タイ人部下が反発したのは、能力不足ではなく"安心を奪われた"からだった
▶ まずこの一文を読んでほしい
部下が動かない原因の8割は、
部下の能力ではなく、
上司が奪った安心にある。
これはタイで300人を率いて3期連続赤字の事業を1年半でV字回復させた私が、現場で油まみれになりながら気づいたことだ。
■ あなたは今、こんな状況にないか?
「何度言っても動かない」
「笑顔で返事するのに、翌日には何も変わっていない」
「こっちは正しいことを言っているのに、なぜ伝わらないんだ」
海外で部下を持った管理職が最初にぶつかる壁。
そしてほとんどの人がこう結論づけてしまう。
「タイ人は責任感が弱い」
「やる気がない」
「能力が足りない」
でも、本当にそうだろうか?
私が転職してタイ人300人の工場長を引き継いだ時、現場はバラバラだった。
品質クレームが止まらず、生産は遅れ、管理職たちは私を遠巻きに様子見していた。
最初の私は、正論で押し通そうとした。
「なぜできないのか」
「なぜ報告しないのか」
「なぜ改善しないのか」
■ 現場で起きていた本当のこと
ある日、私は工場の片隅でベテランのタイ人マネージャーがうつむいているのを見た。
声をかけると、彼はぽつりとこう言った。
「ガクサン、私たちは信頼されていないのですか?」
衝撃だった。
私は「できていない」ことを指摘していた。
正しかった。
数字も、品質基準も、正論だった。
でも彼らが感じていたのは、「この上司は私たちを信用していない」という感覚だった。
そしてその瞬間、私はやっと理解した。
タイ人部下が反発したのは能力が足りなかったからではない。
"安心を奪われた"からだ。
■ なぜ安心が奪われると人は動かなくなるのか
タイ人スタッフが仕事で大切にするものは何か。
日本人上司が重視するのは、「責任・品質・納期・改善」だ。
でもタイ人スタッフが重視するのは、「関係性・納得感・尊重されている感覚・安心感」だ。
これは怠けているわけでも責任感がないわけでもない。
価値観の順番が違うだけ。
タイは仏教国であり、日常の中に「調和」「受容」「感情の安定」が深く根付いている。
人前で恥をかかされることや、信頼されていないと感じることは、日本人が思う以上に心理的なダメージが大きい。
だから、こういうことが起きる。
人前で強く注意する → 内容より「恥をかかされた」感情が残る
「なぜできないのか」と問い詰める → 防御反応が起きて心を閉じる
突然の配置転換を「成長のため」と伝えるだけ → 「評価が下がったのか」「罰か」と受け取る
結果だけを見て細かく確認する → 「疑われている」「信頼されていない」と感じる
正論を正しく伝えても、相手の安心が先に壊れていたら、言葉は届かない。
これはタイ人に限った話ではない。
令和世代の若手日本人部下にもまったく同じことが起きている。
■ 私がやってしまった失敗とそこから学んだこと
赴任して間もない頃、生産ラインで品質不良が頻発した。
私は全管理職を会議室に集め原因を追及した。
「なぜできない」
「誰が確認した」
「いつから知っていた」と、
一人ひとりに矢を放つように問い続けた。
管理職たちは黙った。
笑顔で「大丈夫です」「やります」と答えた。
でも翌日も、翌週も、状況は変わらなかった。
表面上の「大丈夫です」は、合意ではない。
その場を収めただけだ。
タイでは、上司への反論は空気を壊すとみなされやすい。
黙ることや笑顔は「怒られたくない」「場を穏やかにしたい」という
文化的な防衛反応であって、納得の印ではない。
私は「伝えた」つもりでいた。
実は、ただ「話した」だけだった。
■ 転機になった「たった一つの行動」
ある時、私はやり方を変えた。
個別に一人ひとりのマネージャーを呼び出した。
責めるためではなく聞くために。
「責めたいのではなく一緒に解決したい。」
「正直に話してくれると助かる」
そう一言添えるだけで彼らの表情が変わった。
それまでは黙っていたベテランが、「実は現場では○○という問題があって、言い出せなかった」と話してくれた。
若いリーダーが、「日本式の品質チェックの意味が分からなかった」と正直に言ってくれた。
問題があったのではない。
問題を言える場がなかっただけだった。
そこから私は方針を変えた。
正論を押し付ける前に、まず安心を渡す。
指示の前に、なぜやるのかを説明する。
人前で詰めるのをやめ、個別に話す。
できていない点より、できた点を先に認める。
現場が少しずつ変わり始めた。
報告が増え、改善提案が出始め、生産が安定していった。
そして1年半後、3期連続赤字だった事業は最高収益を記録した。
■ 安心を渡す3つの実践法
難しいことは何もない。
明日から使える3つだけ覚えてほしい。
① 指示の前に「なぜ」を渡す
❌ やりがちな伝え方
「この品質基準を守れ」
「今日中に報告しろ」
「なぜできないんだ」
✅ 安心が伝わる伝え方
「この品質基準は、お客様のクレームを防ぐためです。あなたたちの仕事を守るためでもある」
「報告は今日17時までに。理由は明日の会議で共有するためです」
「責めたいのではなく、次に同じことが起きないように一緒に考えたい」
目的を先に渡すだけで、相手の受け取り方が変わる。
② 人前で叱らない。個別に話す
タイでは人前での恥は信頼関係を壊す大きな火種になる。
注意が必要な時は「ちょっと時間をくれるか」と個別に呼ぶ。
部屋の扉を閉めて落ち着いたトーンで話す。
使える一言: 「責めたいのではない。次のためにあなたの話を聞きたい」
この一言を冒頭に置くだけで、相手の防衛反応がほぐれる。
③ 配置転換や新しい仕事を伝える時は「目的・期待・支援」をセットにする
タイ人に限らず、突然の変化は「評価が下がった」「罰だ」と受け取られやすい。
❌ これだけでは不十分
「成長のために別の部署に行ってほしい」
✅ 安心が伝わる3点セット
目的: なぜその変化が必要なのか
期待: 何をしてほしいのか、どんな成長を期待しているのか
支援: 困った時に誰に相談すれば良いか。評価はどうなるか
「あなたをリーダーに育てたいから、前工程を学んでほしい。」
「期間は6ヶ月。困ったことはいつでも私に言ってくれ。」
「評価はこれまで通りだ。」
これだけで、受け取り方がまるで変わる。
■ 今日からできる「小さな一歩」チェックリスト
□ 明日、部下に何か伝える前に「なぜそれが必要か」を先に考える
□ 部下を注意する時、人前ではなく個別に呼ぶ
□ 「大丈夫です」で終わらせず、「どう理解したか、言葉で教えてくれる?」と確認する
□ 部下ができていないことより、できていることを先に一つ口にする
□ 1対1の時間を週に1回、10分でも作る
まず一つだけ、明日試してみてほしい。
それだけで、現場の空気は変わり始める。
■ 世代間にも同じことが起きている
これはタイ人だけの話ではない。
令和世代の若手日本人部下も、
「心理的安全性・意味・成長実感・個人の幸福」を重視する。
安心がない場所では意見を言わず、笑顔で「わかりました」と言いながら
動かない。
昭和・平成型の「背中で見て覚えろ」「正論で押し切る」マネジメントが
通じなくなっているのは、日本の若手にも同じことが起きているからだ。
文化が違っても、世代が違っても、人が動く原理は同じだ。
安心があるから人は動く。
正論は安心の後にしか届かない。
■ まとめ・行動提案
部下が反発する時、能力の問題から入るな。
まず自分に問え。
「この部下は、今、安心しているか?」
一方的な指示ではなく、本人の不安を先に聞く。
叱る前に、目的を説明する。
正論で押し切る前に、信頼を積み上げる。
それがタイでも、日本でも、「部下が動く組織」を作る最短ルートだ。
■ 明日使える一言
「責めたいのではなく、一緒に解決したい。」
「正直に話してくれると助かる」
この一言を、明日の朝、一人の部下に使ってみてほしい。
そこからすべてが変わり始める。
▶▶ 次回予告|この記事を読んだあなたへ
ここまで読んでくれたあなたに、一つ問いを投げかけたい。
「もし赤字事業を任された初日、あなたは何から手をつけるか?」
コスト削減か。
問題の洗い出しか。
部下への指示出しか。
私が工場長として3期連続赤字の現場に飛び込んだ初日、
やったことはそのどれでもなかった。
数字も見なかった。
指示も出さなかった。
改善策も考えなかった。
私が最初にやった「たった一つのこと」が、その後のV字回復のすべての土台になった。
それは、拍子抜けするほどシンプルだ。
でも、ほとんどの管理職がやらずに失敗する。
次の記事では、その「たった一つのこと」と、なぜそれだけで現場が変わり始めたのかを、赴任初日の実体験とともにそのまま書く。
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タイで14年、300人の部下と泥だらけになりながら
現場マネジメントを学んできたガクです。
3期連続赤字の事業を1年半でV字回復させた経験が
ありますが、最初からうまくできたわけでは
ありません。
信頼を失い、現場に背を向けられ、そこから
学び直してきた話をこのnoteに書いています。
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次回も、現場で油まみれになりながら
学んだことを、できる限り具体的に届けます。
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