ペー太郎とスケ次郎のオモンオモン
スケ次郎は、コーヒーに牛乳を入れて混ぜながら、兄のペー太郎の顔を見て話し始めた。
「で、インドネシアに3年間住んでいて、どうよ兄さん」
ペー太郎は先週インドネシアから里帰りして、やっと弟とゆっくり話し合うことが出来た。二人は所帯持ちなので、時間を調整してそれぞれの家から丁度真ん中ぐらいに位置している喫茶店にバスで来ていた。
弟に出来る男として思われたいので、知っているインドネシア語をスケ次郎に自慢しようと考えていた。
「インドネシアは面白い所だ。飯も旨いし、言葉もそんなに難しくないよ」
そう言いながら、スプーンで千切ったチーズケーキを口に運んだ。
「人も多いだろう。確か人口で言うと世界第四位ぐらいかな」
弟は、俺は知ってるぜみたいな顔をしてそう言った。
「若者が多いよ。けど、人は居るが、オランだな」
兄はまたチーズケーキを一口食べながら言った。
「えっ?どういうこと?」
「まあ、人はインドネシア語でオランというんだよ」
訳の分からない弟に、ペー太郎は説明した。
「ほー、インドネシア語は面白いね、兄さん」
「そうだろう?朝なんてもうあっちこっちが渋滞だ。若者は一斉にスコラに行ってるからな」
「えっ?モスラがどうしたって?」
スケ次郎は昔の映画を思い出しながら、そういった。
「確かに、大群のモスラに出くわしたら、そりゃ渋滞だね。まあ、実際に起きたら、渋滞どころじゃないね。けど、俺が言いたいのは、若者は皆学校へ行くから、道路が渋滞してるよ。スコラというのは、学校のことだよ」
「ああ、なるほどね、学校か。東宝怪獣映画に出てくるあれかと思ったよ。びっくりさせないでよー」
「ところで、若者がいっぱい居るから、おやつの種類も多いんじゃないの」
興味深々の弟がそう言った。
「そうだよ、皆クエクエと言ってるんだよな」
「へえー、食え食えと命令されないと皆おやつを食べないんだね」
とスケ次郎は納得している様子。
「違うよ。クエというのはな、おやつのインドネシア語だよ」
「あっ、そーゆーことね。なかなか面白いね、インドネシア語。私も習おうかな。教えてね、兄さん」
「ああ、お腹いっぱいだ。スダ」
ペー太郎は、チーズケーキの最後の一口を平らげたのち、そう言った。
「須藤さんがどうしたん?」
「ん?須藤さん?俺はスダと言ったんだ。チーズケーキは済んだということだよ」
「ああ、食べ終わったということね」
「そうそう。ところで、お前は来る前に何か食ったか」
「嫁が焼きおにぎりを作ったから、それを食べて来たよ」
弟は自慢気に言った。
「兄さんは、何か食べて来たかい」
「ミーを食ったよ」
と言いながら、ペー太郎は手を挙げて店員を呼んだ。
それを聞いて、心配そうに弟は返した。
「兄さん、熱でもあるのかい?」
丁度店員さんも来ているので、さっきのくだりはその子も聞いているみたいで、弟同様心配そうにペー太郎の顔を確認している様子。
「よせよ、俺はビンビンだぜ。もしかして、お前誤解してるんじゃないのか。俺自身を食う訳ねーだろう。ミーというのは麺類のことだよ」
「ああ、麺類を食べて来たってことね。ビックリした」
スケ次郎はホッとした。店員さんもニコッと笑った。
「マルだろう、人が居るんじゃないか」
ペー太郎はちょっと恥ずかしそうに言った。
「兄さん、今度は何が良いか、何が悪いと言うんだい」
「いや、俺はただ恥ずかしいと言っただけだ」
「あれっ、もしかして、そのマルというのは、マルバツの話ではなく、インドネシア語の恥ずかしいを言ったの」
「そうよ。お前もよーわかっとるな。流石俺の弟や」
「なによ、兄さん。そう言わんといてよ。今度はこっちがマルだよ」
兄弟のやりとりに耐え切れない店員は、すぐに尋ねた。
「なんでしょうか」
「おお、勘定をくれ」
「ああ、お会計ですね。かしこまりました。少々お待ちください」
と返事してすぐに、店員さんはお店の入り口付近のカウンタの方に小走りで行った。
「行くぞ、ビスの時間だ」
「ヒドイね、兄さん。さっきは私を褒めてたのに、今度はなによ、私にブスって」
「いや、違う違う。また勘違いしてるんだな、お前は。そろそろバスが来る時間と言ったんだよ」
「ああ、バスはインドネシア語でビスというんだね」
「そーよ」
そう言って、二人は席を立って店員が居るカウンタの方へ向かった。
*)オモンオモン(インドネシア語):くだらない話
