【3賢人会議⑱・ジャングリア特別編・後編】6.8兆円の夢と、口コミ2.7点の現実。沖縄北部の巨大テーマパークは、地方創生の「勝ち筋」となるか
前編の末尾で、重い問いが会議室に残った。果たしてこの巨大プロジェクトは、沖縄北部の新たな成長エンジンとなり得るのか」。
4人の賢人が沈黙している中、私はゆっくりと口を開いた。数字の話は、もう十分だ。私には、語らなければならない「現場の話」があった。
現場知への昇華
現場知工房が語り始めた「あの日の記憶」
「一つ、話をさせてほしい」
昨年の地域活性化塾でのことだ。ジャングリアの運営会社であるジャパンエンターテイメントから、一人の地域連携セクションマネージャーが、塾生たちを前に講演した。
開業後の混乱を乗り越え、現場がオペレーションの練度を高めて来た頃だ。渋滞問題、地域住民との関係構築、北部の事業者との連携。塾生たちからの鋭い質問に、そのマネージャーは一つひとつ、誠実に向き合った。完璧な答えとまでは行かないが、その時の最大の努力をしているのが十分に伝わった。そして逃げなかった。
「私がその場で感じたのは、この人たちは沖縄北部の未来から逃げていない、本気だということだ」
地域経済の研究者が、少し表情を変えたのを私は気づいた。
「口コミ2.7点という数字は現実だ。運営の混乱も事実だ。しかし私には、あのマネージャーの目が忘れられない。数字の向こう側に、必死に現場と向き合っている人間の顔がある。それを忘れて数字だけを語るとき、私たちは最も大切なものを見失う」
教え子たちの「人生最後の挑戦」
ビジネス戦略家が、静かに身を乗り出した。「現場で、何が起きているのか」と尋ねた。
私は少し間を置いてから、答えた。「起きている。いや、動いている人々がいる」
過去の地域活性化塾の教え子たちの中に、二人がいた。どちらも県内の大手組織で、長年キャリアを積んできた人間だ。実績もあり嘱望された人材であった。このまま穏やかに仕事を続ける選択肢も、十分にあったはずだ。
その二人が、相次いでジャングリアへの転職を告げてきた。
「人生最後の仕事として、挑戦したい」
その言葉を、二人は爽やかな笑顔で私に伝えてくれた。悲壮感はなかった。覚悟の顔だった。私は何も言えなかった。いや、何も言う必要がなかった。
未来社会の専門家が、小さく息を飲んだ。
「どんなに素晴らしいビジネスモデルも、最新のテクノロジーも、最後は現場で泥をすする『人間の熱量』がなければ動かない」
私はゆっくりと、4人を見渡した。
「研究者よ、あなたの数字は正しい。戦略家よ、あなたの戦略論も正しい。専門家よ、あなたのデジタル関係人口の視点も、必ず必要になるときが来る。そして観光政策の専門家よ、あなたが問うた県民の幸福度という視点は、最も本質を突いている。しかしそのすべての前に、一つだけ言いたい。人は、何かに本気で挑む『人』に惹かれる。その熱量が、最終的にすべてを動かす」
会議室が、静かになった。
「産みの苦しみ」の先にあるもの
そしてジャングリア自身も、現実から逃げていない。
2026年4月29日。事前予約もアプリ抽選も一切不要で、一度に48名が乗車できる大型アトラクション「やんばるトルネード」が導入される。口コミで最も多かった「使いづらい」という声に、正面から応えた形だ。
さらに見落としてはならない数字がある。総面積約120ヘクタールのうち、現在稼働しているのは約半分の60ヘクタールに過ぎない。残りの広大な敷地が、まだ手つかずのまま眠っている。この余白こそが、ジャングリアの「まだ始まったばかりだ」という最大の証拠だ。
口コミ2.7点は、過去の話だ。
入場者数が目標の半分だという報道は、開業半年の話だ。主力メンバーの離脱も、混乱した運営も、那覇からの遠い道のりも、それらはすべて、壮大な挑戦が産声を上げる瞬間に必ず伴う、避けられない苦しみだ。
USJが再建の道を歩み始めたとき、誰が15年後の姿を信じただろうか。沖縄北部の深い森に700億円を投じると聞いたとき、どれだけの人間が「正気か」と思っただろうか。
そして数字にも、確かな変化が現れ始めている。
パーク内で快適な体験を守るため、1日当たりの来場者数は現在5,000人程度を上限としている。年末年始にはその上限を超える来場者が訪れた。「やんばるトルネード」の開業を機に、同社はこの上限を引き上げる方針だ。
波及効果は、パークの外にも広がっている。名護市、本部町、恩納村のオフィシャル・パートナー・ホテル4施設では、ジャングリア開業前と比べて稼働率が約10%増加したそうだ。さらに3月末には沖縄美ら海水族館との周遊セットチケットも発売され、北部地域全体を一つの観光圏として育てる動きが始まった。
これは、ジャングリアが単独の施設で完結しようとしていないことの証だ。やんばるの大地に根を張り、地域全体を巻き込みながら成長しようとしている。

そして4月23日、さらに新たな動きが発表された。
夏の暑さ対策として、大型ショー会場「ブリーズアリーナ」後方に約260人が同時に利用できる屋根付き休憩スペースを設置する。ミストファンの設置、ベンチ&パラソルの前年比約40%増設、花王「ビオレ」との協業による冷感グッズの自動販売機。「昨年の反省を生かした」と同社は明言している。
口コミで上がった不満に、一つひとつ正面から応えている。これは言い訳ではなく、改善の記録だ。
ジャングリアの現在地は、失敗ではない。これは壮大な産みの苦しみの只中にいるのだ。
関西大学が試算した6.8兆円という数字は、15年後の話だ。今日ではなく、明日でもなく、現場で汗をかき続けた先にある数字だ。そしてその数字を現実に変えるのは、データでも戦略でもなく、沖縄北部の緑の中で、今日も泥まみれになって働いている人間たちだ。
記事を締めくくる前に、どうしても言いたいことがある。
地域活性化塾を巣立ち、爽やかな笑顔でジャングリアへ飛び込んでいった二人の教え子へ。
あなたたちが「人生最後の仕事」と言ったとき、私の胸に熱いものが込み上げた。地域活性化を一緒に考えてきた仲間が、その学びを沖縄北部の未来に賭けようとしている。指導者として、これ以上の喜びはない。
口コミが2.7点でも、訪れたこともない人々がSNS上でたたいても、あなたたちが現場にいる限り、この挑戦は終わらない。どうか、今日もやんばるの大地を踏みしめてほしい。その大地の中にこそ、沖縄北部の未来の種が眠っている」
そして今、ジャングリアの現場で戦っているすべてのスタッフの皆様へ、あなたたちの熱量を、深くリスペクトしています。
やんばるの森よ、どうかこの挑戦者たちを守ってほしい。
今週のトピックは、私にとって数字や戦略を超えた、人間への問いでした。安定を手放して本気で挑む人間の姿は、いつの時代も、見る者の心を動かします。ぜひ身近な誰かと、ジャングリアについて話題にして下さい。
今週も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。スキとフォローをいただけると、また来週も現場の知恵を届ける励みになります。
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