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螺旋の記憶──Reincarnation:第9章【SFファンタジー】


第9章 翼の覚醒




冬馬の怪我は数日で目立たなくなったが、心には傷が残った。

冬馬の怪我の理由について、担任の岩見先生がその日の出来事と、学校側の今後の対応なども含めて親に電話で報告すると言っていたが、先生が佐々木の暴力についてどういう説明をしたのか、冬馬は帰宅するなり両親に叱責された。



「冬馬。お前は学校に何しに行ってるんだ」


「そうよ、冬馬。女の子の奪い合いで暴力沙汰を起こすなんて」


「僕は暴力は振るってない。向こうが勝手に振るってきたんだ。
それに奪い合いじゃないし」


「それにしてもだな、高校生の分際で、色恋沙汰の問題で学業に支障をきたすことは避けねばいかんぞ」



「色恋沙汰って……なんだよ、それ」

父・慎吾の言葉が古臭く感じて、冬馬は思わず笑ってしまった。
すると母・貴子がピシッと言い放つ。


「冬馬。笑わないでちゃんと聞きなさい!」


「交際相手はどんなお嬢さんなんだ?」

父に聞かれて、どう答えようかと少し迷った。

「どんなって……一番古い記憶ではアトラトナ」


「あ? ……冬馬、お前……ふざけてるのか?」


「ふざけてない、本当の話。彼女は僕の記憶では最初はアトラトナで、その次はエレオノールとして生きていた」



「お前……頭を強く殴られるかしたか?」

慎吾は本気で心配した。
息子がまたおかしなことを言い出した。
言葉を失い、妻と顔を見合せた。


「信じないなら別にそれでもいいよ。でも本当なんだ。色々と複雑なんだよ。
僕と彼女は前世から何度もめぐり逢いと別れを繰り返している。
父さんの日記に記録してあった、小さい頃の僕の言葉は本当だった。
それらの前世を、僕と彼女はブロック宇宙で見て、一緒に前世の人生を体験した。
その宿命みたいなものが今も続いてるんだ。
暴力を振るわれたのは、多分それに関係した理由」



ますます混乱して言葉を失ったままの父母を残して、冬馬は自分の部屋に引き揚げた。


佐々木隼人は、学校に呼び出された保護者と共に、生活指導の教師からの厳しい指導を受け、学校内で露骨に冬馬を避けるようになった。
しかし、代わりに夏美への圧力を強めていた。



「冬馬と別れろ」「お前は俺のものだ」というメッセージが、夏美のスマホに毎日届くようになったと言う。


「もう、耐えられない……」


ある放課後、美術室で夏美が涙を浮かべて冬馬にすがりついた。
冬馬は彼女を抱きしめ、静かに言った。

「夏美は僕が必ず守る。
この翼で、君を自由にする」


第二次世界大戦期が直近の前世だったのか、あれ以来、過去の人生は夢にも幻にも見なくなった。
最後に見たのは、無数の時間軸が、螺旋を描きながら収束していく光景だった。




佐々木から通告が来た。


【今日の放課後、校舎裏に来い。夏美のことで話がある】


冬馬は誰にも告げず、一人で向かった。
校舎裏で待っていた佐々木は、目が血走っていた。

「お前が夏美をたぶらかしたせいで、俺の人生が狂った。
全部、お前のせいだ」

佐々木はポケットからナイフを取り出した。
それは美術室で絵を切り裂こうとした薄刃のカッターナイフではなく、肉や魚が難なく捌けそうなサバイバルナイフだった。


冬馬は後退りながらも、逃げなかった。

「夏美は、誰かの所有物じゃない。
先輩が彼女を苦しめているんだ」


「『夏美』だと?  俺の女を馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえ」



佐々木が一気に間合いを詰めてナイフを突き出した瞬間、冬馬は身を翻した。

佐々木は狂った目でナイフを振りかざし、何度も攻撃を仕掛けてくる。
何度目かの攻撃で刃が腕をかすめ、血が飛び散った。


その時、夏美が駆けつけた。
冬馬は慌てた。彼女が巻き添いになる危険がある。

「夏美!  来るな!」



「先輩、やめて!!
屋上から下を覗いたら、先輩のしていることが見えたの。
今、クラスの子が警察を呼んでもらいに職員室に行ったわ」


「コイツを仕留めたら警察でもどこでも行ってやるよ。どけ!  邪魔だ」


佐々木は夏美を片手で薙ぎ払った。
彼女はよろめき、近くの非常階段の手すりにぶつかった。



冬馬は夏美を守るように立ちはだかった。



「もう、終わりにしましょう。先輩」



「終わらせてやるよ。今すぐこのナイフでな」

佐々木の目は完全に狂っていた。
明らかに、自分の命を狙っていると冬馬は感じた。


ふと、友人からの警告が脳裏をよぎった。

『冬馬、気をつけろ。お前、姫野さんと親しそうに話してただろ?  佐々木先輩がお前のこと睨んでたぞ』

あの夏の日のプール。
あの日の出来事が現時点の『今』に繋がっていた──


佐々木の振りかざしたナイフが陽光を反射して、冬馬の視界が一瞬白く染まった。

その瞬間、背中に激しい熱が走った。
それは冬馬を日々苦しめていた痛みとは全く違う、飛翔前に翼が立ち上がるような感覚を伴う開放的な熱感だった。


翼の形をした痣が、焼けるように疼いた。



(この翼で……守る!)


冬馬は佐々木に飛びかかり、ナイフをはたき落とした。
教師と生徒たちが駆けつけるまで、二人はもみ合った。

事件後、佐々木は停学処分となり、警察にも事情聴取を受けることになった。
しかし、冬馬は知っていた。
これは、まだ終わっていない。



夏美は保健室で冬馬の傷の手当てを手伝いながら、震える声で言った。


「冬馬……もう、危ないことはしないで。
私、冬馬がいなくなったら……生きていけないよ」


冬馬は微笑みながら、静かに答えた。


「大丈夫。
僕の翼は、夏美を守るためにあるんだ。
今日それがはっきり分かった」

片翼の形の痣は、冬馬の左肩甲骨で静かに息づいていた。


そして、運命の最終章が、静かに幕を開けようとしていた。


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