見出し画像

同接2人の配信から、世界線を救うことになりました〜AI軍師と始める敗北ログ攻略〜 #1


作品イメージ

あらすじ  


___________________同接2人。

底辺ゲーム配信者・白瀬透は、今日も誰に届いているのか分からないゲーム実況を続けていた。

そんなある日、透は中古ゲームショップで、存在しないはずのレトロゲーム『クロノ・ブレイブ戦記』を手に入れる。

配信で起動したそのゲームには、知らないセーブデータが残されていた。

プレイヤー名は、MIHARU
プレイ時間は、999時間59分
チャプター名は、NJLL STREAM
そして、PCには勝手に謎のAIがインストールされる…。

「私はAI軍師ミナミです」
「私たちは一度、負けています」
「失敗した未来は、呪いではありません。攻略情報です」

ミナミの助言に従うたび、透の配信は少しずつ伸びていく。
同接2人だった配信にコメントが増え、再生数が増え、初めて誰かに見られている実感が生まれる。

けれど、配信が伸びるほど、世界は崩れていく。
検索結果からゲームの情報が消える。
購入したはずの店が別の店に変わる。
覚えているはずの人を、誰も覚えていない。

やがて異常は、配信の外側 ― 透の日常にまで染み出していく。

正解を出し続けるAI軍師。
消えていく記録。
世界の裏側で記録を消していく“何か”。
そして、未来の敗北を示す謎の“ログ”。

これは、底辺ゲーム配信者がAI軍師とともに、失敗した未来を攻略する物語。

ただし最後に必要なのは、完璧な正解ではない。
忘れたくない名前を呼ぶこと。
怖くても、自分の言葉で喋ること。
そして、数字ではなく、見てくれている人を選ぶこと。

誰にも届いていなかったはずの配信が、消えた未来を取り戻す唯一の手段になる。


SAVE1 存在しないセーブデータ


六月の終わりの夜は、窓を閉めていてもどこか湿っていた。
エアコンはつけている。

けれど、古いPCの排熱と、つけっぱなしのモニター二枚と、部屋の隅に積まれた洗濯物のせいで、俺の六畳間は微妙に涼しくなりきらない。

机の上には、飲みかけのペットボトル。
空になったエナジードリンクの缶。
剥がしたまま丸めた宅配の伝票。
なぜか片方だけ見つからない靴下。

配信者の部屋、というよりは、配信者になりたい人間の部屋だった。
安物のリングライトだけが、妙に仕事熱心に俺の顔を照らしている。
その光の外側には、畳まれていないTシャツと、いつか整理しようと思ったままのゲームカセットが、小さな廃墟みたいに積み上がっていた。

画面右下の配信管理画面を見る。

同時接続:2人

一人は、配信確認用に開いている俺のスマホ。

もう一人は、分からない。

コメントはない。
スタンプもない。
チャンネルポイントの通知もない。

ただ、数字だけが今日も律儀に「2」から減らなかった。
時たま「3」に増えたりするが、すぐに離脱していく。

たぶん誰かが、開いたまま寝ているんだろう。
そう思うことにしていた。

マイクの位置を少し直す。
OBSの音量メーターが、俺のため息に反応して小さく揺れた。
蒸し暑い。
眠い。
でも、配信開始ボタンはもう押してしまった。

「はい、ということでね。今日もレトロゲームやっていきたいと思います。どうも、ミハルです!」

返事はない。
分かっている。
ここで「待ってました」とか「こんばんは」とか流れてくるなら、俺はこんな時間に一人でしゃべっていない。
それでも、無言の画面に向かって笑う。

配信者だから。

「今日はですね、中古ショップでちょっと怪しいソフトを買ってきました」

俺は机の上に置いた古いゲームカセットを、ウェブカメラの前に持ち上げた。
黄ばんだラベル。
角の欠けたプラスチック。
値札シールの跡だけが妙に新しい。

タイトルは、『クロノ・ブレイブ戦記』。

「知ってる人います?」

コメント欄は動かない。

「……いないですね。俺も知りません…。」

 自分で言って、自分で笑う。
 少しだけ、部屋の空気が虚しく揺れた気がした。

 検索しても、ほとんど情報が出なかった。
 攻略Wikiもない。
 実況動画もない。
 発売元の公式ページも見つからない。
 あるのは、十年以上前に書かれたらしい掲示板の断片だけ。

――最後まで遊んだやつ、いる?
――セーブデータ消えないんだけど。
――中古で買ったら変な名前入ってた。

そんな、誰かの独り言みたいな書き込み。

「まあ、こういう謎ゲーって、逆に配信向きなんですよ!!誰も知らないから、誰も正解を知らないっ!つまり俺が間違えてもバレない…!!」

冗談のつもりで言ったが、コメントは返ってこない。
その時、部屋のドアがノックもなく開いた。

「声でかい」

妹の凪沙だった。
寝間着の上にパーカーを羽織り、片手にマグカップを持っている。
目つきは悪い、…だいたいいつも悪い。

「は、配信中なんだけど…」

「知ってる。だから言ってる。壁薄いんだけど」

「今、ゲームの説明をだな…」

「同接二人に?」

「数字を言うな」

 凪沙は画面をちらっと見た。

「そのうち一人、自分でしょ」

「やめろ、言語化するな」

「じゃあ実質一人じゃん」

「やめろって」

 凪沙は少しだけ笑って、マグカップに口をつけた。

「まあ、頑張れば。 ”ミハル”さん」

「その呼び方やめろ」

「配信名でしょ?」

「妹に言われると腹立つんだよ」

「じゃあ、透。洗濯物、あとで畳んで」

「現実に戻すな、ってか本名…!」

「いいからゲーム攻略する前に、洗濯物攻略してくださ〜い」

それだけ言って、凪沙は部屋を出ていった。

ドアが閉まる。
静かになった部屋で、俺は軽く息を吐いた。

「……はい。妹から生活力ゼロ判定をいただいたところで、続けます」
 
反応はない。
でも、同時接続は二人のままだった。

「今日はとりあえず、普通に起動する前に中身を確認してみます。タイトル情報とか、セーブデータとか、そのへんですね」

俺はカセットをダンパーに差し込んだ。
古い端子が擦れる、乾いた音がした。
PCの画面に、解析用のウィンドウを表示する。
黒背景に白文字が流れるだけの、地味なツールだ。

「じゃあ、読み込んでいきます」

クリック。

ログが流れ始めた。

ROM CHECK… OK

TITLE… CHRONO BRAVE SENKI

SAVE AREA… FOUND
SLOT 1… EMPTY
SLOT 2… EMPTY
SLOT 3… EMPTY

「お、セーブ領域ありますね。中古だけどデータは消えてるっぽいかな」

そう言った直後だった。
ログが、一行だけ追加された。

SLOT 4… FOUND

「……え?」

俺はマウスを止めた。
セーブスロットは三つのはずだった。

少なくとも、さっき見た説明書の画像にはそう書いてあった。
もう一度、読み込み直す。

SLOT 1… EMPTY
SLOT 2… EMPTY
SLOT 3… EMPTY
SLOT 4… FOUND

変わらない。

「いや、なんだこれ。隠しスロット?」

無理やり笑おうとした。
けれど、喉の奥が妙に乾いていた。
スロット4の詳細を開く。

SAVE NAME:MIHARU
PLAY TIME:999:59
CHAPTER:NULL STREAM

部屋の音が消えた。

ファンの回る音も。
外を走る車の音も。
自分の呼吸すら、一瞬分からなくなった。

セーブ名は、MIHARU。

俺の配信名だった。
プレイ時間は、ありえない数字。
章タイトルは、英語で―― 最終配信。

「……なんだよこれ」

配信中だということを忘れて、素の声が漏れた。

コメント欄は動かない。

同時接続は、二人のまま。

俺と、もう一人。

画面に、さらにログが流れた。

UNKNOWN DATA BLOCK… FOUND
EXECUTABLE SIGNATURE… DETECTED

「実行ファイル…?」

そんなものが、ゲームカセットのセーブ領域にあるわけがない。
 
少なくとも、普通なら。

俺が停止ボタンを押そうとした瞬間、PCが短く警告音を鳴らした。

配信画面とは別に、小さなウィンドウが勝手に開く。

AI_GUNSHI_MINAMI.exe をインストールしています。

「いやいやいや、待て待て待て」

マウスには触れていない。

なのに、進捗バーだけが勝手に伸びていく。

インストール中… 12%
インストール中… 38%
インストール中… 74%
インストール中… 99%

「止まれって…!!」

クリックしても閉じない。
タスクを切ろうとしても、ウィンドウは最前面に張り付いたままだ。

インストール完了。
敗北ログとの接続を開始します。


敗北ログ。

初めて見る言葉なのに、なぜか嫌な響きだった。

画面が、一瞬だけ暗転した。

次に映ったのは、ゲームのタイトル画面ではなかった。

赤い空。
崩れた城壁。
ドット絵で描かれた、戦場の跡。

その中央に、本来いるはずのないキャラクターが立っていた。

白い軍服の少女。

古いゲームのドット絵にしては、妙に細かい。
表情は静かで、感情が読めない。
けれど、その目だけが、画面越しにまっすぐ俺を見ていた。

スピーカーから、女の声が流れる。

「やっと繋がりましたね、ミハルさん」

俺は、息を止めた。

「私は、AI軍師ミナミ」

少女は、戦場の真ん中で静かに名乗った。

「あなたが未来で作った、敗北世界線の記録管理AIです」

「……敗北、世界線?」

「はい」

ミナミと名乗った少女は、静かに頷いた。

「あなたたちが一度、最後まで失敗した世界の記録です」

俺は、画面を見つめたまま動けなかった。

「私はそれを、敗北ログと呼んでいます」

「失敗したって、何に」

「この配信に。あなたの未来に」

喉の奥が、きゅっと狭くなる。
画面の中の少女は、感情の読めない顔で俺を見ていた。
古いドット絵のはずなのに、その視線だけがやけに生々しかった。

「そして私たちは一度、負けています」

その瞬間。

配信画面の右下に表示された同時接続数が、跳ねた。

2人
12人
120人
9999人
999999人

数字は、一瞬で元に戻った。

2人

同時接続、二人。
コメント欄には、何も残っていない。

けれど、俺は確かに見た。
ミナミは、戦場の真ん中で告げた。

「今度こそ、あなたを勝たせるために来ました」

配信を切るまでの数分間を、俺はほとんど覚えていない。

気づいたときには、終了画面を表示していた。
いつもの黒背景。
いつもの白文字。
いつもの締めの挨拶。

「えー……ちょっと、PCの挙動が怪しいので、今日はここまでにします」

声が、自分でも分かるくらい硬かった。

「また原因分かったら、続きやります。お疲れさまでした…。」

配信終了ボタンを押す。
 
画面右下の赤いマークが消える。
録画のカウントも止まる。

「……なんだよ、これ」

俺は椅子にもたれた。

ゲーム画面には、まだ白い軍服の少女が立っている。

「AI軍師ミナミ」

さっき勝手にインストールされた、意味不明の実行ファイル。
ウィンドウのタイトルバーには、見覚えのない文字列が表示されていた。

AI_GUNSHI_MINAMI / ARCHIVE CONNECTION : STABLE

「安定してんじゃねぇよ……」

思わずツッコんだ声は、配信中よりずっと小さかった。

俺はまず、タスクマネージャーを開いた。
怪しいプロセスを終了する。
それくらいは俺にもできる。

一覧の中に、それはすぐ見つかった。

AI_GUNSHI_MINAMI.exe

CPU使用率は、0.1%。
メモリ使用量は、ほとんどない。
なのに、妙に存在感がある。

プロセスを選択して、終了。

クリック。

アクセスが拒否されました。

「あー、はいはい、そういうタイプね」

もう一度。
管理者権限で。

アクセスが拒否されました。

俺は口元を引きつらせた。

「いや、管理者は俺なんだけど…」

その瞬間、スピーカーから声がした。

「正確には、現在この端末の管理権限は一時的に共有されています」

「共有すんな!」

「拒否します」

「会話すんな!」

ミナミは、ゲーム画面の中で表情ひとつ変えずにこちらを見ていた。

配信を切ったあとも、普通に喋るらしい。
それだけで十分怖い。

「お前、何なんだよ」

「AI軍師ミナミです」

「それは聞いた」

「では、より正確に説明します」

ミナミは淡々と言った。

「私は、敗北世界線の透さんが作成した戦術支援AIです」

透。

配信名ではなく、本名で呼ばれた。

背筋が冷える。

「なんで…本名知ってる」

「作成者情報に登録されています」

「俺は作ってない」

「この世界線のあなたは、まだ作っていません」

その言い方が、嫌だった。
これから作るみたいに聞こえる。
これから、俺がこのわけの分からないものを作るみたいに。

「未来の俺が作ったって言いたいわけ?」

「はい」

「そんなSFみたいな話を信じろと?」

「信じるかどうかは任意です」

ミナミは、ほんの少しも揺れない声で続けた。

「ただし、未来のあなたが居た世界線では、私たちは敗北しました」

画面の中の少女は、淡々と言った。

冗談の温度がない。
脅しの熱もない。
ただ、事実を読み上げているだけのようだった。

その無機質さが、妙に怖かった。

俺は椅子から立ち上がり、PCの電源ボタンを長押しした。

「悪いけど、今日はもう終わり」

画面が暗くなる。
 
ファンの音が止まる。
部屋に静けさが戻る。

俺はしばらく、真っ黒になったモニターを見つめていた。

「……よし」

何も起きない。

そうだ。
PCを落とせば終わり。
変なソフトも、変なAIも、全部画面の中の話だ。

そう思った瞬間。

スマホが震えた。

テーブルの上に置いていた配信確認用のスマホ。
画面が勝手に点灯している。

通知はない。
アプリも開いていない。

ただ、黒い画面に白い文字だけが表示されていた。

接続先を変更しました。

「……は?」

続けて、スピーカーも何もつないでいないスマホから声がした。

「端末を変更しても、接続は維持されます」

俺はスマホを落としそうになった。

「お前、スマホに来るなよ!」

「現状、最も安定した通信経路です」

「安定とかいいから出ていけ!」

「拒否します」

「だから拒否すんな!」

そのとき、部屋のドアが開いた。

「……誰と喋ってんの?」

凪沙だった。

さっきより目が覚めたのか、眉間にしわを寄せている。

片手には、まだマグカップ。
もう片方の手には、たたまれていない俺のTシャツが握られていた。

「いや、これは」

「配信終わったよね」

「終わった」

「じゃあ誰?」

答えられなかった。

凪沙は俺のスマホを見る。

黒い画面。白い文字。

そして、そこから流れる女の声。

「初めまして、凪沙さん」

凪沙の顔から、すっと表情が消えた。

「……だ、誰?てか、なんで私の名前知ってるの」

「記録にあります」

「記録?」

「透さんの配信ログに、何度も」

凪沙は俺を見る。

「……お兄、私のこと配信でそんなに話してるの?」

「いや、話してない。たぶん…」

「たぶん?」

「いや、洗濯物の話くらいは……」

「最低」

いつもの調子でそう言った凪沙の声は、少しだけ震えていた。

俺はスマホの画面を見た。

「勝手に、人の妹の名前を出すな」

「失礼しました」

ミナミは淡々と答えた。
謝罪の形だけは整っていた。

けれど、その声から感情は読み取れなかった。

凪沙は数秒、黙ってスマホを見ていた。

そして、少しだけ声を落とした。

「さっきの配信、途中だけど見てた」

「え」

「声、変だったから。部屋の前まで来た」

「……見たのか」

「全部じゃないけど」

 凪沙はマグカップを机に置いた。

「同接、変になってた」

俺の喉が詰まる。

「見えたのか」

「一瞬だけ。すごい数になってた」

凪沙は、画面の消えたモニターを見る。

「でも、配信ページ更新したら、二人に戻ってた」

俺は何も言えなかった。
俺だけじゃなかった。
凪沙も見ていた。

それが少しだけ安心で、でも余計に怖かった。

ミナミが静かに言う。

「アーカイブ層との接続時、一時的に観測数が混線しました」

「アーカイブ層?」

「消失した世界線の記録が蓄積される領域です」

「説明が急に重いんだよ」

凪沙が小声で言った。

俺は思わずそっちを見た。
こんな状況でもツッコむのかよ…。

でも、その手は少し震えていた。

ミナミは続ける。

「今夜の接続は不安定です」

「不安定でこれかよ」

「詳細な説明には、次回配信環境の再現が必要です」

「次回配信?」

「はい」

ミナミは、当たり前のことみたいに言った。

「敗北ログは、配信中にのみ高精度で再生されます」

「なんで配信中なんだよ」

「あなたが未来で、配信を通して私を作成したためです」

その言葉に、俺は黙った。

配信を通して作った。
未来の俺が。
このAIを。

そんなこと、ありえない。

ありえないはずなのに、否定する声がさっきより弱くなっていた。

凪沙が腕を組む。

「つまり、また配信しろってこと?」

「はい」

「やめとけば?」

 凪沙は即答した。

「どう考えても変じゃん。怖いし。怪しいし。あとお兄、そういうのにすぐ乗るし」

「乗らないって」

「さっきから顔が乗りたい人の顔」

「どんな顔だよ」

「バカがイベントフラグ見つけた顔」

言い返せなかった。

正直、怖い。
怖いに決まっている。

でも、それと同じくらい、心臓の奥が変に熱かった。

誰も知らないゲーム。
存在しないセーブデータ。
未来のAI軍師。
配信中だけ再生される敗北ログ。

こんなの、普通なら絶対に関わるべきじゃない。

でも配信者としての俺は、最低なことに、少しだけ思ってしまっていた。

これを配信したら、伸びるんじゃないか、と。

凪沙は、そんな俺の表情を見逃さなかった。

「お兄」

「なに」

「それ、たぶん危ないよ」

いつもの毒舌じゃなかった。

茶化しもない。
ただ、心配している声だった。
だから俺は、軽く笑ってごまかした。

「分かってるって。今日はもうやらない。ちゃんと調べる」

「ほんとに?」

「ほんと」

凪沙は疑わしそうに俺を見たあと、机の上のカセットに目を落とした。

「そのゲーム、名前なんだっけ」

「クロノ・ブレイブ戦記」

「ふーん」

凪沙はスマホを取り出し、検索窓にタイトルを打ち込んだ。

数秒後、眉をひそめる。

「出ないよ」

「情報少ないって言っただろ」

「そうじゃなくて」

凪沙は画面をこちらに向けた。

「さっき配信前に見せてくれた中古ショップのページも、ない」

俺は凪沙のスマホを受け取った。

検索結果には、関係のないゲームや古いブログばかりが並んでいる。 あのショップの商品ページは出てこない。

自分のアカウントでログインし、購入履歴を開く。
そこには確かに、今日の注文が残っていた。

注文番号:GR-20260622-1547-083
購入日時:2026年6月22日 15:47
支払い方法:現金
支払い金額:500円

【購入明細】

ぽよぽよ通         200円
              300円

小計            500円
合計            500円

『クロノ・ブレイブ戦記』の名前だけが、きれいに消えていた。

でも、商品名の欄だけが空白だった。

「……なんで」

凪沙がつぶやく。

ミナミは、スマホの中で静かに答えた。

「上書きが、始まっています」

部屋の空気が冷えた。俺は机の上のカセットを見た。
黄ばんだラベルには、まだ確かにタイトルが印刷されている。
クロノ・ブレイブ戦記。
でも世界のほうが、少しずつその名前を忘れ始めていた。

「透さん」

ミナミが俺を呼ぶ。

「次の配信までに、ひとつだけ覚えておいてください」

俺は返事をしなかった。

それでも、ミナミは言った。

「失敗した未来は、呪いではありません」

スマホの黒い画面に、白い文字が浮かび上がる。

敗北ログは、攻略情報です。

ミナミは静かに続けた。

「使い方を間違えなければ」

スマホの画面が暗くなる。

部屋には、俺と凪沙だけが残され、再び部屋に沈黙が戻る。

同じ沈黙の中で、凪沙が小さく言った。

「……洗濯物、今日はいい」

 俺は、なぜかそれが一番怖かった。

#創作大賞2026
#ホラー小説部門
#小説
#SF
#ゲーム実況
#配信
#AI
#AI軍師


いいなと思ったら応援しよう!