけでは足りない。
市場の中で、ブランドとして選ばれる理由を作らなければならない。
エルグランドの低迷は、日産がかつて持っていた魅力の一つを失った象徴だと思う。
“悪くない車”では選ばれない
今の日産車が、すべて悪いと言いたいわけではない。
一つ一つを見れば、悪くない車はある。
セレナは家族車として実用的だし、ノートやサクラには日常の足としての魅力がある。
e-POWERも、街乗り中心の日本では使いやすい技術だと思う。
だが、悪くないだけでは選ばれない。
今の自動車市場では、消費者に明確な理由を与えなければならない。
この車が欲しい。
このブランドを選びたい。
この会社の未来に乗りたい。
そう思わせる力が必要だ。
今の日産には、その購買魅力が弱い。
EVも、e-POWERも、旗になりきれていない
日産は、本来ならEVで強い物語を持てた会社だった。
リーフは、量産EVの先駆けだった。
世界がまだ様子見をしていた時代に、日産はEVを本気で出した。
しかし、今のEV市場で日産が主役に見えるかというと、そうではない。
EVの先進感ではテスラが強い。
価格ではBYDなど中国勢が強い。
高級EVでは欧州勢やレクサスも存在感を増している。
日産は早く走り出した。
だが、その先駆者としての優位を、ブランドの魅力に変えきれなかった。
e-POWERも同じだ。
静かで、滑らかで、街乗りに合う。
ノートやセレナのe-POWERには、日産らしい実用電動車の魅力がある。
だが、トヨタのハイブリッドほど圧倒的に社会へ浸透しているわけではない。
テスラのような未来感があるわけでもない。
BYDのような価格破壊力があるわけでもない。
良い技術なのに、購買理由としての強さが足りない。
ここにも、今の日産のもったいなさがある。
かつての日産には、尖りがあった
かつての日産には、もっと分かりやすい魅力があった。
スカイライン。
フェアレディZ。
GT-R。
シルビア。
マーチ。
エルグランド。
日産車には、どこか少し癖があった。
トヨタほど優等生ではない。
だが、技術と情緒があった。
「技術の日産」という言葉にも、まだ説得力があった。
今の日産には、その尖りが薄れている。
車種はある。
技術もある。
歴史もある。
しかし、それが「だから日産を買う」という理由に変わっていない。
今の延長線に、勝ち筋は見えない
日産再建の本質は、コスト削減だけではない。
いくら工場を減らしても、いくら人を減らしても、消費者が日産車を欲しいと思わなければ、再建は完成しない。
そして、今の体制のまま、従来型の自動車メーカーとしてダラダラ車を作り続けても、勝ち筋は見えにくい。
低燃費ならトヨタがいる。
高級ならレクサスやベンツがいる。
EVならテスラやBYDがいる。
幅広いラインナップでも、トヨタの壁は厚い。
その中で、日産がもう一度「何でも作る総合自動車メーカー」として戦おうとしても、よほど明確な武器がなければ厳しい。
だからこそ、日産は単に車種を整理するだけでは足りない。
車をどう売るかではなく、日産という会社をどこに置き直すかを考えるべきだ。
GT-Rは残す。
技術の日産という魂は残す。
マーチのような生活の足も、もう一度考え直す。
だが、それだけではまだ足りない。
次回は、その具体案として、日産を国内モビリティ・公共交通インフラ企業へ作り替える再建案を考える。
縮むだけでは、名門は戻らない。
そして、今の延長線で車を作り続けるだけでは、日産の未来は描けない。

