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学芸員は今夜も眠れない

これは学芸員あるあるだと思うのですが、展覧会を担当すると(※)会期中は、心のどこかが落ち着きません。

※展覧会を担当する=展覧会の企画は学芸員が持ち回りで行います。展覧会を企画した学芸員は、その展覧会の責任者となります。

普段は収蔵庫に安置されている美術品。たいていの場合は、箱に入っていたり、梱包されていたり、棚やラックに固定されていたりします。だから、ちょっとやそっとのことでは、壊れることはありません。

しかし、展示となると、そうはいきません。

陶磁器だったら箱から出して、展示ケースの中とは言え、本体をむき出しで展示します。立体作品だったら展示台(通称・サイコロ)の上に乗せて、少し高い位置で見えるようにします。絵画作品は場合によっては(材質的にデリケートな日本画を無理ですが、堅牢な油彩画であれば)、ケースに入れずに壁に掛けることもあります。

収蔵庫から表舞台に引っ張り出された作品たちは、どこか心細そうに見えます(学芸員を長く続けていると、作品の気持ちが分かるようになるのです←変な自慢)。

温湿度の変化(極力変化をゼロにするのが理想ですが、なかなか理想通りにはいきません)、退色をうながす照明の光(LEDの普及で大幅にダメージは減りましたがダメージが無いわけではありません)、どうしたって作品にはストレスがかかります。

そう、収蔵庫で落ち着いていたところから、不安定な状態に作品を持ってくるのが、展示なのです。作品の保存と展示は相反する行為というのは、学芸員なら誰しも心得ていることでしょう。

なんと言っても、一番怖いのは地震です。日本は地震大国です。いつ大きな揺れがきても大丈夫なように、展示をしなくてはいけません。

具体的には、免震台と呼ばれる揺れを吸収する機能のついた台に乗せたり、テグスと呼ばれる透明な合成繊維の糸(ようするに釣り糸)で壁や台に固定したり、壺のようなものだったら見えないところに重りをいれて安定させたり、絵画作品を掛けたワイヤーが揺れないようにガンタッカー(ようするにホチキスの平面バージョン)で針を打ち付けたりですね。

まぁ安全だけを考えるなら、がんじがらめに固定すればよいだけなのですが、一方で鑑賞のしやすさも考えなくてはいけないのが難しいところ。なるべく目立たぬように最小限の細工で効果的な固定を工夫します(このあたりのテクニックは、ヤマトや日通の専門スタッフが長けています)。

やるべきことをすべてやった上で、展覧会開幕となるわけですが、冒頭に書いた通り、会期中はやはり落ち着きませんね。

自宅で夜寝ているときも、地震があると飛び起きます。そして展示が気になって気になって仕方がありません。作品は倒れていないだろうか、傾いていないだろうか。
次の日は、朝一番に出勤して展示室を確認することになります。大抵の場合はなんともないのですが、こればっかりは何度経験しても慣れませんね(3.11も経験してますし。ちなみにあの時もほとんど問題は起きませんでした。東北の美術館はそれはもう大変だったことは知っていますが)。

自分のところの収蔵品の展示でもこんな感じですから、よそ様から作品を借用して展示している時はなおさらです。貴重な作品に何かあっては取り返しがつきませんから。

せっかく展覧会が始まっても「何事も無く早く終わってくれー」と、会期終了を心待ちにしている自分がいます。そして展覧会が閉幕し、「やれやれ、疲れた疲れた」とつぶやいている作品たちに「ごくろうさん」と言いながら、一つ一つ片付け、すべてを元の収蔵庫に納めたところで、ようやく学芸員の肩の荷が下りるのです。どっと疲れが出るのはこんな時ですね。

そんなわけで、今日も日本全国展覧会の数だけ、眠れぬ夜を過ごす学芸員がいるのです(と言いつつ、私もぐーぐー寝てるけどね)。


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