学芸員が「雑芸員」になる時[避けては通れぬ予算の話]
予算。
それは、どんな事業をするにしても必要不可欠なもの。
美術館の運営、展覧会の開催も、当然ながらお金がかかります。いまの時代、学芸員だってお金に無頓着ではやっていけません(そこがバブルを経験した過去の学芸員と決定的にマインドが違う部分)。
人口減、出生率の低下、高齢化などにともない、あらゆる経済活動がシュリンクしている今の日本では、どんな美術館でも潤沢に予算がつくということはありません。
予算のことを
・あまり気にしなくていいか
・すごく気にしなくてはいけないか
のどちらかであり、予算度外視で何でもできる、という美術館はほぼないでしょう(宗教法人が母体のところだけは内情をよく知らないですが)。
「え、うちの美術館?予算なんて考えたことないっすよー。やりたい放題っす」というところがあったら、逆に教えてほしいぐらいです。
さて、私が勤めるようなちいさな美術館は、もちろん「予算のことをすごーく気にしなくてはいけない」方に分類されます。
最初から今のところに就職していたら、それが当たり前としてやっていたのでしょうが、私の場合よその美術館から移ってきたので、美術館によって予算への意識がだいぶ違うんだなぁ、と痛切に実感する日々です。
予算が限られていると、何が大変かって、その分を学芸員の創意工夫でカバーしなければならず、展覧会の企画や調査研究という本分に割くリソースが削られてしまうところです。
前にデザイナーさんとの仕事について触れたことがありますが、以下のように予算のあるなしによって、学芸員の作業負担が変わります。
[予算がある]
実績のあるデザイナーに依頼できる。
[予算がない]
低予算でも「実績になるなら」と請け負ってくれる駆け出しの若手デザイナーを探すところから始めます。見つかったとしても経験が浅いので、完成物ができるまでの校正にどうしても時間と手間がかかります。
[本気で予算がない]
最終手段。学芸員自らがフライヤー(チラシ)のデザインをします。Adobeの基本ぐらいはおさえているので、やや素人くさいデザインとなりますが、そこには目をつぶります。Wordだけで作り上げたツワモノもいます。
次に展示作業(展示室に作品を飾り、会場を完成させる)の場合を考えてみましょう。
[予算がたくさんある]
展示施工会社(仮設の壁を立てたり、簡易の展示ケースをつくったり、キャプションの加工をしたりする、展示空間をつくるプロ)、照明専門会社、展示作業スタッフ(ヤマトや日通、この人たちについては以前触れましたね)、総動員でワッショイワッショイ展示作業をする。学芸員は指示するのみ。大型の企画展はこんな感じです。
[予算がまぁまぁある]
展示作業スタッフを必要な日数、必要な人数確保できる。
[予算が少ない]
展示作業スタッフは最低限の人数を1日分だけ。残りの作業は学芸員が行う。
[本気で予算がない]
作品の展示、キャプションの設置、天井までのぼって照明を調整、これらすべてを学芸員が行う。
こんな具合に、予算があればあるだけ外注できる範囲が増え、逆に予算がなければ学芸員が手を動かす必要が出てきます。
「日本の学芸員は雑芸員(笑)」と揶揄されたり、自虐的にいう学芸員もいますが、予算がない館ほど「雑芸員」的な働き方を余儀なくされるというのが現実です。
と、ここまで書いて思ったんですが、こんなの学芸員に限った話じゃないですね。
というか、どんな分野であっても本当にメインの業務にだけ集中できるような夢のような仕事ってあるのでしょうか?
例えばプロのイラストレーターは、果たしてイラストだけを描いていればやっていけるのでしょうか?
実際は、見積もりや受注書や請求書を作成したりといった事務作業に時間をとられたり、スケジュールの調整をしたり、年度末には確定申告に追われたりするでしょう。
自分で制作会社を興して、事務職を雇ったり、税理士を雇うぐらいまでいかなければ、イラストだけを描いて食べていける状況にはならないはずです。
何が言いたいかというと、やりたい仕事だけに集中できる理想の環境だけを追い求めていると、いつまでも不満がたまってしんどいよ、ということです。
また「雑芸員」として(この言い方は今回の記事に限り意図的に使います、普段は口にすることはありません)一通りなんでも自らやっておくことは、悪いことではありません。
例えば、画像データの作成や入稿まで一連の流れを理解していれば、いざデザイナーに依頼をした時でも、的確な指示や修正ができます。
ふわっとしか作業の内容が理解できていないと、相手から何か提案されても「じゃそれで」としか言えなくなります。
また、自分の手で苦労して展示した経験があれば、展示作業スタッフの仕事を見た時に、丁寧な手仕事をしているのか、ただ作業が遅いだけなのか、その仕事ぶりの良し悪しがわかるようになります。
自分もやっているからこそ、相手の気持ちがわかるってもんです。
予算に余裕がないのはそりゃ苦しいですし、雑務に追われないようにする努力も必要ですが、腐る前にやれることをやろうよという話でした。
バックナンバーはここで一覧できます(我ながら結構たくさん書いてるなぁ)。
