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【エッセイ】暑さに弱いランナーの壮大な遠回り ―必死に調べた結果、「走れ」にたどり着いた男の話―

まえがき

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
 酔いどれBowzRunner 我流迷走です。

 では、さっそく……。

 先日、おかやまマラソン2026に当選しました。

 普通なら、「よし、頑張るぞぉ!」と前向きな話になるのでしょうが、私の場合は少し違います。

 今年も、岡山の街を走れる。
 実に嬉しい。

 しかし、その喜びのすぐ後ろから、毎年お馴染みの“ある存在”がヌッと顔を出すのです。

 そう。
“夏”です。

 しかも近年の夏は、優しさとか風情とか情緒とか、そういったものを無視するかのような暑さ。

 それでも走らなければならない。
 なぜならフルマラソンは、酒を飲みながら妄想しただけでは完走できないからです。

 今回は、暑さに弱い男が、自分の弱さを何とか攻略しようと必死に調べ回り、壮大に遠回りした末に、とてもシンプルな結論へ辿り着いたお話です。

 煎餅でもかじりながら、冷たい麦茶でも飲みながら、気楽にお読みいただけると幸いです。
 ではどうぞ。

58歳、いまだ迷走中

 人間という生き物は、年齢を重ねるほど賢くなるのかと思っていた。

 若い頃は失敗を繰り返し、その経験を積み重ねながら少しずつ学び、やがて人生の本質みたいなものに辿り着く。

 少なくとも私は、そんなイメージを持っていた。

 ところが58年も生きてみて、どうやらそう単純な話ではないらしいことに気付く。

 人は歳を重ねても迷う。むしろ、経験が増えた分だけ、余計なことまで考えるようになる。

 そして、散々考えた挙句、「そんなこと最初から分かってたじゃないか」という結論に辿り着くことも多々ある。

 今回のお話は、まさにそんな話である。

当選の代償

 先日、無事におかやまマラソン2026の一般枠に当選した。

 抽選結果の発表を忘れ、16km走っている間に当落が出ていたという、我ながら間抜けな話は以前書いた通りである。

 兎にも角にも、今年も走れる。もっと言うと、5年連続で走れる。42.195kmの長旅に挑める。

 そう思うと嬉しい。
 実に嬉しい。

 嬉しいのだが、その喜びと同時に、ある現実も見えてくる。
 11月8日までに、ちゃんと走れる身体を作らなければならない。

 フルマラソンというのは残酷である。

 エントリーしただけでは完走できない。
 夢だけでも完走できない。
 酒を飲みながら妄想しても完走できない。

 ちゃんと走り込まなければ、何もはじまらないのである。

 そして、その走り込み期間の中心に鎮座しているのが、「夏・夏・ナツ・ナツ・ココ夏。愛・愛・アイ・アイ・愛ランド」の“真夏”である。

 私はこの時点で少し泣きそうになった。

夏という名の敵

 問題はここからである。

 おかやまマラソン本番は11月。しかし、その前に立ちはだかる最大の敵がいる。
 私の脳裏には毎年のように繰り返される“ある光景”が浮かんでいた。

 そう。“夏”である。

 近年の夏は異常だ。
 昔から暑かったのだろうが、最近の夏はもはや暑いを通り越している。

 天気予報を見るたびに、「危険」、「厳重警戒」、「不要不急の外出は控えてください」などという物騒な言葉が並ぶ。

 そんな中でも、秋のレースシーズンに向けて、多くのランナーは黙々と走り込む。

 もちろん私も走る。
 いや、正確に言うと、走ろうとする。

 だが毎年、夏になると同じことを繰り返す。

 気合いを入れて家を飛び出す。
 今日は15kmだ。
 脚づくりだ。
 秋への投資だ。

 そんな決意は、だいたい2kmくらいで揺らぎはじめる。

 2km。
 少し苦しい。

 3km。
 かなり苦しい。

 5km。
 人生について考え始める。

 なぜ人は走るのか。なぜ私は今ここにいるのか。そもそも人類は42kmも走るように進化したのか。

 答えは出ない。
 ただ苦しい。

 そして息が上がる。
 いや、「息が上がる」という表現では足りない。

 下手をすると、土手沿いの遊歩道でオッサンの喘ぎ声を聞かされる案件である。

 私はまだ多少の理性が残っているので、必死に声を抑える。すると余計に苦しくなる。

 人間、見栄にも限界がある。

忍者ランナー現る

 そんな私の心を毎年折るのがSNSである。

 同年代のランナーさんが投稿する。
 「今日は暑かったので22kmで終了」

 22km?
 終了?

 終了とは何だ。
 私はまだ折り返し地点すら見えていない。

 若いランナーも元気だ。
 真夏の炎天下を淡々と走っている。

 爽やかである。
 清々しい。
 スポーツ飲料のCMみたいである。

 それに比べて、夏の私はどうか。

 日陰。
 電柱の影。
 マンションの陰。
 コンビニの軒先。
 木陰。
 次の日陰。
 また日陰。

 もはやランニングではない。

 “忍者”である。
 “潜入任務”である。

 私は毎年、忍者のように日陰から日陰へ移動している。

 時には日陰の中で立ち止まり、「今日はここでドロンしようかな」と真剣に考える。

 実際、何度かドロンした。
 誰にも言っていないだけである。

 暑さと戦っているのか。
 逃げ回っているのか。

 自分でも分からない。

オッサンは意外と繊細

 さらに困ったことがある。

 私は意外と肌が弱い。お腹だけではない。肌もおデリケートである。

 紫外線を浴び過ぎると蕁麻疹が出る。あせももできる。
 日焼け対策を怠ると後が大変だ。

 帽子を被り、アームカバーを着け、日焼け止めをたっぷり塗る。
 まるで秘密工作員である。

 そして帰宅後も終わらない。

 シャワー。
 保湿。
 ケア。

 若い頃はこんなことしなかった。昔は水を被って終わりだった。
 今は違う。放置すると身体中が抗議活動をはじめる。

 オッサンは意外と繊細なのだ。

 しかも私は夏になると脱皮する。

 比喩ではない。
 本当に脱皮する。

 肩。
 腕。
 首。
 そして頭。

 坊主頭なのでよく分かる。頭皮がペラペラ剥ける。

 それを見るたび妻は大爆笑である。
 「また脱皮しとる!」

 「笑い事じゃない」

 「大丈夫、そのうち新しいのが生えてくる」

 私はトカゲではない。
 私は真剣だ。
 妻は笑っている。

 夫婦というのは実に理不尽な制度である。

原因究明

 ここまで来ると私は考える。なぜ私はこんなにも暑さに弱いのか。

 そこで真面目な自分が出てくる。
 調べる。徹底的に調べる。

 遺伝。
 筋肉量。
 体脂肪。
 汗腺。
 暑熱順化。
 性別。
 年齢。

 次から次へと調べる。
 結果として分かったことはこうだ。

 まず遺伝
 持って生まれたものはある。
 なるほど。どうにもならない。

 次。

 筋肉量と体脂肪。
 筋肉はそこそこある。
 脂肪もそこそこある。
 これは少しどうにかなる。

 次。

汗腺
 どうも私は汗っかきではない。
 脇や胸は汗をかくが、全体的には少ない気がする。
 熱を逃がすのが苦手なのかもしれない。
 調べれば調べるほど、私の場合は「もっと汗をかける身体になれ」という話に行き着く。

 次。

暑熱順化
 つまり慣れろということらしい。

 次。

性別
 一般的には男性の方が暑熱順化しやすいらしい。
 ならば私は、その恩恵をどこかに落としてきたのだろう。

 最後。

年齢
 58歳。
 これもどうにもならない。

 若返る予定は今のところない。

そして結論へ

 私は数時間かけて調べた。
 本も読んだ。
 ネットも見た。
 動画も見た。
 メモまで取った。

 その結果、導き出された結論は次の三つだった。

 一つ。
痩せろ。

 一つ。
汗をかけ。

 一つ。
暑さに慣れろ。

 私はしばらく画面を見つめた。

 それだけか。
 いや、もちろん大事なことである。
 科学的にも正しいのだろう。

 しかし、「痩せろ」、「汗をかけ」、「慣れろ」である。

 何時間も調べた結果がこれである。
 小学生でも何となく知っている気がする。

 時間を掛け、調べ、迷い、悩み、考えて、ようやく辿り着いた答えが、実は最初から目の前にあったりする。

 ただ、その当たり前を本当に理解するには、遠回りが必要なのだ。

 正直、暑さに負ける日はあるだろう。
 途中でドロンしたくなる日もあるだろう。

 けど、私は今年の夏も走る。
 日陰を探しながら。
 脱皮しながら。
 オッサンの喘ぎ声を飲み込みながら。

 そして何より、おかやまマラソンのスタートラインで笑うために。

 さぁ、今年も“夏との交渉”がはじまる。
 「暑さに強いランナー」に憧れてる場合じゃない。
 結局のところ、暑さに弱い自分も含めて自分なのである。

 若い頃のようにはいかない。
 疲労も抜けない。
 肌も弱くなった。

 でも、その不自由さの中で工夫しながら前に進むのも悪くない。

 老いは失うことばかりではない。
 笑いのネタが増えるという、大きな収穫もあるのだから。

合掌。
そして、Love & Bowz ✌️


今回の教訓

一、暑さに弱い人間が暑さに強くなる方法を調べると、だいたい「暑さに慣れろ」に辿り着く。

一、老いは衰えではなく、エッセイのネタ供給装置である。


あとがき

 今回のエッセイを書きながら、人間というのは意外と「分かっていること」ができない生き物なのだな、ということです。

 暑さに弱いなら痩せろ。
 汗をかけ。
 暑さに慣れろ。

 文字にすると実にシンプルです。

 しかし、そのシンプルな答えを心から納得するために、私は何時間も調べ、悩み、考え、そして日陰から日陰へ逃げ回りました。

 もしかすると、読んでくださったみなさまの中にも、似たような経験があるかもしれません。

 仕事でも。
 趣味でも。
 人生でも。

 遠回りして、ようやく当たり前の大切さに気付くこと。

 ちなみに私は、この夏もきっと何度かドロンします。
 そして脱皮もします。
 妻には笑われます。

 それでも懲りずに走り続ける予定です。

 さて、おかやまマラソン本番まで、まだまだ物語は続きます。この先、果たして私は暑さと和解できるのか。それとも今年も見事に翻弄されるのか。
 その顛末は、また次のエッセイで。


 最後までお読みいただきありがとうございました。「我流迷走」では、「走る(ラン)」にまつわる「エッセイ(風?)」なものお届けしています。次回作へのモチベアップのため、スキ、フォロー、コメントいただけると嬉しいです。Love & Bowz✌️


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