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完璧な上司を演じていた間、部下は一言も本音を言わなかった

▶ まずこの一文を読んでほしい

完璧な上司を見て育った部下は完璧な報告しかしない。
現場の本当の問題は上司が完璧を手放して初めて上がってくる。

前回の記事では品質問題の真因は技術ではなく
責任の分散と善意の沈黙にあると書いた。

これだけ対策を打っても完全では無かった、
深刻な情報を全て吸い上げたとは言えなかった。
 
小さな報告は来る。
でも「本当にまずい問題」だけが上がってこない。
私はその原因をタイ人の文化だと思っていた。

でも違った。

原因は文化でも部下の能力でもなかった。

「完璧な上司を演じていた私自身」が報告を止めていた。


■ あなたは今、こんな状況にないか?

「仕組みを整えた。」
「責任の所在も明確にした。」
「でも、致命的な問題だけが後から発覚する。」
「現場は大事なことほど言ってこないのか?」
「自分は話しやすい上司のつもりなのに。」
 
この感覚に心当たりがあるだろうか?

報告が来ない本当の理由は部下の側だけにあるのではない。
上司自身の「見せ方」が原因になっていることがある。

■ タイ人が持つ「階層の壁」という構造的障壁

先ずタイ人部下が持つ独特の感覚を理解する必要がある。
タイの社会には暗黙の序列がある。
 
王族→ 僧侶 → 年配者 → 上司 → 同年代
 
この階層意識の中で「上」にいる存在には従い、遠慮し、本音を言わないことが礼儀とされる文化が根付いている。

ではタイで日本人管理職はどう見られているか。

日本人は「本社から来たスペシャリスト」。
タイ人部下の目には日本人管理職は階層の上位に置かれる存在として映りやすい。
 
だから余計に本音を伝えることへの心理的コストが高くなる。
 
「この人に問題を報告したら失礼ではないか。」
「できない自分を見せるのは恥ずかしい。」
「上司は正解を知っているから余計なことを言いたくない。」
 
これは怠慢でも能力不足でも文化的欠陥でもない。

「あなたを尊重している」という表現の形だ。

だとすればその壁を壊せるのは部下ではない。
上司しかいない。

■ 「完璧な上司」が作り出していた壁

私は赴任してから意識的に「完璧な上司」を演じていた。

海外駐在は最初の3ヶ月が重要 。
最初のスタッフからの評価で駐在人生が決まる。
この様に言われているのも事実だ。

だから、問題が起きても動じない。
正論を持っている。
解決策を持っている。
失敗を認めない。
弱さを見せない。
 
これが「必要な上司像」だと思っていた。

でも現場から見ればズレた意味になってしまっていた。
 
「ガクサンは完璧だから私たちの失敗なんて受け入れられない」
「できないことを言うと評価が下がるのでは?」
「失敗したことを報告すると落胆させてしまう」
 
学生時代、完璧で厳格な教師ほど近寄りにくかった記憶な無いか。
 
私はこの記憶の通りのことをやっていた。
完璧を演じることで部下が相談できない壁を自分で作っていた。

■ 私が失敗を300人の前で認めた朝

変えたのはある週の全体朝礼でのことだった。

議題は前回発生した品質問題に移っていた。
その品質問題の一因に私自身の判断ミスがあった。
 
設備投資の判断を先延ばしにしたこと。
部門をまたぐ調整を後回しにしたこと。

どちらも私が早く動いていれば防げた問題だった。
 
以前の私なら「さまざまな要因が重なった」と言い訳をしていただろう。

でもその朝、私は違う選択をしてみた。
 
「先月の品質問題では私の判断が遅かった。」
「設備の件も部門調整の件も もっと早く動けた。」
「現場に余計な負担をかけた。」
「ごめんなさい。」
 
300人、全員の前で言った。
解散した直後、何人かのタイ人スタッフが話しかけに来てくれた。
 
そしてじわじわと効果が波及し始めた。
なかなかに重い相談が増えてきた。

品質問題だけでなく、設備の懸念、作業者の体調、前工程との摩擦。

それまで水面下に沈んでいたすべての情報が浮上してきた瞬間だった。

■ 失敗と成功は分かれ道ではない

この経験で一つの真実を理解した。

失敗と成功は分かれ道のように選択した結果ではない。
成功するまでの一本道の途中に失敗が存在しているだけ。

行動しない人は失敗しないが、経験も成長も得られない。
ノープレー・ノーエラー。
転ぶ経験を繰り返すことで人は歩けるようになる。
 
私はそれまで「失敗を見せないこと」が上司の仕事だと思っていた。

しかしそれはプレーしないことでエラーを避けているだけだった。
 
失敗を隠す上司のもとでは部下は失敗を隠すことを学ぶ。
失敗を認める上司のもとでは部下は失敗を報告することを学ぶ。

上司の振る舞いが組織の「報告できる失敗の範囲」を決めるという原理原則を見落としていた。 

■ 本音が上がる組織を作る3ステップ

 
STEP 1:
「私も最初は分からなかった」を意識して使う

 
「この作業は難しいよな。」
「私も最初は現場の流れが全然分からなくて困った。」

この一言が、部下に「この人も失敗したことがある人だ」という認識を作る。

完璧な上司の鎧を少し脱ぐだけでいい。
 
STEP 2:
小さな自分のミスを朝礼で一言だけ認める

 
大きな失敗の自己開示は必要ない。
「昨日の確認が遅くてごめん」
「指示が曖昧だったな」
程度の小さな一言で十分だ。

これを続けることで現場に「ここでは失敗を認めていい」という空気が育つ。
 
STEP 3:
部下が問題を報告してきた時、最初に責めない

 
部下が「実は問題があって…」と来た時の最初の5秒が、次の報告が来るかどうかを決める。
「なぜ」より先に「話してくれてよかった」が来ると、部下の中に「この人に言うと最初に感謝が来る」という記憶が残る。

その記憶が次の報告を引き寄せる。

■ 明日からできる小さな一歩

□  最近、部下の前で自分のミスを認めたことがあるか
□  「私も最初は分からなかった」という言葉を使ったことがあるか
□  報告してきた部下に最初の5秒で感謝を伝えたことがあるか
□  「完璧を演じること」が報告を止めていないか自問したことがあるか
□  失敗を「一本道の途中の出来事」として部下に伝えたことがあるか
 
まず一つだけ明日試してほしい。

朝礼か個別の会話で
「私の判断が遅かった。ごめん」
という一言を使ってみてほしい。

そして、その後の現場の空気の変化を自分の目で確かめてほしい。
 

■ まとめ・行動提案

深刻な情報が上がってこない現場には必ず構造的な理由がある。

それは部下の能力でも、タイ人の文化でも、報告の仕組みでもない場合がある。
 
「完璧な上司を演じている上司自身」が本音の報告を封じている。
 
タイ人部下には階層意識がある。
日本人管理職は上位に置かれやすい。
完璧を見せるほど部下は本音を隠す。

失敗と成功は分かれ道ではない。
成功への一本道の途中に失敗があるだけ。
上司が失敗を認める姿を見せることで、部下はその一本道を一緒に歩き始める。
 
完璧を手放した瞬間、現場は動き始める。

■ 明日使える一言

実は私もばらく同じことで悩んでいた。
だから話してくれて助かった。

 この一言を明日一人の部下に使ってみてほしい。

「この人も失敗してきた」
「この人は私の失敗を受け入れてくれる」
という記憶が一粒だけ残れば十分。

その粒が積み重なった時に組織の本音が動き始める。

▶▶ 次回予告|この記事を読んだあなたへ

上司が失敗を認めた。
本音を聞けるようになった。

 まだまだ終わりではない。
では次の壁は何か。
 
報告は来る。
問題も見える。
でも、本当に解決したとはまだ言えない。

「みんなのための品質」は「誰のものでもない品質」になりやすい。
 
V字回復の本当の転換点は、全員が「最終出荷責任者は自分だ」と腹落ちすることが必要不可欠だった。

その話を次の記事で書こう。



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タイで14年、300人の部下と泥だらけになりながら現場マネジメントを学んできたガクです。

3期連続赤字の事業を1年半でV字回復させた経験がありますが、最初からうまくできたわけではありません。

信頼を失い、現場に背を向けられ、そこから学び直してきた話をこのnoteに書いています。

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