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【3賢人会議⑰・ジャングリア特別編・前編】6.8兆円の夢と、口コミ2.7点の現実。沖縄北部の巨大テーマパークは、地方創生の「勝ち筋」となるか

沖縄北部の深い森の中に、巨大なテーマパークが生まれた。

2025年7月、名護市に開業した「ジャングリア」。USJの立て直しで知られるマーケター・森岡毅氏率いる株式会社刀が手がけた、総事業費約700億円のプロジェクトだ。関西大学の試算によれば、開園後15年間の経済波及効果は約6兆8,080億円、雇用創出は88万人超。沖縄県全体のGDPを揺るがすほどの数字だ。

しかし現実は、その数字通りには動いていない。

旅行情報サイトの口コミ評価は2.7点(2026年2月時点)。入場者数は目標の半分との報道。週刊誌には「倒産危機」の文字まで踊る。那覇から車で約1時間半。沖縄北部という立地の壁も、重くのしかかる。

地域活性化塾で13年間、地域創生・活性化を指導してきた私には、この状況に覚えがある。本物の変革は、いつも産みの苦しみの中から生まれてきた。しかしそれが「苦しみ」で終わるか、「突破口」になるかは、紙一重だ。

今回の3賢人会議は、その紙一重の正体を探るために開かれた。私は、まず聞くことにした。

「ファクトの壁」が突きつけられる

地域経済の研究者が並べた「影の数字」

地域経済の研究者が、資料を静かに机に置いた。

「まず、光の部分は認める。初年度だけで経済波及効果約6,582億円、雇用7万人超という試算は、沖縄北部にとって前例のない規模だ。森岡氏が事前に算出した成功確率73%という数字も、単なる希望的観測ではなくデータに基づいている」

「しかし」と研究者は続けた。

「現実の数字も見なければならない。開業半年で公式発表の来園者数は約65万人。しかしパーク単体の入場者は目標の半分の約50万人との内部告発がある。アクセスの問題に対し、渋滞対策として交差点の改良や信号機の移設が事前に実施された結果、開業後の大規模な渋滞は報告されておらず、インフラ整備の面では一定の成果が出ている。

研究者は口コミの具体例を読み上げた。アトラクションの整理券がアプリ抽選制に依存し、予約方法が統一されていない。基本チケット(大人6,930円)に加えて、プレミアムパス(1,870円〜2,970円)、バギー体験、駐車場と追加料金が次々と発生する。空いている状況でも特定アトラクションで1時間以上待たされる。目玉施設の「ダイナソーサファリ」が予定より早く受付終了する。

「さらに深刻なのは、事業の主力メンバー5名の退社・離脱が報じられていることだ。ハコモノ(建物や施設だけが立派で、中身が伴わないプロジェクトのこと)を作れば地域が変わるという幻想は、これまで何度繰り返されてきたか。私は、持続可能性に強い疑問を持っている」

ビジネス戦略家の「徹底抗戦」

ビジネス戦略家が、研究者の言葉が終わるのを待ちきれないように口を開いた。

「その数字は全部知っている。その上で言う。今見えている混乱は、ゼロからイチを生み出す、避けられない産みの苦しみだ

戦略家はジャングリアのビジネスモデルの本質を語った。総事業費約700億円のうち、土地を平らにする造成工事)には資金を投じていない。沖縄北部の起伏ある自然環境をそのまま活かす設計だ。浮いた資金を「興奮」「贅沢感」「開放感」を提供する体験設備に集中投資する。これは「ローコスト・ハイリターン」という、USJの再建でも使われた刀の核心戦略だ。

「USJだって、再建直後は批判の嵐だった。しかし森岡氏は現場の熱量で突破した。口コミ2.7点は、過去の話だ。3年後の話ではない

「そして見落としてはならないのは、立地の『弱点』が実は『強み』になり得るということだ。那覇から遠いからこそ、沖縄北部にしかない自然が守られている。その自然こそが、他のテーマパークには絶対に真似できない唯一無二の資産だ。弱点と強みは、戦略次第で入れ替わる

第三・第四の視点が加わる

未来社会の専門家が提示した「関係人口」の視点

未来社会の専門家が、二人の議論を静かに聞いてから口を開いた。その声は落ち着いていたが、言葉の中に鋭さがあった。

「二人の議論は、どちらも『ジャングリアに来た人』の話をしている。私が問いたいのは、『来られない人』をどう仲間にするかだ」

専門家はDAO(特定のリーダーに権限が集中せず、参加者全員がルールに基づいて意思決定に関与できる分散型の組織)とNFT(デジタルデータに唯一性を持たせる技術で、所有権の証明に使われる)の活用事例を挙げた。

鳥取県智頭町や静岡県松崎町が連携して設立した「美しい村DAO」では、デジタル村民を募ることで関係人口(その地域に住んでいないが、継続的に関わりを持つ人々)を500人増加させた。特産品や限定グッズを受け取れるNFTを発行し、デジタル村民が地域の意思決定に関与する仕組みだ。

人口約4,600人の山形県西川町では、日本初の「デジタル住民票NFT」を発行し、人口を大きく上回る13,440個の購入需要を集めた。NFTの一次販売(1,000円)だけでなく、二次販売時のロイヤリティ(転売されるたびに発行元に入る収益)も新たな財源になっている。

「ジャングリアは今、来園者の口コミと入場者数だけで評価されている。しかし本当の地方創生は、物理的に来られない全国のファンを『関係人口』として取り込み、沖縄北部の自然や文化に継続的に関わってもらう仕組みを作れるかどうかにかかっている」

国家観光政策の専門家が問うた「日本の勝ち筋」

国家観光政策の専門家が、それまで腕を組んで聞いていた姿勢を正した。

「少し視座を上げて話をしたい。ジャングリアの問題は、沖縄北部だけの話ではない。日本全体の問題だ

日本の労働力と国内市場の縮小は不可避だ。少子高齢化が進む中、都市部に集中する富とインバウンド(訪日外国人旅行)の活力を地方へ還流させることは、もはや国家的な急務になっている。その意味で、ジャングリアが沖縄北部という地方に巨大な観光資源を生み出そうとする試みは、日本の観光政策のモデルケースになり得る可能性を秘めている

「しかし」と専門家は続けた。「ハコモノ建設だけに依存したモデルは、必ず壁に当たる。近年、国はGDPだけでなく『地域幸福度(ウェルビーイング)指標(地域住民の暮らしやすさや幸福感を数値化して政策評価に使う指標)』を用いた政策評価を推進し始めている。ジャングリアが単なる『本土資本による自然開発』と地元に受け取られてしまえば、どれだけ経済効果の数字が大きくても、持続可能な地方創生とは言えない

専門家は静かに、しかし確信を持って言い切った。

「沖縄県民の所得が上がったか。地域に誇りが生まれたか。若者がここで働きたいと思うようになったか。その主観的な幸福度の変化こそが、日本経済活性化の真のヒントになる。数字の経済効果と、人間の幸福度。この両輪が揃ったとき初めて、ジャングリアは日本の勝ち筋になり得る」

地域経済の研究者が、静かに頷いた。ビジネス戦略家は、少し表情を変えた。

4人の言葉が、会議室の空気に重なり合った。

研究者の「影の数字」は正しかった。戦略家の「産みの苦しみ論」も説得力があった。未来社会の専門家が示した「関係人口」という視点は、二人が見落としていた地平を開いた。そして国家観光政策の専門家が問うた「県民の幸福度」という言葉が、最も深いところに刺さった。

しかしそれでも、一つの問いだけが、会議室に響き続けていた。

果たしてこの巨大プロジェクトは、沖縄北部の新たな成長エンジンとなり得るのか」

誰も、まだ答えを持っていなかった。

後編では、この問いに私自身が踏み込みます。13年間、地域活性化塾で沖縄の地域活性化を指導してきた現場の視点から、4人の議論を昇華させます。日曜にお届けします。

今週も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。スキとフォローをいただけると、後編を届ける燃料になります。続きはこちらからどうぞ。↓

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