全員が「最終出荷責任者」だと腹落ちした瞬間、現場の空気が変わった
▶ まず最初にこの一文を読んでほしい
部門の数字を守るために、
誰もお客様を見ていなかった。
その事実に全員が気づいた日、
300人の現場は初めて「一つの組織」になった。
品質問題が繰り返されると会議が開かれるが、
その会議では決まってこんな言葉が飛び交う。
「製造側の作業ミスです」
「いや、設計の仕様が曖昧だったからだ」
「品質部門が検査で見落としている」
「最終検査での扱いが雑だからだ」
各部門が自分の数字を守ろうとするほど責任のなすり合いになる。
前の記事で「本音が上がってくる組織」を作る話を書いた。
動き出した組織には次の壁がある。
問題が見えているのに解決されない。
それぞれの部門が自分の担当範囲だけを見て、
誰も全体のつながりを見ていなかった。
正に部門の間に立ちはだかる壁だった。
■ あなたの職場にこんな光景はないか
製造部門は製造の数字を見ている。
直行率、サイクルタイム、稼働率。
品質部門は品質の数字を見ている。
不良率、クレーム件数、是正処置の完了率。
物流部門は納期と出荷数を見ている。
技術部門は設計仕様と工程能力を見ている。
それぞれが自分のKPIを守るために動いている。
一見、組織として機能しているように見える。
しかし、その先にいるお客様を誰が見ているのか。
製品がお客様に届いた時、お客様はどの部門が作ったかを知らない。
クレームが来た時「それは製造の問題です」という説明は通用しない。
会社全体として一つの製品を届けているのだ。
この当たり前の事実が大きな組織になるほど見えにくくなってしまう。
■ なぜ部門の壁が品質を壊すのか
組織は「手段」のはずが、いつか「目的」になる
製造業の会社が部門を分けるのは、専門性を高め、効率的にお客様へ価値を届けるためだ。
部門は「目的」を達成するための「手段」として生まれる。
しかし時間が経つと部門を守ること自体が目的になってしまう。
「うちの部門の数字を落としたくない」
「この問題はうちの担当外だ」
「他部門に口を出されたくない」
この瞬間、組織はお客様ではなく、自分たちの内側を向き始める。
これがセクショナリズムだ。
「私の担当」が終わった先で品質は崩れる
製造現場でよく起きるのが「工程の境界」で品質が落ちる現象だ。
自分の担当工程の中は丁寧にやる。
しかし次の工程に渡した瞬間、関心が切れる。
問題は往々にしてその境界で起きている。
誰の担当でもない隙間。
前工程でも後工程でもない。
誰も見ていない場所。
一つひとつの部門が「自分の工程は問題ない」と言いながら、全体として品質が崩れていく。
これは個人の怠慢ではない。
担当の境界を守ることが正しいと教えられてきた構造の問題だ。
■ 部門間の「見えない壁」が崩れた日
同じ品質問題が3度繰り返されていた時の出来事。
その都度、製造・品質・技術・物流の各部門長を集めて会議をした。
毎回それなりの対策書が出た。
しかし結果には結びつかなかった。
私はある時、会議の冒頭でこう言った。
「この問題が繰り返されることで、お客様はどんな迷惑を受けているか。」
「我々にとっては数万個生産したうちの1個。」
「でもお客様は、買った1個のうちの1個。つまり100%。」
「もし自分がそのお客様だったら、と想像してほしい。」
「自分の部署は間違っていない、なんて言い訳がお客様に通用すると思うか。」
誰も「次工程以降への影響」を整理して考えていなかった。
製造の部門長が口を開いた。
「納入先の組立てラインが止まってしまいます。」
「生産管理課の計画を考え直さなくては。」
「夜勤の対応部署にも大きな負荷がかかります。」
品質部門も続いた。
「完成車への影響をもっと理解しながら検査していれば。」
「会社対会社の信用問題になってしまいます。」
徐々に雰囲気が変わっていった。
「製造が悪い」「品質が見落とした」という言葉がなくなり、「自分たちは何ができたか」「次に何をすべきか」という話になった。
議論の時間は前回とそう変わらなかった。
しかし出てきた対策はこれまでとは違った。
各部門がそれぞれ単独で出来ることだけでなく、部門をまたいで連携するアクションが自然に出てきた。
そしてその問題は繰り返されなくなった。
最終的に変わったのは対策の中身だけではなく、組織の構造にまで及んだ。
部門間の縦割りで仕事をこなす人材とは別に、物と情報の流れに沿って横串で部門横断的に管理する人材を置くようになった。
きっかけは「うちの数字」ではなく「お客様への影響」を共通言語にした瞬間。
縦と横が編み込まれた組織は強い。
■ 「部門の壁」を越えて全員が最終出荷責任者になる3つの転換
転換1:会議の「最初の問い」を変える
品質会議の冒頭に置く問いを変えるだけで、会議の構造が変わる。
従来の問い:「どの部門に問題があったか」
新しい問い:「この問題でお客様にどんな迷惑がかかったか」
前者は必ず責任の押し付け合いになる。
後者は自然と「自分たちに何ができたか」という自責の議論になる。
転換2:「社長の立場」で考える習慣を渡す
部門の担当者が自部門の数字だけを見るのは当然だ。
そのように役割を与えられているからだ。
しかし管理職は違う。
管理職は「経営の一翼を担う立場」として、全体最適で判断する責任がある。
私がタイの現場で試みたのは、会議や朝礼の中で定期的にこの問いを投げることだった。
「もし自分がこの会社の社長だったら、どうするか」
最初はみんなこの問いの意味を理解できない。
経験した事が無い視点からの問いだからだ。
しかし「これが自分の財布から出ているお金だとしたら」、
「他人のミスを誤りに行かなくてはならなくなったら」
の観点を繰り返すうちに部門を超えた視点が少しずつ育つ。
「社長目線で考えろ」と命令するのではなく、
「社長だったら」という問いの形で自分ごとにする機会を作るのだ。
転換3:「担当の境界」ではなく「お客様への流れ」で工程を語る
朝礼や品質報告の場で、製品がお客様に届くまでの「流れ」を語る。
設計する。材料を受け入れる。加工する。組み立てる。
検査する。梱包する。運ぶ。お客様の工場に届く。
車になる。道路を走る。家族が乗る。
この流れを全員が頭に描けている職場と、自分の工程しか見えていない職場では、品質への意識が根本から違う。
タイの現場で私がやったのは、月に一度、実際の客先の写真と簡単なメモを朝礼で見せることだった。
「先月、私たちの製品が使われているこの車が、タイで何千台売れた」という話を30秒するだけでいい。
従業員からも自然と「友達や家族が買った」等の言葉が出始める。
自分たちの仕事がどこへつながっているかが見えると、人の動き方は変わる。
■ 「ベンチャー精神」とは何か、それは役割を超えて動く力だ
世界を代表する企業達も最初はベンチャー企業だった。
人が少なく、部門も細分化されていなかった。
一人が複数の役割を担い、「それは私の仕事ではない」と言っている余裕がなかった。
だからこそ動きが速かった。
全員が会社全体を見ていた。
お客様への価値を全員が直接意識していた。
組織が大きくなると残念ながらこの感覚が薄れてしまう。
役割が固定され、担当が細分化され、自分の工程の外側に関心が向かなくなる。
これは悪意ではない。
仕組みの自然な帰結だ。
しかし、お客様はその担当の境界線を知らない。
全員が「最終出荷責任者」として自分の仕事を見れる組織は、まさにこのベンチャー期の感覚を、大きな組織の中で意識的に保ち続けているチームだと言える。
■ 明日からできる小さな一歩
□ 品質会議の最初の問いが「どこの責任か」になっていないか
□ 各部門が自分のKPIだけを報告する場になっていないか
□ 製品がお客様にどう使われているかを現場メンバーが知っているか
□ 部門をまたぐ問題を、自分から声をかけて動いた経験が最近あるか
□ 「それは私の担当外です」という言葉が職場で出ていないか
まず一つだけ、明日試してほしい。
次の会議か朝礼の冒頭に、この問いを一つだけ入れてみてほしい。
「この問題でお客様にどんな迷惑がかかっているか。」
「各自の言葉で話してほしい。」
この問いを置くだけで、会議に臨むみんなのマインドが深いところから変わっていくはずだ。
部門の境界が溶け始める瞬間を確かめてほしい。
■ まとめ・行動提案
部門間の責任のなすり合いは悪意から生まれない。
それぞれが自分の役割を全うしようとした結果、誰もお客様を見ていない状態が生まれる。
組織は手段であって目的ではない。
部門は会社の目的を実現するための道具だ。
しかし大きな組織ほど、部門を守ることが目的化しやすい。
全員が最終出荷責任者になるとは、全員が自分の工程の先にいるお客様を意識しながら仕事をするということ。
そのためにまず管理職がやるべきことは、「お客様への価値」を会議と朝礼の共通言語にすることだ。
部門の壁が崩れた瞬間の会議を、私は今でも覚えている。
対策書の質が変わった。
部門を超えたアクションが自然に出た。
そして同じ問題は繰り返されなかった。
構造を変えたのではない。
見る方向を変えただけだった。
■ 明日使える一言
この問題で、お客様にどんな迷惑がかかっているか。
部門は関係ない。
全員で考えてほしい。
この一言を会議の最初に置いてほしい。
内向きになりかけた議論が一瞬で外向きに変わる。
それは小手先の進行術ではない。
組織の視点を「部門の利益」から「お客様への価値」へ戻す行為だ。
これは管理職にしかできないこと。
▶▶ 次回予告|この記事を読んだあなたへ
部門の壁が崩れた。
全員がお客様を見始めた。
現場はようやく「一つの組織」として動き始めた。
しかし改善が進むほど、現場に「記録と報告」が増えていく。
やがて「管理のための管理」が生まれる。
プロセス管理が「管理」に変わった瞬間、現場は止まる。
「過去の失敗」は埋めるものではなく、組織の財産に変えられる。
その話を次の記事で書く。

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タイで14年、300人の部下と泥だらけになりながら現場マネジメントを学んできたガクです。
3期連続赤字の事業を1年半でV字回復させた経験がありますが、最初からうまくできたわけではありません。
信頼を失い、現場に背を向けられ、そこから学び直してきた話をこのnoteに書いています。
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次回も現場で油まみれになりながら学んだことをできる限り具体的に届けます。
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