学芸員同士のパワーバランスを決めるものとは
美術館の学芸員のパワーと言われてもピンとこないかもしれません。
ここで言う「パワー」とは、業界の中での影響力、発言力、存在感、そのあたりを全部ひっくるめたものだと思ってください(ちょうどいい言葉が思いつかなくて。「権力」だとさすがに言葉が強すぎるし)。
そう、学芸員同士にもパワーバランスがあるのです。では、そのパワーを決めるものとはなんでしょう。
先に結論を言ってしまうと、それは所属する美術館の収蔵品(コレクション)です。
良い作品(貴重な作品、高名な作品、人気が高い作品など)をたくさん持っている学芸員のパワーは強く、めぼしい作品を持っていない学芸員のパワーは相対的に弱い。
身も蓋もない話ですが、これが原則です。
なぜ、そうなるか分かりますか?
展覧会(企画展)は自前のコレクションだけでは開催できません。もちろんコレクションだけでやるコレクション展、収蔵品展、常設展もありますが、それは予算規模や話題性などの面で企画展とはだいぶ差があります。
展覧会をやる以上、様々な美術館から作品を借用する必要があります。逆に、こちらから作品を貸し出すこともあります。
借用するということは、頭を下げてお願いをするということです。その逆、貸し出しをするということは、相手にひとつ貸しを作るということです。
もう分かりますよね。
良い作品を多く所蔵している館に在籍していれば、借りるよりも貸す頻度が高くなります。全国各地の美術館から借用のお願いがくるので、だまっていても他館の学芸員と知り合いになることができます。
そして彼らに少しずつ貸しを作ることができます(嫌な言い方ですけどね)。
そうなると、たとえば自分の研究で「どこそこの美術館にあるあの作品を調査したいな」と思った時、当然お願いもしやすくなります(断られにくい)。こうして研究成果を上げて、さらに学芸員としてのパワーを高めていくという好循環が生まれます。
逆に、あまりめぼしい作品を所蔵していない館の学芸員は、借りる一方なので立場としては弱くなります。なかには素晴らしい展覧会を作り上げて、一目置かれる存在になっていく学芸員もいますが。
さて、だいぶ話を単純化してしまったので、収蔵品のレベルが高い美術館にいれば学芸員自身の資質に限らず、言葉を選ばずに言うならばたとえポンコツでも学芸員としてやっていけると思うかもしれません。でもちょっとちがいます。
考えてみてください。コレクションが一級の美術館は、当然そこで学芸員として働きたいと考える人が殺到します。ここで競争の原理が働くので、そうした美術館に学芸員として採用されて勤務している人はそもそも優秀な人が多いのです。
そんな人たちだからこそ、前半に説明した通り展覧会の貸し借りを通じてさらにパワーを身につけていくことができるのかもしれません。
鶏が先か卵が先か、という感じですね。
\もうすぐ新刊発売!/
